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第10話 貿易の街『カトミア』

第145話 鍛冶屋のおっさんが言うには

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「とりあえず夕飯の時間までそれぞれ情報収集をしよう」

「ついでにあたしたちは今夜の宿を取るわ」

「よろしく頼む。俺も一緒にギルドの買い物してくるわ」

「了解。お供するぜ」

 日没まであと二~三時間はある。集合場所はここ。あとは飯を食いながらそれぞれ集めた情報を提示するという流れだ。このテキパキとした無駄のない行動力には賞賛に値する。

「それじゃ、行きましょうか。幸運を祈るわ」

「また後でねー」

 アンジェとリオンに手を振られながら俺たちも出発する。といっても、まずは何からやるべきか。そう思っているとフーリのほうから提案してきた。

「とりあえずは買い物がてら知り合いのところへ行くか」

 まずは現状把握。意外とノリノリなフーリを頼りに、俺たちは彼の知り合いがいるバザーへと向かうことにした。

 港町でもある『カトミア』はまるで海の上にあるような街だった。至るところに水路があり、中には小舟で移動している人もいる。

 土地もどうやら埋め立てて広げているようで、他の街より橋が多く感じた。特にバザーなんかは大きな橋の上にずらりと店が並んでおり、この一直線上だけでも全て事足りそうだ。

 フーリの知り合いがいるのはバザーの橋を越えた先にある小さな工房だった。石の壁でできた古い工房で、外からでもトンテンカンと何か作業をしている音が聞こえて来る。

「おーい、おやっさーん」

 作業音に負けないようフーリは声を張りあげながら扉を開ける。鍵はかかっておらず、フーリも慣れっこなのかなんのためらいもなく工房に入った。

 中には赤毛で無精ひげを生やした体格のいいおっさんが何か作っていた。だが、フーリの存在に気づくとハッと顔をあげ、その場で立ち上がる。

「なんだ。ダルマンとこのドラ息子か」

「ドラ息子でーす。つっても、今日は仕事で来たんだけどさ」

「いつもの物だろ。その辺にあるから持っていきな」

 素っ気ない態度をするおっさんだが、フーリにとってはいつものことのようで「はいよ」と言いながら工房の奥へと入って行った。

 どうやらここは鍛冶屋らしい。おっさんの足元には剣や槍などこれから鍛えると思われる武器が転がっている。赤い髪からして火属性だからおそらく自分の魔法で火を起こして鍛えているのだろう。

 きょろきょろと辺りを見ているとおっさんに怪訝そうな顔をされた。きっと「誰だお前」と思っているのだろう。ただ、名乗るほどでもないから、俺は向けられた視線に対して「はは……」と空笑いで返すことしかできなかった。

 時間の無駄と思われたか、おっさんは「ケッ」と吐き捨てるとまた作業に戻る。

 気まずい空気を暫時耐えていると、そのうちフーリが帰ってきた。両手で木箱を抱えており、中には古びた武器が入っている。

「今日もいっぱい用意してくれて、悪いねおやっさん」

「ふん、こんなガラクタ欲しがるのなんてお前らのギルドくらいさ」

「まーまー、ガラクタとか言うなって。これにコアをくっつけたら立派な武器や防具になるんだからよ」

「口は減らねえなあ、この端くれが」

 ヘラヘラと笑うフーリにおっさんは舌打ちする。とても不機嫌に見えるのだが、よくフーリは笑っていられるものだ。それとも、これがおっさんの普通のテンションなのだろうか。

「んで、その小僧はなんだ?」

「え? あ、俺?」

 突然話を振られ、思わず自分を指差す。だが、おっさんは「お前以外に誰がいる」と言わん様子で眉をひそめる。

「こいつはギルド員だよ。たまたまこっちに用事があったから一緒に来たってだけ」

「ギルド員? つうことは、お前さんもこの街の犬かい? いや、どっちかというと猫か。猫の手も借りたいとはよく言ったもんだ」

 俺の頭部に座るノアを見ながら嫌味ったらしく言うおっさんについムッとなる。しかしフーリはどこまでも落ち着いており「どうどう」と俺とおっさんをなだめる。

「リチャード市長のことはさっき聞いたよ。大変だったな」

「本当……どこの誰かは知らんが余計なことをやってくれたよ。おかげでこっちはろくに外にも出られん」

 しかもいきなり市長が亡くなったものだから外交のほうの流れも悪いのだとおっさんは言う。これにはどの商人もおっさんのような生産者も大変のようだ。

「ところでおっさん。『犬』ってどういう意味だよ」

 突っかかるように尋ねるとおっさんは「あ?」と眉をひそめた。
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