119 / 242
第7章 流浪人とエルフの子
第119話 兄になった日
しおりを挟む
俺たち一家は、完全に孤立していた。当然だ。みんなからしてみれば、俺たちは人間を匿っているエルフの裏切り者なのだから。しかし、元々親父も里の人からは厄介払いされていたし、俺もこのほうがやりやすかった。
ある日の昼下がり、リビングでくつろいでいるとオリビアが近づいてきた。
「これ、ライザ君にあげるね」
彼女から渡されたのは、今でも使っているウォーター・コア・ガンだった。けれども当時の俺は銃なんて初めて触るから「何これ?」と不思議そうに見ていた。
初めて見る銃にトリガーやら銃口やら色々弄っていると、ちょうど親父が自室からリビングに入ってきた。
「ラ、ラ、ラ、ライザ!? 何そんな物騒なものを持ってるの!?」
「動揺しすきだろ……」
勢いよく身動ぎして退く親父に呆れていると、それを見ていたオリビアもおかしそうに笑った。
この中で慌てふためいているのは親父だけだった。
「オリビア! なんで銃なんて作っちゃったの!?」
「だって、ライザ君って水属性でしょ? これ、水が貯まるようにしてあるし、ライザ君の魔法能力なら打つだけで使えるから狩りが一気に楽になると思うよ」
「だからってライザにはまだ早いって! 怪我したら大変じゃん!」
「大丈夫よ。ライザ君ならすぐ扱えるだろうし、使い時もわかってくれるって。ねっ?」
親父の焦りに対しても、オリビアはケロっとしている。しかも、いきなり話をこっちに振ってくるし、そんなにニコッと笑われても、ちょっと困るのだが。
「……買いかぶりだって」
頬を掻く俺に「照れない照れない」とオリビアが小突く。こういう時、オリビアにどんなリアクションをすればいいかわからず、ついばつの悪い気分になる。
しかし、彼女の読みは当たっており、俺はすんなりとウォーター・コア・ガンを使いこなせるようになった。
そのおかげで狩りができるようになり、我が家の食卓もたまに肉が出るようになった。親父の力だと到底できっこなかったから、これもオリビアの力の賜物だ。
それにしても、オリビアは変な女だった。
相変わらず自分の力を横暴しないし、他のエルフに無視をされてもめげない。弱音も吐かないし、こんな不自由な生活なのに文句一つこぼさない。それどころか、まるで罪滅ぼしのようにエルフの者に無償で物を与える。
そして何より、彼女はいつも笑顔だった。聖女というよりかは、太陽みたいな人だった。少なくとも、俺の家は彼女が来たことにより明るくなった。そして、母親がいない淋しさや悲しさというものを埋めてくれた。母親が死んでから親父があんな穏やかな顔を見せるようになることなんてなかったし、オリビアだって弱々しくても心優しい親父に惹かれていることは子供ながらにわかっていた。
だから、遅かれ早かれオリビアと親父の間に子供ができることは粗方想像ができていたのだ。
――リオンを授かったことがわかったのは、オリビアが里に来てから一年あまり過ぎた頃だった。
「ジャンさん、ライザ君……あのね――」
そう言って、彼女は俺と親父がリビングでくつろいでいる時に静かに告げた。
本来なら喜ぶべきことなのに、親父は驚いたように目を見開いたあと、悲しそうに眉尻を下げた。
「そうかい……そうかい……」
俯いた親父は、肩を震わせながら何度も同じ言葉を呟いた。泣き顔を見なくたって、彼が泣いているのはわかった。その涙は子供ができたことによる嬉し涙なのだろうか。ハーフエルフとして生まれる子供の運命に同情しているのだろうか。
それとも――この里に来てから骨が浮くくらい痩せて病弱になってしまったオリビアを見て嘆いているのだろうか。
オリビアの姿は、痛々しいくらい変わっていた。それもそのはずだ。オリビアのおかげで発展はしているとはいえ、文明は全然追いついていない。他のエルフはみんなで協力し合って暮らしているが、俺たちは自給自足。どんなに小さな畑を耕そうが、何時間も釣りや狩りえを行おうが、俺の家の食料は全然足りていない。
俺と親父はエルフだから、持ち前の高い魔力のおかげで僅かな食事でも十分栄養が体に循環する。けれどもオリビアは人間。エルフが事足りる栄養素では人間ではほとんど足りていなかった。
ここまで弱っている体で、果たして彼女は出産になんて耐えられるのだろうか。誰しもが思っていただろう。そして、それくらいでオリビアが出産を諦めないということも。
ある日の昼下がり、リビングでくつろいでいるとオリビアが近づいてきた。
「これ、ライザ君にあげるね」
彼女から渡されたのは、今でも使っているウォーター・コア・ガンだった。けれども当時の俺は銃なんて初めて触るから「何これ?」と不思議そうに見ていた。
初めて見る銃にトリガーやら銃口やら色々弄っていると、ちょうど親父が自室からリビングに入ってきた。
「ラ、ラ、ラ、ライザ!? 何そんな物騒なものを持ってるの!?」
「動揺しすきだろ……」
勢いよく身動ぎして退く親父に呆れていると、それを見ていたオリビアもおかしそうに笑った。
この中で慌てふためいているのは親父だけだった。
