記憶のカケラ

シルヴィー

文字の大きさ
上 下
27 / 42
ストーリー

アガーべの恐怖

しおりを挟む
夢の中で、幼い女の子の姿を最後にペディアはハッと目を覚ます。森の中だった。現実に戻ってきたらしいことにホッとしたが、ペディアは汗だくになり、髪や服がへばりついて気持ちが悪かった。

左腕の契約紋を確認してみると、黄色に戻っていたが、いつもより契約の効果が薄くなっている気がする。その事に疑問を持ちながら立ち上がり、汗を流すために川を求めて歩き始めた。

「ペディ姉……」

少しして消え入りそうな声に振り向くと、大粒の涙を堪えようと自身の服を掴みながらこちらを見るアガーべの姿があった。

「アガーべ。どうしたの? 泣きそうな顔して……」

「ペディ……!! 姉ちゃん怖い! 助けて!!」

アガーべはペディアに駆け寄りぎゅっと抱きついて、堰切せききったように泣き出した。

「ちょ……、大丈夫?? 何があったの?」

「ねぇ、ペディ姉、僕これからどうなるのかな。このままだと僕消えちゃう……!! 嫌だ! 消えたくない!! ペディ姉ともっと一緒に居たいよ!」

ペディアはなんの事か主旨を掴みかねて、とりあえず落ち着いてもらうために背中をさすった。すると、大型犬サイズになったリュカスが近づいてきた。

『ここに居たか、ペディア。捜したぞ』

「あ……ごめん」

『川に行くんだろう。付いてこい』

リュカスはそのまま方向転換して川に向かって歩き出した。

「ありがとう。アガーべ、付いてきてくれる?」

「グスッ ……うん…」


川に着いて、ペディアまず汗を流すために顔を洗ったりしながら体を清めると、すぐには帰らずその場で少し話をした。

『ペディア、聖水これを飲んでおけ』

「……ありがとう。アガーべの分は?」

『逆に不具合が起きる故、必要ない。ところで、おぬしあの者ルアンの攻撃を貰ってしまったわけだが、どこか悪いところはないか?』

「特になにも……。ここどこ?」

ペディアは見慣れない周囲を見回しながら聞く。アガーべはリュカスの背中の上だった。

『我らは街の住人のように1つの場所に定住するようなことはせぬ。おぬしの知るあの拠点は、夏の暑さには耐えられぬ故、北に移動している途中なのだ。敵に拠点を知られる前に移動するつもりでもあったから、好都合だ』

「へぇ……。アガーべ、落ち着いた?」

ペディアはリュカスの言う意味がよく分からず生返事をした。アガーべはリュカスの背に顔を埋めたままピクリとも反応しなかった。

『おぬし、いつまでそうしているつもりだ。いづれこうなる運命であることは初めから分かっていることだろう?』

「でも……、ペディ姉と一緒にいたい…」

『いま、一緒にいるではないか。安心しろ、お前が消えたところでどうとなるものでもない。しかるべきところに戻るのみ』

「でも! ヒッ……」

アガーべはガバッと顔を上げると、目の前にいつものローブとフードを被ったフェインが居た。

『でもでもってうるっせぇな。殺っ──』

「うわっ! ペディ姉ー!」

「ちょっと、リュカス!! それはないでしょ!」

ペディアは突然現れたフェインの姿にも驚いたが、いきなりリュカスが立ち上がって、アガーべとフェインを振り落とす様にもっと驚いてしまった。

慌てて直球で飛んできたアガーべを抱き止める。が、あまりの勢いに数回地面を転がった。

『あーあ、不意打ち使えなかった。まあいいさ、戦いはこれからだっ!』

同じように振り落とされたフェインは、フェインではなかった。受け身を取り、ゆらりと体を起こすのは、フェインを乗っ取るの方だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...