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第8章 崩壊の足音

第132話 お久しぶりね、クソにゃんこ

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「じゃあ……リオンの服を選んでやってくれよ。俺よりセリナのほうがセンスいいだろうし」

「それはいいわ。セリちゃんのリハビリにもなりそうだしね」

 そう言ってアンジェはウインクをして頬を綻ばせる。リオンも賛成のようで口角を上げたまま頷く。

 最初は「そんなことでいいんですか?」と困り顔だったセリナだが、喜んでいるリオンの顔を見ていると納得したように微笑んだ。

 ただ、そうしている間もセリナの目は眠たそうにとろんとしていた。今の今まで瘴気に蝕まれていたのだ。体がつらいのは当然だ。

「セリナ、あまり無理をするな。お前らも疲れただろう? 今日はゆっくり休みなさい」

 見兼ねたミドリーさんが声をかけると、セリナはゆっくりと首を縦に振ってそのまま瞼を閉じた。

 安心したような顔で眠りにつくセリナを見ると、こちらも気が抜けてドッと疲れが出た。確かに、そろそろ温かい我が家でゆっくりとくつろぎたい。他人《アンジェ》の家だけど。

 それはアンジェも同意見だったようで、みんなに会釈した後、俺たちは教会を後にした。

「ばいばーい」

 手を振るリオンに笑みを浮かべながら振り返す彼らの表情は心の底から安堵しているように見えた。

 こんな清々しい気分になれるのも人助けできたからなのだろう。人命も救えたし、仲間も増えたし、天気もいいし、とてもいい気分だ。

 ――まあ、そんな気分も家に帰る僅かな時間だけだったのだけれども。


 ◆ ◆ ◆


 アンジェを先頭に、彼の家に戻る俺たち。特にリオンにとってはどんな景色も新鮮で、目を輝かせてこの『オルヴィルカ』の街並みを眺めていた。

 そしてたどり着いた畑地帯の奥……拠点であるアンジェ宅にたどり着いた。

「は~い。では、リオちゃんいらっしゃ~い」

 ニコニコ顔でアンジェはゆっくりと扉を開ける。

 だが、玄関を開けた先に待ち受けていた者に俺は思わず顔をしかめた。

「――よぉ、生きていたか。勇者様」

 そこにいたのは、尻尾をゆらゆらと揺らしながらニヤリとほくそ笑んだノアだった。

「あら! ノアちゃんじゃないの!」

 三日ぶりのノアの姿にアンジェは驚いた声をあげると、ノアは返事をするように「にゃー」と鳴いた。

「なんだ……お前も戻っていたのか」

 こいつがいなくてせいせいしていたのに、また頭に重みと都度ツッコミを入れなければならない生活に逆戻りかと思うと、俺の表情も自然と渋面になる。

 ただ、リオンはノアの姿を見て「おぉ……」と物珍しそうにしていた。

「リオン……お前、猫って知ってるか?」

「う、噂ではかねがね……」

「そ、そうか……」

「噂?」と思ったが、相手がリオンだし、ここは流してあげようと思った。

 そんな中、まるでリオンからの熱い視線に応えるようにノアは徐に近づき、大きな目でじっとリオンを見つめた。こいつも空気を読んだのだろうか、リオンがおっかなびっくりでノアに手を伸ばしても、拒もうとしなかった。

 リオンに両脇を持たれて掲げられながらも、ノアは相変わらず淡々としていた。

「……ハーフエルフを味方につけるとは……貴様、意外と見る目あるではないか」

「へいへい。ありがとよ」

 抱かれながらこちらを見てほくそ笑むノアに向かい、顔をしかめて小声で返す。

 そんなやり取りにリオンは不思議そうに首を傾げる。そういえば、リオンには俺がノアと話せることを言っていなかった。まあ、どうせアンジェが説明してくれるだろうから、今は言わなくていいか。

「ほら、リオン。そのまま抱っこしてていいから、さっさと中に入るぞ」

 そう言うと、リオンは目を輝かせたままノアを胸の前で抱える。ノアはふてぶてしい顔をしているが、気にせず家に入る。

 久しぶりに戻ったアンジェの家。たった三日離れただけなのに、随分と懐かしく感じる。

 ただ、家主のほうは食料もなく、少しとはいえ埃がかぶった家が不服そうであった。

「荷解きもしなきゃだし……いったい、どこから手をつければいいかしら……」

「まあ、帰ってきたばかりだし、ゆっくりやろうぜ」

 と言いながら、ぐでんとダイニングチェアーに腰かける。隣ではリオンがノアを興味津々につんつんと指で突いている。そんな俺たちに気が抜けたのか、アンジェも「そうね」と一息ついた。
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