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第11章 ダンジョン名『旧灯台』

第152話 間違っていたら恥ずかしいやつ

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 翌日の朝。

 アイーダのばあさんに朝食までいただいた俺たちは帰り際に深々と彼女に頭を下げ、家を後にした。

 目的地はただ一つ。アイーダのばあさんたちが管理していた旧灯台だ。おそらくそこにパルスはいる。そして、ミドリーさんたち神官もあそこに軟禁されているはずだ。

 旧灯台まではフーリの馬車で行くこととなった。

 そもそもこれしか移動手段の選択肢がなかった。アイーダのばあさんたち灯台守が使っていた小舟は「もう使用しない」という理由からリチャード市長のところに返したらしいし、旧灯台と繋がっている地下水路はリチャード市長の遺体があった下水道とも繋がっているので今は出入りができない。そうなると、街を出て岬まで行くしかなかった。

 それでも馬車で行っても二、三十分はかかるらしく、普通の人は旧灯台に近づかないらしい。

「それにしても昔の灯台だなんてよく目を付けたな」

 セントリーヌの手綱を引きながらフーリが尋ねる。

「まあ、灯台がもう一つあることを知ったのは偶然なんだけど……でも、アイーダのばあさんの話を聞いたら上手い具合にはまっちまったんだよな」

 頭の後ろで腕を組み、どんよりとした空を仰ぐ。その隣でアンジェがクスリと笑いながらも期待の眼差しを向けた。

「聞かせてくれない? ムギちゃんのとっておきの推理」

「別に……推理ってまででもねえよ」

 けれどもどうしてだろうか。今回は妙な自信があった。

「アイーダのばあさんが二ヶ月前に新しい灯台になったってのを聞いて思い出したんだよ――リチャード市長の遺体も死後一、二ヶ月は経っているって」

 そうしたら、全部繋がった気がした。

 アンジェもこの街のことを『なんらかの力が働いている気がする』って言っていたが、それはあながち間違いではなかった。ギルド員や傭兵、冒険者たちは引力に引き寄せられるようにあの街に集められていたのだ。

 餌は「リチャード市長殺人事件の犯人捜し」

 増える傭兵、犯人の探索、そのための人手はすべて『カトミア』に集まる。それは、武力も含めてだ。

 その理由は単純――旧灯台に目を向けさせないため。

「パルスにしてみれば『カトミア』は神官を集めるには絶好の場所だったんだろうな。港はあるし、あいつ自身の拠点にもなる」

 そういう点では旧灯台はいいアジトになった。なんせ船も停められるうえに地下水路は『カトミア』に繫がっている。邪魔なのは、アイーダのばあさんたち灯台守だけ。

「だからパルスはまずリチャード市長に化けて新しい灯台について提案した。旧灯台を自分のものにするためにな」

 いくらパルスでも灯台守にまでは成り代わることはできなかった。姿形は化けることができても、灯台守としての技術までは真似られない。

 だから灯台ごと街の中に移動させた。実際不便極まりなかったから、アイーダのばあさんたちも二つ返事で了承したはずだ。

「どのタイミングで仕留めたのかはわからないが、パルスは殺したリチャード市長の遺体も旧灯台に置いていたんだろうな。そして時期が来たら地下水路を通って下水道に捨てる。遺体が見つかった場所だから当然下水道……ついでに旧灯台に繋がる地下水路も封鎖される。そして旧灯台までの移動で使っていた小舟も回収。海上、地下、両方の道を閉ざせば人を近づけさせない立派なアジトの出来上がりだ」

 強い傭兵や冒険者たちは街に固め、元々いた住民や商人には仕事をさせて動きを止める。街から人を出させないことで旧灯台から目を背けさせれば、自分は存分に悪だくみができるという訳だ。

「街のリーダーに化けて市民を動かし、用がなくなったらそれを種に街に縛りつける。嫌なやり方だよな」

 そこまで話すと、全員が驚いたように目を開けてこちらを見ていた。フーリに至っては手綱を持ったままぽかんと口を開けている。

「お前……本当にムギトか? そのパルスって奴が化けてるんじゃねえよな?」

「本人だわ! 仲間疑ってるんじゃねえよ!」

「あ、ムギト君だ」

「うん、ちゃんとムギちゃんね」

 声を荒げてフーリにつっこむ俺の姿にアンジェとリオンがホッと胸を撫で下ろす。

 どいつもこいつもなんだその失礼なリアクションは。

「ったく……悪いかよ、らしくないこと言ったら」

 やれやれと息をつきながら伸ばした足を組み直す。まあ、確かに灯台が怪しいというRPGのテンプレートを知らないとこうはならないか。

 と、思っているとノアがポンッと俺の肩に乗ってきた。

「これで外れたら面白いな」

「うるせえなあ! わかっとるわ!」

 声を荒らげるとノアはニヤリと笑って俺の肩を降りる。本当にこれだけ言いに来たらしい。ムカつくアマだ。
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