記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

フェインの豹変

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リュカスは数日かけて藍色のローブの子もとい、フェインについて話してくれた。フェインはペディアを警戒している風のため、彼女に気づかれないであろうタイミングを狙って、話しを聞いていると結構な日が経ってしまった。

「リュカス、あの子のことについて話してくれるのは嬉しいけど、どうしてこんなに教えてくれるの?会ってまだ間もないのに」

『我がそうすべきだと思ったからだ。我はあるじとおぬしとの関係を多少なりとも知っている。しかし、主導権はあるじにある。あるじが正体を明かさぬ限り、我は全てを話すことは出来ぬ』

ペディアは少し考えて言う。

「私がいた場所は、あなたの言う"執念の森"で合ってるの?」

『そうだな。幼き頃のあるじがいた場所でもある』

「……ちょっと気になることがあるの。私、1度家に帰r……」

『ならぬ』

ペディアが最後まで言い終わらないうちに、リュカスは引き留めた。突然の真剣味を帯びた声にたじろぐ。

「えっ、どうして? 私の家なのよ? 別に帰ってもいいでしょ?」

充分過ぎるほど洞窟どうくつでリュカスに話を聞きながら生活をした。けど、一時的なものであって、本当の私の家は街の中にある。実際のところ、アガーべから家が散乱していると聞かされたが、父ならぬ誰かに殴られてから1度も家に帰っていないし、帰りたいという気持ちが強いのも事実だ。

リュカスが何か言いかけようとしたとき、フェインが狩りから戻ってきた。あれから回復して、ペディアが心配するまでもなくなり、木々を器用に飛び移る様には驚いたものだ。背中に熊、腕に鳥のような魔物を持っている。

あるじ、ペディアは家に帰りたいそうだ』

知って知らずか、フェインはそのまま洞窟どうくつの中に入っていった。と、思うとすぐに戻ってきて、かすかな声で途切れ途切れに言う。

「……い………ぁ、た……」

今までフェインの声を聞いていなかったこちらとしては嬉しいものの、完全には聞き取れず困ってしまった。

リュカスはそれに気づいて通訳してくれた。

あるじは、行くなと言っている』

「なんでよっ! 私の家なのに。私は家に帰りたいの! もう充分ここにいたよ? 私を引き留めないで!」

2人して何故引き留めるのかと、思わず声を荒らげてしまった。ペディアの気に当てられたか、フェインの様子が打って変わった。

「…に………く…な。………め…」

ペディアは戦慄せんりつした。

なに…?この気配…。怖い。

父ならぬ誰かの気配以上に、感じたことのないフェインの雰囲気オーラ気圧けおされていると、ペディアとフェインの間にリュカスが立ちはだかった。

しずまれ、闇の子よ。ここにお前の出番はない』

『またお前か。どこまでも俺の邪魔をする』

フェインが戦闘態勢を取り、懐から短剣を取り出す。リュカスは周囲の木々を壊さず、尚且なおかつ戦闘できるギリギリの大きさに変化へんげ対峙たいじした。

フェインから聞こえてきた流暢りゅうちょう念話ねんわの声は男性のもので、先程聞いた声とは全く違っていた。それよりも、ペディアは突然の展開に混乱してそれどころではない。

「ちょ、ちょっと…?!」

『下がれ、小娘。忠誠ちゅうせいちかあるじはここに居ない』

フェインがいない…? フェインはそこにいるじゃない。何を言って…?

「ど、どういうこと…??」

『話は後だ』

リュカスは会話を切り上げた瞬間、風を斬るようなフェインの攻撃が目の前に繰り出された。リュカスが咄嗟とっさ軌道きどうを反らし、ペディアに当たるのをけた。ペディアはあまりの速さに体が追いつかず固まる。

次に起こった出来事は、ペディアには認識出来なかった。残像すら見せず、聞こえるのは高い攻撃音だけだった。


──フェインには適わない──


ペディアはそうさとった。

魔法学校で基本的なことを学び、卒業してからはギルドで依頼を受けて魔物の討伐をしてきた。そこそこ強い魔物なら1人でも倒せるくらいの実力はあるが、ペディアがどれだけ訓練や特訓をしても到底とうてい適わない程の実力をフェインは持っている。

気配を探るが、2人がどこにいるか分からない。下手に動けば殺されそうだと思い、その場で身を固くして戦闘が終わるのを待つ。


しばらくして、戦闘音が聞こえなくなった時、ペディアはあたりを見回した。ようやく姿を現したフェインとリュカスは少し離れた場所に居た。フェインの姿を認識した時、言い様のない悲しみが涙となってあふれ出てくる。

「……フェイン…?」

急速に涙で視界がにじむ中、フェインがスローモーションのように倒れるのが目に入った。
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