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花屋の亭主
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エリカが家に戻り、リビングにいた父に声をかける。
「ただいま、お父さん!」
「おかえり、エリカ。どうしたんだ? そんなに息を切らして」
シルディックは新聞を読んでいたらしく、半分顔を覗かせて疑問符を浮かべる。エリカはスタスタと父に歩み寄り、手紙を渡した。
「泉にいたら、手紙が飛んできたの。読めないから読んで欲しいの」
「……は? 手紙が飛んできた?? エリカは何を言っているんだ」
シルディックは意味が分からず、紙に羽が生え、ふわふわ飛んできた様子をイメージしてしまった。
「いいから、読んでよっ!」
「はいはい……」
シルディックは手紙にサッと目を通し、顔を上げる。
「……ごめん、俺も分からん」
エリカは口を尖らせ困ったような顔をした。
「誰か読める人はいないの?」
「うーん……、読める人…なぁ……」
シルディックはしばらく考え込んで、思いついたような顔をした。
「そういえば、知り合いに花屋をしてる人がいる。そこの家主が読めるかもしれん。け……」
「本当?! 早速行こう!!」
「あ! ちょ……」
シルディックは話の続きを話す前にエリカに襟首掴まれてそのままの勢いで家を出た。そして、数百メートルほど走った辺りで加速していた勢いが弱まった。
「……そういえば、道聞いてなかったわ」
ようやく気づいたようにエリカは振り返る。
「え、エリカ…、離してくれ…。首が痛い」
「あ、ごめん」
「痛てて……。エリカは後先考えずに行動するんだから…。
人の話を最後まで聞け! あと、方向真逆!」
シルディックは首をさすりながらエリカを叱る。
来た道を戻りながら花屋に向かうと、いつもと違う雰囲気を感じた。いつもは開店しているはずのお店が閉まってる。
「……あれ?」
エリカが首を傾げると、お店のシャッターの隣にある玄関の扉が開いて、杖を突いたおじいさんが出てきた。いつもは穏やかなのに、この時ばかりは厳しそうな表情をしており、エリカとシルディックを射貫くような目で見ていた。
「やっと来たね。早く中に入れ」
「お邪魔します」
「お、お邪魔します……」
エリカは感じたことない気配に緊張しながら入ると、さらに空気が張り詰めているように思えた。チラリとお父さんを見るが、特に態度が変わってない気がする。……何か知ってるの?
おじいさんは畳の部屋奥が定位置なのか、座布団に座った。腰掛けるように言われ、エリカとシルディックも座布団に座る。おじいさんは煙管に火をつけ、煙を吹かしながら言う。
「そろそろ頃合いだと思っていたよ。それで、何の用だね?」
さっきからこの人は何を言っているんだろう? 頃合い? てか、さっきようやく来たとか言ってた…。お父さんは念話が出来ないから、なんの連絡も入れてないはず…。どういうこと?
シルディックは「はい。」と返事をし、エリカから受け取った手紙2枚をおじいさんに渡した。
「この手紙です。俺たちじゃ読めないので、読める方にお願いしたいと思い、馳せ参じた次第です」
「ふうむ…」
おじいさんは手紙とシルディックを交互に見、老眼鏡を掛けて、手紙を手に取って読み始めた。それから数分が経ち、眼鏡の隙間からエリカを見やる。エリカはギクッとしながらおじいさんを見ると、話しかけられた。
「お前がシルディックの娘、エリカかい?」
「はっ、はい!」
「……良い。エリカ、お前にはこの手紙は早い…。いや、出来れば、聞かないでほしいくらいだが…」
おじいさんはそこで一拍置いて、シルディックに顔を向けた。
「これはワシらの領域だ。それでも、聞くか?」
「!」
シルディックはおじいさんの言っている意味が分かっているらしく、一瞬驚いた表情をした。
「いや…、既にお前たちシャーゴット家は対象になりつつある…。特に、シルディック。お前はあの泉に選ばれた者だ」
「……そうですね…。それは重々承知しています。噂だけを聞いて行ったつもりがあのようなことになってしまったんですから…」
エリカはシルディックとおじいさんのやり取りを見るが、一体何を話しているのか、全く分からなかった。
私に聞かせたくない内容? おじいさんの領域? あの泉が何と関係があるの??
