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第9章 束の間の休息
第136話 お届け物でございます
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世界が破滅しそうだというのに、この数日間は気の抜けるくらい穏やかな日々が過ぎていった。
気候も安定し、晴れの日も続いている。洗濯日和で、家事日和。
ギルドが壊されているから仕方がないとはいえ、酷い落差だ。ほんの少し前までは戦闘続きで大冒険をしていたとは思えない。
クエストもできないし、魔王についての情報も探れないから俺たちも暇を持て余していた。
それにしても、ギルドの復興スピードは目を瞠るものがあった。
流石全員【創設者】だ。みんな魔法を使って補強なり建築したりしているので、おそらく通常の何倍ものスピードで建物を建て替えているだろう。
瓦礫の撤廃から始まっていたはずなのに、この調子だとあと数日もすれば再建できそうだ。
一方、セリナの体調も徐々に回復していた。
まだ仕事の復帰までは行かないものの、日常生活を送るには何も支障はないらしい。あの時はどうなるかと思ったが、元気になって本当によかった。もう少しすればリオンと買い物も行けることだろう。
――魔王がもうこの世界に潜んでいる。そんなのが嘘のような平穏な日々だ。
今日だって代わり映えのない一日になると思っていた……のだが、今日は朝から来客が訪れた。
それは三人でアンジェの作った朝食を食べている時だった。
コンコンッと誰かが家の扉を叩いたから、アンジェは不思議そうに扉まで歩み寄った。
こんな朝早くからいったい誰だろう。もぐもぐと口を動かしながら様子を見つめていると、扉を開けた途端ズンッと大きな影が現れた。
「……やあ、朝早くすまんな」
そこにいたのはミドリーさんだった。しかも、大きな黒い箱を肩で担いでいる。
「神官様⁉︎ どうしたんですかいったい!」
これにはアンジェも声をあげるくらい驚いた。
俺たちがミドリーさんのところへ行くことはあっても、ミドリーさんがわざわざこんな端っこの畑地帯まで来ることはない。それどころか、神官様がこうして一市民に会いに来ることもそうないことなのだろう。
そんな彼の驚嘆をよそに、ミドリーさんは豪快に笑っている。
「驚かせたな。ほら、お届け物だ」
ミドリーさんが担いでいた黒い箱はよく見ると金属でできていた。
こんな重たそうな箱を軽々と持ち上げるなんて、この筋肉も飾りではなかったらしい。うっかり【治療師】ということを忘れそうである。
それはそうと、この箱はいったいなんだろうか。
アンジェも同じことを思っていたようで、目をパチクリされながらパカッと箱を開ける。すると、中から白くて冷たい空気が流れてきた。
「これって……アイス・コア・ボックスですか?」
「ああ。アンジェの報酬だ。受け取ってくれ」
「まあ! それをわざわざ? 言ってくだされば取りに行ったのに」
申し訳なさそうにするアンジェにミドリーさんは「いいんだ」と首を横に振る。
「たまたまギルドに挨拶に行ったらちょうどフーリがこれをお前の家まで届けようとしていたからな。フーリもギルドの復興があるし、私もここに来る用事があったからついでに持ってきたという訳だ」
「用事、とは?」
「ああ。アンジェにではなく――リオンになんだがな」
「う?」
いきなり名前を呼ばれたリオンは気の抜けるような声をあげて首を傾げる。
「リオンに用事って、なんかあったんすか?」
「ああ。教会の会合に呼ばれてしまってしばらく留守にすることになってな。シスター・モネでも対処できない案件があれば手伝ってあげてほしいんだ」
「うん。いいよ」
即答するリオンにミドリーさんもホッと胸を撫で下ろす。
軽症であればクーラの水でなんとかなるかもしれないが、治療魔法が必要なほどのものであればそれでは全然足りない。これまでミドリーさんしか治療魔法を扱えなかったから、彼もこの街を出ることを懸念していたのだろう。だが、今はリオンがいる。これでミドリーさんも安心して出かけられるということだ。
