上 下
154 / 167
第11章 ダンジョン名『旧灯台』

第154話 風使い・リオン

しおりを挟む
「なんつーか……出そうだよな」

「出るって、魔物さん?」

「魔物もそうだけど……幽霊的な何か」

 苦笑しながら禍々しい気を放つ旧灯台を見つめる。エレメント系の魔物は『ザラクの森』だけで腹がいっぱいなのに、そうも上手くいなさそうだ。エレメント系の奴らも俺が弱点かもしれないが、俺もそいつらが苦手だ。相容れないし、相容れたくもない。だが、「ここに行く」と言ったのは俺自身。今更退く訳にはいかない。

 深呼吸をして心を落ち着かせる。

 すると、横で俺の行動を見ていたリオンが目をパチクリさせながら問うてきた。

「ムギト君……幽霊怖いの? 手、繋ぐ?」

 リオンの純粋でど直球な言葉に思わずノアが吹き出す。そしてその言葉が俺の心にクリーンヒットする。

「うん……大丈夫だ。心配させて悪かった……」

 咄嗟に目頭を押さえながらリオンに返す。これは泣いているのではない。リオン君の優しさに心を打たれているのだ。ついでに自分の情けなさに打ちのめされている訳でもない。

「貴様、今回助けるのがオッサンだからって気合いが入っていないのではないのか?」

「ちげえわ馬鹿! 断じてないわ!」

 ニヤニヤとしながら俺を見上げるノアに向けて必死に否定する。確かに前回は可愛い女の子セリナで、今回は筋肉隆々のオッサンミドリーさんだが、モチベーションは同じだ。同じだとも。

 そんなやり取りをしていると、アンジェが呆れたように息をついた。

「茶番は終わったかしら?」

「はい、すいません」

 冷ややかな彼の眼差しに思わず背筋が伸びる。彼の言う通りだ。こんなことをしている暇はなかった。

「あ、でも、リオンが怖いんだったら手を繋いでやっても――」

 そう言いかけたところでリオンを見るともうすでにアンジェの後ろに引っ付いて旧灯台の中に入っていた。逞しいぜリオン君。あと、やっぱりこのパーティーで一番弱いの俺だわ。わかっていたけど。

「ほら、貴様もさっさと行くがよい」

 トンッとノアに肩に乗られたので、「へいへい」と顔をしかめながら旧灯台の中に入る。

 ――結論から言うと、やはりこの灯台は「クロ」だった。なぜなら、こんな高い塔……しかも灯台なのに「あるもの」が見当たらないからだ。

「……ないわね、階段」

 ぐるっと室内を見回しながらアンジェが言う。

 高台だからか、天井が高く、筒のように吹き抜けているが、どう探しても上の階に上がるような階段はなかった。ほんの二ヶ月前まで現役だったこの旧灯台に限って、そんなことあるはずないのに。

「建て替えられってことか?」

「いえ、多分違うわ。床にも壁にもその類いの魔法の跡がないもの」

 ペタペタとアンジェは壁に手をついて観察していく。しかし、俺からしてみれば物一つない円形の部屋が広がっているとしか思えない。それはまるで、最初から階段なんてなかったかのように。

 顎に手を当てながらアンジェは考える。だが、いくら考えても階段の場所なんて見当もつかない。これは、もう詰んだというのか。

 頭を悩ませていると肩に乗っていたノアが飛び降りてそのままスタスタとどこかへ歩いて行った。

「あ、おい――」

 手を伸ばし、ノアのほうに目を向けると、彼はリオンのところへ向かっていた。

 リオンは二時の方向の壁をじっと見つめたまま動かない。

 ノアはそんな彼の隣につき、尻尾を揺らしながらリオンと同じ場所を見つめた。

「リオン……貴様、見つけたのか?」

 まるでノアに応えるよう深く首を縦に振ったリオンはくるっと振り向いて俺たちに告げる。

「ムギト君、アンジェ君……ここ、風の流れが違うよ」

「風の……流れ?」

 リオンに言われ、俺もアンジェもリオンの元へやってくる。しかし、壁に手をついてみても目の前にあるのはなんの変哲もないレンガの壁だ。風の流れが違うと言われても、俺にはわからない。

 すると、ノアがぴょんっと飛んでリオンの肩に乗った。そして「ククッ」と短く笑いながら彼を誉める。

「流石ハーフエルフ……いや、【風使いウィンダー】だな。多分、そこで合ってる」

「そうなの?」

 不思議そうにしながらリオンは首を傾げる。その隣でアンジェがトントンと壁をノックしたが、彼にもわからないようで頬を引き攣られて「お手上げ」と両手を挙げた。

 しかし、リオンは数歩下がって背負っていた杖を手にした。

「とりあえず、アンジェ君みたいにやってみるね」

 そう言うとリオンの杖の先端についていたウィンド・コアが緑色に光った。

「や、やってみるって言ったって――」

 と、言いかけたところでリオンが「えい!」と杖を振るった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

転生日記

ゴロヒロ
ファンタジー
これは現代世界に近い世界に転生した俺が書き残す日記である カクヨムでも投稿してます

【BL】カント執事~魔族の主人にアソコを女の子にされて~

衣草 薫
BL
執事のローレンスは主人である魔族のドグマ・ダークファントム辺境伯にアソコを女性器に変えられてしまった。前に仕えていた伯爵家のフランソワ様からの手紙を見られて怒らせてしまったのだ。 元に戻してほしいとお願いするが、「ならば俺への忠誠を示せ」と恥ずかしい要求をされ……。 <魔族の辺境伯×カントボーイ執事>

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

毎日スキルが増えるのって最強じゃね?

七鳳
ファンタジー
【毎日20時更新!】 異世界に転生した主人公。 テンプレのような転生に驚く。 そこで出会った神様にある加護をもらい、自由気ままに生きていくお話。 ※不定期更新&見切り発車な点御容赦ください。 ※感想・誤字訂正などお気軽にお願い致します。

処理中です...