どんどん話が進んで、置いてけぼりにされてしまった。
ふとおじいさんとお父さんを観察する。
おじいさんは栗皮色の和服をキッチリと着ており、タンスやちゃぶ台など、全て和の物で統一されていた。
お父さんは…、いつも通り、緑を基調とした服を身につけており、いつも通りの態度で振舞っている。ただ、ほんの少しだけ、ピリッとした雰囲気を感じるけど、ほとんど優しい気配がして安心する。
「エリカ、お前はどう思う?」
じぃーっとお父さんを観察していたせいで、いきなり目が合ってドキッとしてしまった。
「え、ど、どう……とは? てか、なんの話してたの?」
「手紙の内容聞くかどうかだよ。エリカのことだから、多分聞くんだろうけど、確認。ただ、聞いてしまったら、後には引けないよ」
「き、聞く! もちろん、聞くに決まってるでしょ!」
今度はおじいさんからも聞いてきた。
「これを聞けば、お前は対象となる。口外無用。もし、誰かに話したら、その時点でお前の命はないと思え。いいな?」
「……え…、そんなにヤバイ内容なの?」
エリカはようやく事の重大さに気づいて狼狽える。
「だから聞いてるんだよ。別に、無理に聞く必要はない。
今までの事だったら、俺が泉に行ったせいでこうなったから、責任は取らないといけないけど、ここから先はエリカ、お前の決断次第だ。ひとつの選択が人生を左右することになる。
このまま平和な日常で、学校行ったり、仕事したりするのもひとつの人生。この話を聞いて、別の人生を歩む道もある。
今すぐ決める必要はな……」
「いいよ。聞く。ここでラリサを捜すのやめたら、なんのための10年間だったのか分からないもん」
シルディックの言葉を被せてエリカは決断をした。その目は強い意志が宿っており、シルディックとおじいさんはエリカに気づかれないように目を伏せた。
「……分かった。では、読むぞ…」
おじいさんの重々しい声が静かな部屋に響いた。
「ただいま、お父さん!」
「おかえり、エリカ。どうしたんだ? そんなに息を切らして」
シルディックは新聞を読んでいたらしく、半分顔を覗かせて疑問符を浮かべる。エリカはスタスタと父に歩み寄り、手紙を渡した。
「泉にいたら、手紙が飛んできたの。読めないから読んで欲しいの」
「……は? 手紙が飛んできた?? エリカは何を言っているんだ」
シルディックは意味が分からず、紙に羽が生え、ふわふわ飛んできた様子をイメージしてしまった。
「いいから、読んでよっ!」
「はいはい……」
シルディックは手紙にサッと目を通し、顔を上げる。
「……ごめん、俺も分からん」
エリカは口を尖らせ困ったような顔をした。
「誰か読める人はいないの?」
「うーん……、読める人…なぁ……」
シルディックはしばらく考え込んで、思いついたような顔をした。
「そういえば、知り合いに花屋をしてる人がいる。そこの家主が読めるかもしれん。け……」
「本当?! 早速行こう!!」
「あ! ちょ……」
シルディックは話の続きを話す前にエリカに襟首掴まれてそのままの勢いで家を出た。そして、数百メートルほど走った辺りで加速していた勢いが弱まった。
「……そういえば、道聞いてなかったわ」
ようやく気づいたようにエリカは振り返る。
「え、エリカ…、離してくれ…。首が痛い」
「あ、ごめん」
「痛てて……。エリカは後先考えずに行動するんだから…。
人の話を最後まで聞け! あと、方向真逆!」
シルディックは首をさすりながらエリカを叱る。
来た道を戻りながら花屋に向かうと、いつもと違う雰囲気を感じた。いつもは開店しているはずのお店が閉まってる。
「……あれ?」
エリカが首を傾げると、お店のシャッターの隣にある玄関の扉が開いて、杖を突いたおじいさんが出てきた。いつもは穏やかなのに、この時ばかりは厳しそうな表情をしており、エリカとシルディックを射貫くような目で見ていた。
「やっと来たね。早く中に入れ」
「お邪魔します」
「お、お邪魔します……」
エリカは感じたことない気配に緊張しながら入ると、さらに空気が張り詰めているように思えた。チラリとお父さんを見るが、特に態度が変わってない気がする。……何か知ってるの?
