表裏の狭間で

シルヴィー

文字の大きさ
上 下
2 / 15

治療

しおりを挟む
少年はエリカの案内で父の部屋に入ったが、見た瞬間になにか分かったのか、顔を曇らせていた。

「……申し訳ございません」

少年は小声でそれだけ言うと、彼のそばに行き、紫色の淡い光を放った。優しく、安心する光だったが、同時に恐ろしさも感じるものだった。
しばらくそうしていると、父の顔色は良くなり、呼吸も安定してきた。

「……君は、一体……」

シルディックはギルドの医療担当者に治せないと言われたにも関わらず、徐々に、しかし、あっという間に治っていく体に驚きを隠せなかった。それはエリカも母も同じだろう。少年はただ微笑むだけでなにも言葉を発さず、治療に専念していた。

全体的に治癒を施した後、念入りに、魔核と呼ばれる魔力を体内に精製する臓器から治療を行った。それが終わると、少年の懐から3つのカプセルを取り出した。

「……あの、すみませんが、この3つの薬を飲んでいただけますか? 解毒剤です」

「……本当に…」

俺は何かを言おうとして、口をつぐんだ。禍々しい雰囲気の薬で飲むことを躊躇ってしまう。しかし、体が治癒で治っている以上、最後の仕上げのようなものだろうと結論付けた。妻に水を取ってきてもらい、3つのカプセルを飲んだ。が、すぐに戻しかけた。

「……ぅ…グェ……!!」

「ちょっと!変なことし……」

エリカが抗議しようと口を荒げて言おうとすると、少年が手を挙げて制をした。

「……この薬は解毒剤です。普通の治療では治らないのです。数十分ほどその状態が続きますが、ご容赦ください」

「普通の治療って……、じゃあ、あなたは何をしているの?」

「……現在、この方を治すために治療をしているところです。大丈夫です。今日中に治りますから」

少年は微笑んだまま表情を変えずに答えた。エリカは質問の意味が違うと不満そうな顔になったが、もう一度聞くことはできなかった。しばらく言葉を発さなかった母が不安そうに口を開いたからだ。

「……これで、シルは大丈夫よね?」

「はい。薬の効果は即効性のため、すぐに効くはずです。数十分ほどここに居ることをお許しください。その後、効果を診ます。それで何もなければ、恐らくもう大丈夫でしょう」

「……よかった」

母の不安そうな顔がほぐれ、微笑を浮かべた。エリカは不満そうだったが、父がまだ生きてくれるならと許すことにした。その2人の顔に、少年は新たな疑問を浮かべることになった。

「……あの、立ち入ったことをお聞きしますが…、なにか悲しい出来事がおありですか?」

「え?」

エリカは少年の言っている意味がわからず、首を傾げた。母は何やら驚いているらしく少し目を見開いて少年を見る。

「……差し支えなければ、教えていただけますか?」

母はじっと少年を見つめた。少年は少し眉尻を下げて母を見返した。

「まずは、あなたのお名前を聞かせてくれるかしら? あなたから、何の情報もなしに教えることは出来ないわ」

「これは失礼致しました。僕の名前はギルです。シャーゴット様の父上様が来られた泉の近くに住んでいる者です」

少年ギルはハッとしたように自分の情報を明かした。

「なんのお仕事をしているの?」

「普段は見張りをしています」

「泉の?」

「はい」

母は再びじっとギルを見つめて、ため息を吐いた。その隣でエリカは疑問符を浮かべながら聞く。

「普段は、ってことは、他に何してるのよ?」

「使いっ走りですね。僕は万屋よろずやですから」

「万屋……?」

エリカは聞いたことのない店の名前に疑問符が再び浮かんだが、母が先に話を進めた。

「……いいわ。あなたは他の誰とも違う、不思議な雰囲気を持っているのね。私の……いいえ、このシャーゴット家のを聞いてちょうだい」

「お母さん!!」

エリカはようやく何について聞かれているのか、ハッと気がついた。母は首を振りながらきっと大丈夫だと伝える。

「いいのよ、エリカ。このギル君は信頼できる」

母の勘は当たりやすい。とはいっても、確率的に当たりやすいだけで外れることもあるのだが……。

母の真っ直ぐな目を見て、エリカは何も言えなくなってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...