気候も安定し、晴れの日も続いている。洗濯日和で、家事日和。
ギルドが壊されているから仕方がないとはいえ、酷い落差だ。ほんの少し前までは戦闘続きで大冒険をしていたとは思えない。
クエストもできないし、魔王についての情報も探れないから俺たちも暇を持て余していた。
それにしても、ギルドの復興スピードは目を瞠るものがあった。
流石全員【創設者】だ。みんな魔法を使って補強なり建築したりしているので、おそらく通常の何倍ものスピードで建物を建て替えているだろう。
瓦礫の撤廃から始まっていたはずなのに、この調子だとあと数日もすれば再建できそうだ。
一方、セリナの体調も徐々に回復していた。
まだ仕事の復帰までは行かないものの、日常生活を送るには何も支障はないらしい。あの時はどうなるかと思ったが、元気になって本当によかった。もう少しすればリオンと買い物も行けることだろう。
――魔王がもうこの世界に潜んでいる。そんなのが嘘のような平穏な日々だ。
今日だって代わり映えのない一日になると思っていた……のだが、今日は朝から来客が訪れた。
それは三人でアンジェの作った朝食を食べている時だった。
コンコンッと誰かが家の扉を叩いたから、アンジェは不思議そうに扉まで歩み寄った。
こんな朝早くからいったい誰だろう。もぐもぐと口を動かしながら様子を見つめていると、扉を開けた途端ズンッと大きな影が現れた。
「……やあ、朝早くすまんな」
そこにいたのはミドリーさんだった。しかも、大きな黒い箱を肩で担いでいる。
「神官様⁉︎ どうしたんですかいったい!」
これにはアンジェも声をあげるくらい驚いた。
俺たちがミドリーさんのところへ行くことはあっても、ミドリーさんがわざわざこんな端っこの畑地帯まで来ることはない。それどころか、神官様がこうして一市民に会いに来ることもそうないことなのだろう。
そんな彼の驚嘆をよそに、ミドリーさんは豪快に笑っている。
「驚かせたな。ほら、お届け物だ」
ミドリーさんが担いでいた黒い箱はよく見ると金属でできていた。
こんな重たそうな箱を軽々と持ち上げるなんて、この筋肉も飾りではなかったらしい。うっかり【治療師】ということを忘れそうである。
それはそうと、この箱はいったいなんだろうか。
アンジェも同じことを思っていたようで、目をパチクリされながらパカッと箱を開ける。すると、中から白くて冷たい空気が流れてきた。
「これって……アイス・コア・ボックスですか?」
「ああ。アンジェの報酬だ。受け取ってくれ」
「まあ! それをわざわざ? 言ってくだされば取りに行ったのに」
申し訳なさそうにするアンジェにミドリーさんは「いいんだ」と首を横に振る。
「たまたまギルドに挨拶に行ったらちょうどフーリがこれをお前の家まで届けようとしていたからな。フーリもギルドの復興があるし、私もここに来る用事があったからついでに持ってきたという訳だ」
「用事、とは?」
「ああ。アンジェにではなく――リオンになんだがな」
「う?」
いきなり名前を呼ばれたリオンは気の抜けるような声をあげて首を傾げる。
「リオンに用事って、なんかあったんすか?」
「ああ。教会の会合に呼ばれてしまってしばらく留守にすることになってな。シスター・モネでも対処できない案件があれば手伝ってあげてほしいんだ」
「うん。いいよ」
即答するリオンにミドリーさんもホッと胸を撫で下ろす。
軽症であればクーラの水でなんとかなるかもしれないが、治療魔法が必要なほどのものであればそれでは全然足りない。これまでミドリーさんしか治療魔法を扱えなかったから、彼もこの街を出ることを懸念していたのだろう。だが、今はリオンがいる。これでミドリーさんも安心して出かけられるということだ。
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