おじいさんは畳の部屋奥が定位置なのか、座布団に座った。腰掛けるように言われ、エリカとシルディックも座布団に座る。おじいさんは煙管に火をつけ、煙を吹かしながら言う。
「そろそろ頃合いだと思っていたよ。それで、何の用だね?」
さっきからこの人は何を言っているんだろう? 頃合い? てか、さっきようやく来たとか言ってた…。お父さんは念話が出来ないから、なんの連絡も入れてないはず…。どういうこと?
シルディックは「はい。」と返事をし、エリカから受け取った手紙2枚をおじいさんに渡した。
「この手紙です。俺たちじゃ読めないので、読める方にお願いしたいと思い、馳せ参じた次第です」
「ふうむ…」
おじいさんは手紙とシルディックを交互に見、老眼鏡を掛けて、手紙を手に取って読み始めた。それから数分が経ち、眼鏡の隙間からエリカを見やる。エリカはギクッとしながらおじいさんを見ると、話しかけられた。
「お前がシルディックの娘、エリカかい?」
「はっ、はい!」
「……良い。エリカ、お前にはこの手紙は早い…。いや、出来れば、聞かないでほしいくらいだが…」
おじいさんはそこで一拍置いて、シルディックに顔を向けた。
「これはワシらの領域だ。それでも、聞くか?」
「!」
シルディックはおじいさんの言っている意味が分かっているらしく、一瞬驚いた表情をした。
「いや…、既にお前たちシャーゴット家は対象になりつつある…。特に、シルディック。お前はあの泉に選ばれた者だ」
「……そうですね…。それは重々承知しています。噂だけを聞いて行ったつもりがあのようなことになってしまったんですから…」
エリカはシルディックとおじいさんのやり取りを見るが、一体何を話しているのか、全く分からなかった。
私に聞かせたくない内容? おじいさんの領域? あの泉が何と関係があるの??
どんどん話が進んで、置いてけぼりにされてしまった。
ふとおじいさんとお父さんを観察する。
おじいさんは栗皮色の和服をキッチリと着ており、タンスやちゃぶ台など、全て和の物で統一されていた。
お父さんは…、いつも通り、緑を基調とした服を身につけており、いつも通りの態度で振舞っている。ただ、ほんの少しだけ、ピリッとした雰囲気を感じるけど、ほとんど優しい気配がして安心する。
「エリカ、お前はどう思う?」
じぃーっとお父さんを観察していたせいで、いきなり目が合ってドキッとしてしまった。
「え、ど、どう……とは? てか、なんの話してたの?」
「手紙の内容聞くかどうかだよ。エリカのことだから、多分聞くんだろうけど、確認。ただ、聞いてしまったら、後には引けないよ」
「き、聞く! もちろん、聞くに決まってるでしょ!」
今度はおじいさんからも聞いてきた。
「これを聞けば、お前は対象となる。口外無用。もし、誰かに話したら、その時点でお前の命はないと思え。いいな?」
「……え…、そんなにヤバイ内容なの?」
エリカはようやく事の重大さに気づいて狼狽える。
「だから聞いてるんだよ。別に、無理に聞く必要はない。
今までの事だったら、俺が泉に行ったせいでこうなったから、責任は取らないといけないけど、ここから先はエリカ、お前の決断次第だ。ひとつの選択が人生を左右することになる。
このまま平和な日常で、学校行ったり、仕事したりするのもひとつの人生。この話を聞いて、別の人生を歩む道もある。
今すぐ決める必要はな……」
「いいよ。聞く。ここでラリサを捜すのやめたら、なんのための10年間だったのか分からないもん」
シルディックの言葉を被せてエリカは決断をした。その目は強い意志が宿っており、シルディックとおじいさんはエリカに気づかれないように目を伏せた。
「……分かった。では、読むぞ…」
おじいさんの重々しい声が静かな部屋に響いた。
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