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第6章 森の奥の隠れ里

第99話 勝負の行方は最初から

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「おらぁ! 戻ってこい!!」

 その掛け声と共に振り返ると、俺の遥か後ろで転がっていたバトルフォークが紫色の靄に包み込まれて消えた。

 消滅したバトルフォークにライザがハッとする。しかし、その間にもバトルフォークは俺の手の中に納まっていた。

 一瞬の出来事にライザは瞠目したまま固まる。

 そんな彼に向かって俺のフォークの先が飛ぶ――まさにその時だ。

 見開いていたライザの目がいきなりに鋭くなり、即座に銃口を俺の頭部に向けた。

 フォークの切っ先はライザの喉元に、そして銃口は俺の額に。お互いとどめを刺す直前で手を止める。

 しかし、ライザの指はすでにトリガーに伸びているのに、撃ってくる気配がない。

 俺が彼の喉を切り裂くより、こいつが俺の脳天をぶち抜くほうが早いし、どう足掻あがいてもこの距離では避けられない。

 勝敗は、お互いにわかっているはずだ。

 双方武器を構えたまま、暫時の沈黙が流れる。

 この沈黙に最初に耐えられなくなったのはリオンだった。

「兄ちゃん……」

 リオンがアンジェの足にしがみついたまま怯えた表情でライザを見つめる。

 そんなリオンの頭に手を置きながらも、アンジェは固唾を呑んで俺たちの行く末を見守っていた。

 銃口を向けられたまま、ライザを睨む。彼の表情も先ほどまでの爛々としたものではなくなり、眉根を寄せた真剣な顔つきになっていた。

 そうしているうちに、ライザはリオンをちらりと横目で見た。今にも泣きそうな弟を見て、何か思うことがあったのだろう。やがて深いため息をつき、俺に尋ねた。

「お前……どうやって俺がことに気づいた?」

 ライザのほうから訊いてくるとは思わず、つい意外そうな顔をしてしまう。

 ライザの告白通りだ。こいつは、最初から俺たち銃弾を当てる気はなかった。散々殺意を飛ばしておいて、殺す気は一切なかったのだ。おそらく、圧倒的な実力差を見せつけて俺たちの降参を狙っていたのだろう。

「勘。なんとなく」

 きっぱりと正直に答えると、ライザが眉をひそめた。

「ただ……」

 静かなトーンで言葉を紡ぐと、ライザの不服そうな表情が少し変わった。

「……俺ならリオンの前では人を殺せない」

 強いて言うなら、理由はこれだ。それは、ライザも同じだと思っていた。彼が弟を愛しているのなら、なおさら。

 そう告げるとライザはハッと息を呑み、持ち前の大きな目をさらに見開いた。
 だが、この勝負も第三者の乱入により強制的に幕を降ろされた。

「ライザ様!」

 不意にあがった荒声に誰もが反応を示す。

 現れたのは見知らぬエルフの青年だった。そのエルフは肩に深い引っかき傷がついており、流れ出る血を必死に押さえながらこちらまで駆けてきた。

「ラ、ライザ様……?」

 切っ先と銃口を向けあっている俺たちにエルフはうろたえる。しかし、彼の姿で一目見れば非常事態だとわかる。

「どうした。何があった?」

 銃口を下ろしたライザがエルフの青年に尋ねると、彼は声と体を震わせながら、しどろもどろにこう告げた。

「ま、魔物が……魔物と人間が……里を襲っています」

「なんだと!?」

 これにはライザも驚愕した。そしてすぐさまこちらを見てきたので、俺は慌てて首を振った。

「俺は何も知らねえよ!」

「ちげえ! 手伝えって言ってるんだ!」

 ライザの必死な表情につい目を丸くする。けれども、ライザの発言に最も驚いたのは、エルフの青年だった。

「ライザ様!? こいつら、人間ですよ!?」

「だからなんだよ。使えるものを使っちゃ悪いのか。それに、今はそんなことを言っている場合じゃないだろ」

 ライザがちらっと横を見ると、すでにアンジェが地面に転がった剣を拾い、鞘に戻していた。

「……当たり前なことを訊くんじゃないの」

 振り向きざまに微笑むアンジェだったが、切れ長の目は笑っていない。もうすでに臨戦する気満々のようだ。

 それに、俺も断るつもりはさらさらない。

「準備運動は終わったし、これも乗りかかった舟だし。やってやるさ」

 腕をぐるぐる回し、軽くストレッチをする。

 そんな俺たちの答えが意外だったのか、青年は何度も目をぱちぱちと瞬きをしていた。けれどもライザは期待通りだったようで、俺たちを見てニッと口角を上げる。

 青年は人間の俺たちがエルフに手を貸すことが理解し難いようだが、手を貸すには他にも理由があった。ひょっとしたら、その相手は俺たちの宿敵かもしれないからだ。

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