表裏の狭間で

シルヴィー

文字の大きさ
上 下
3 / 15

さがしもの

しおりを挟む
「あれは、まだエリカが7つだった時の話ね……。
突然、誘拐されたのよ。

アイスショーと言って、氷の造形が展示されてて…、それを見に来ていたの。シルがアイスキャンディーを買いに行くと言って、エリカと一緒にお店に行ってる間、私はラリサと一緒にいたのね。ラリサは当時5つの時だった。

手を繋いで歩いてたはずなのに、気がつけば居なくて、急いで辺りを見回したら、敵に捕まったラリサがいたの。ラリサは泣きながら必死に、私に手を伸ばしてきていた。

ハッとしてラリサを取り返そうとしたけど、位置が特定出来ない転移陣を使われてしまったから、追いつけなかった。もし、元を辿って特定できたら、すぐにでも助けられたかもしれないのに…。

……母親失格よ。一緒にいたのに、気づけば敵の手に渡ってたんだもの」

母はそこで話を切った。過去を思い出して話せなくなったのだ。すすり泣く母の背中をエリカはさする。

静かに聞いていたギルは、ベッドサイドテーブルに立てかけられた家族写真を見て言った。

「……この方がラリサ様ですか?」

「そうよ。私の妹。今もずっと捜してるけど、見つからないの。……もしかしたら、死んじゃったのかもしれないけど、やっぱり希望は捨てられない」

エリカが母の代わりに答える。


長い沈黙の後、ギルは一言呟くように言った。

「僕は、この方に似た方を知っています」

「え?」

ギルの言葉にエリカと母が反応する。しかし、話はそこで中断してしまった。父の容態を診るためだ。

ギルが再び紫色の光を彼に浴びせ、容態を確認すると治療を終えた。解毒剤の副作用である吐き気と葛藤し、疲れたのだろう。ただ寝ているだけの父の姿があった。

「もう、これで大丈夫でしょう」

「ありがとうございます……」

「それで、どこにいるの?!」

母がお礼を言う横から、エリカは食いつくようにギルに問いかけた。

「それは言いかねます……。ですが、僕が知っている方とこのラリサ様は同一人物ではないかもしれませんよ?」

「そんなの構わない!少しでも希望があるなら、それに賭けたいの!」

ギルは少しため息を吐いて、両手で制をした。

「落ち着いてください。僕の知っている方のご意思もあります。会えない可能性もありますが、よろしいですか?」

「ダメ、絶対会う!!」

「……僕もできる限りのことはします。ご希望に添えない場合は申し訳ございません」

「そんな事言わないで!」

「エリカ!私のことはいいの。そんなに無理に言っても、ギル君が困るだけよ。ここは1歩引きなさい」

母はエリカの手を引きながらたしなめる。

「だって、お母さん!」

「だってじゃない。……ギル君、うちの娘がごめんなさいね。出来れば会えるといいのだけど……、協力してくれてありがとう」

「いえ、父上様の容態が回復して何よりです。では、僕はこれで失礼致します」

ギルはそう言って父の寝室から出て行った。父はぐっすりと眠っているのか、身動ぎもせずに横たわっている。

「さて、エリカ。シルのギルドメンバーの人に伝言をお願いしていいかしら?」

「ええーーーー!!」

母のお願いにエリカの不満が、家中に響き渡ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

処理中です...