記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

ジニアの行動2

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ペディアの書いた魔法陣の中に入ると、真っ暗な世界だった。平衡感覚を失いそうな世界だったが、この精神世界のどこかにペディアが居るらしい。彼女を探すために1歩、足を踏み出す。

ペディアの時と同様、ポチャンと波紋を描くような水の音がした。歩く度に聞こえるそれを楽しみながら宛もなく歩いていると、幼い誰かが立っていた。

思わず声を上げる。


「ねぇ! あなたは誰?」


言わないとすぐに消えてしまいそうな存在は、ゆっくりとジニアの呼びかけで振り向いた。長髪の黒髪に青い瞳。色白の女の子だった。無表情で感情が無いように見える。

幼い少女は答えない。ジニアを見て、敵か味方か見定めているようだった。怖がらせないように微笑みながら、何故ここに来たのかを説明する。


「私はジニア。リュカスさんに頼まれて、ペディアとフェインを助けるために来たの」


幼い少女はそれでも無言だった。数分の沈黙の後、口を開いた。


「ペディアお姉ちゃんはすぐそばに居る」


その言葉を聞いた瞬間、世界が変わった。幼い少女は居ない。代わりに極寒の如く寒い風と尋常ではない数の抉れた地面があった。そして、一際目立つ青と黒の禍々しい柱。


「ペディアは……」


足場の悪い地面から、風魔法を使って宙に浮きながら移動する。ペディアを捜そうと少し移動すると、叫ぶような小さな声が聞こえた。


「そう! 助けに来っ……?!」


声につられて振り向くと、柱から数十mほど離れたところでペディアが転んでいた。


『……だめ…、逃げ……て…』


弱々しい、苦しそうな声が頭に響く。ペディアは助けたい一心で叫び続けていた。


「どうして? 私はフェインを助けたいだけなのに!」


ペディアは柱に向かって、注意深く歩く。しかし、足場が悪いために歩きづらそうだった。
ペディアのボヤく声が、近づいたことではっきりと聞こえる。


「フェインに近づくのに何かいい方法は……」

「そんな時は私に任せなさいよっ!」


ジニアが力強い発言をすると、驚いたようにペディアが振り向く。その顔は驚きと不安な顔で染まっていた。


「ジニア! どうしてここに……!?」


……聞かれると思った。でも、精神世界に入り続けるのは無理がある。フェイン自身の身体に、フェインとペディアとジニアの魂、全部で3つ入っていることになる。
そんな状態で長時間いるのはフェインの体力を膨大に消費する上に拒絶反応を起こしかねない。


「そんな話は後よ! いまは時間がないから、私の独断で行かせてもらうわ。ペディア、あの子を早く解放してあげて!」


ジニアは右手をペディアにかざし、風の力を使って禍々しい柱の前まで運ぶ。ペディアが行きたがっていた場所だと判断したからだ。

無事に運び終えると、柱に背を向けて現状を見渡す。……さっきより地面が崩れてる気がする。


「さて……、私にはフェインを助けてあげられるだけの力はないから、現状維持に努めようかな」
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