「オリビア! なんで銃なんて作っちゃったの!?」
「だって、ライザ君って水属性でしょ? これ、水が貯まるようにしてあるし、ライザ君の魔法能力なら打つだけで使えるから狩りが一気に楽になると思うよ」
「だからってライザにはまだ早いって! 怪我したら大変じゃん!」
「大丈夫よ。ライザ君ならすぐ扱えるだろうし、使い時もわかってくれるって。ねっ?」
親父の焦りに対しても、オリビアはケロっとしている。しかも、いきなり話をこっちに振ってくるし、そんなにニコッと笑われても、ちょっと困るのだが。
「……買いかぶりだって」
頬を掻く俺に「照れない照れない」とオリビアが小突く。こういう時、オリビアにどんなリアクションをすればいいかわからず、ついばつの悪い気分になる。
しかし、彼女の読みは当たっており、俺はすんなりとウォーター・コア・ガンを使いこなせるようになった。
そのおかげで狩りができるようになり、我が家の食卓もたまに肉が出るようになった。親父の力だと到底できっこなかったから、これもオリビアの力の賜物だ。
それにしても、オリビアは変な女だった。
相変わらず自分の力を横暴しないし、他のエルフに無視をされてもめげない。弱音も吐かないし、こんな不自由な生活なのに文句一つこぼさない。それどころか、まるで罪滅ぼしのようにエルフの者に無償で物を与える。
そして何より、彼女はいつも笑顔だった。聖女というよりかは、太陽みたいな人だった。少なくとも、俺の家は彼女が来たことにより明るくなった。そして、母親がいない淋しさや悲しさというものを埋めてくれた。母親が死んでから親父があんな穏やかな顔を見せるようになることなんてなかったし、オリビアだって弱々しくても心優しい親父に惹かれていることは子供ながらにわかっていた。
だから、遅かれ早かれオリビアと親父の間に子供ができることは粗方想像ができていたのだ。
――リオンを授かったことがわかったのは、オリビアが里に来てから一年あまり過ぎた頃だった。
「ジャンさん、ライザ君……あのね――」
そう言って、彼女は俺と親父がリビングでくつろいでいる時に静かに告げた。
本来なら喜ぶべきことなのに、親父は驚いたように目を見開いたあと、悲しそうに眉尻を下げた。
「そうかい……そうかい……」
俯いた親父は、肩を震わせながら何度も同じ言葉を呟いた。泣き顔を見なくたって、彼が泣いているのはわかった。その涙は子供ができたことによる嬉し涙なのだろうか。ハーフエルフとして生まれる子供の運命に同情しているのだろうか。
それとも――この里に来てから骨が浮くくらい痩せて病弱になってしまったオリビアを見て嘆いているのだろうか。
オリビアの姿は、痛々しいくらい変わっていた。それもそのはずだ。オリビアのおかげで発展はしているとはいえ、文明は全然追いついていない。他のエルフはみんなで協力し合って暮らしているが、俺たちは自給自足。どんなに小さな畑を耕そうが、何時間も釣りや狩りえを行おうが、俺の家の食料は全然足りていない。
俺と親父はエルフだから、持ち前の高い魔力のおかげで僅かな食事でも十分栄養が体に循環する。けれどもオリビアは人間。エルフが事足りる栄養素では人間ではほとんど足りていなかった。
ここまで弱っている体で、果たして彼女は出産になんて耐えられるのだろうか。誰しもが思っていただろう。そして、それくらいでオリビアが出産を諦めないということも。
10
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます
Teko
ファンタジー
ある日私は、男の子4人、女の子4人の幼なじみ達が出てくる乙女ゲームを買った。
魔法の世界が舞台のファンタジーゲームで、プレーヤーは4人の女の子の中から1人好きなヒロインを選ぶ事ができる。
・可愛くて女の子らしい、守ってあげたくなるようなヒロイン「マイヤ」
・スポーツ、勉強と何でもできるオールマイティーなヒロイン「セレス」
・クールでキレイな顔立ち、笑顔でまわりを虜にしてしまうヒロイン「ルナ」
・顔立ちは悪くないけど、他の3人が飛び抜けている所為か平凡に見られがちなヒロイン「アリア」
4人目のヒロイン「アリア」を選択する事はないな……と思っていたら、いつの間にか乙女ゲームの世界に転生していた!
しかも、よりにもよって一番モテないヒロインの「アリア」に!!
モテないキャラらしく恋愛なんて諦めて、魔法を使い楽しく生きよう! と割り切っていたら……?
本編の話が長くなってきました。
1話から読むのが大変……という方は、「子どもの頃(入学前)」編 、「中等部」編をすっと飛ばして「第1部まとめ」、「登場人物紹介」、「第2部まとめ」、「第3部まとめ」からどうぞ!
※「登場人物紹介」はイメージ画像ありがございます。
※自分の中のイメージを大切にしたい方は、通常の「登場人物紹介」の主要キャラ、サブキャラのみご覧ください。
※長期連載作品になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる