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第6章 森の奥の隠れ里

第97話 青き水のエルフ銃士

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「……え?」

 間抜けな声で頬に手を触れると、いつの間にか切れて血が流れていた。

 手の甲で流れた血を拭きながらライザを見る。

 彼は小型銃の銃口を俺に向けていた。いや、俺の頬が切れているということは、もう彼は発砲した後なのだろう。

 だが、レッグホルスターに手を伸ばしてからの過程が全く目で追えなかった。それどころか、発砲音ですら鳴っていなかったはずだ。

 混乱でうろたえていると、アンジェが剣の柄に手を添えながら、静かに告げた。

「……あなた、【銃士ガンナー】だったのね」

「がんなー? なんだそれ」

 銃口を俺たちに向けながら、ライザは不思議そうな顔をする。自分のクラス名がわかっていないのだろうか。だが、それを深追いできるほど、俺とアンジェには余裕はない。

「お前ら……さっき、『何をしたら手を貸してくれるのか』って言ったよな。そんなまどろっこしいこと、お互い面倒だろ」

 ライザは悪魔のようににやりとほくそ笑む。それだけで、彼が何をしたいのか十二分に伝わってしまった。

「――力づくで奪ってみろよ。その昔、お前ら人間がエルフにやったみたいにな」

 ライザの瞳孔の開いた瞳に、俺もアンジェも息を呑んだ。

 最初から俺たちに平和的な交渉なんて無理だった。ライザのこんなぎらついた殺気を浴びると、そう思うしかなかった。

「やっぱり……武力これが一番手っ取り早いってことね」

 アンジェも頬を引き攣らせながら、ゆっくりと鞘から剣を抜く。

「まあ、そうなるわな」

 気になることは多々あるが、そんな悠長に構えてなんていられない。

 諦めて俺も革のケースからバトルフォークを取り出し、柄を握って長さを伸ばす。

 いきなり現れたフォーク型の槍にライザもリオンも面を食らってぽかんとしていたが、二人共何も言及してこなかった。

「兄ちゃん……」

 今にも泣き出しそうな表情を浮かべながら、リオンがライザの名前を呼ぶ。

 だが、当の本人は不敵な笑みを浮かべるだけで退こうとしない。

「リオン……何かあったら頼んだぞ」

 ライザの言葉に悟ったのか、コクリと首を振ったリオンは避難するように俺たちから距離を取った。

「じゃあ……見せてもらおうか。人間様の実力って奴を」

 血走った目でライザが破顔する。その笑みこそ、彼との戦いのゴングだった。

 ――戦闘、開始だ。

「行くぞ!」

 掛け声と共に、ライザの元へ駆け込む。しかし、一歩踏み入れた途端、ライザが俺の足元に向かって発砲してきた。

「あぶねっ!」

 即座にその場で立ち止まる。

 ライザが撃った弾は地面に当たり、泥が俺のズボンの裾に飛んだ。だが、下を見てもそこには弾丸はなく、ただ土が一直線にえぐれているだけだった。

 足止めされた俺の隣では、アンジェが剣の切っ先を向けようとしていた。あの構えは、火炎放射を放つつもりなのだろう。

 しかし、ここでもライザのほうが攻撃を仕かけるのが早かった。

 ライザが発砲すると、アンジェの剣が弾き飛んだ。アンジェが振り下ろすところで彼の剣を狙ったらしい。

 弾かれたアンジェの剣がくるくると宙を舞い、離れた地面にサクッと突き刺さる。

「……なんて人なの」

 アンジェは苦笑いを浮かべながら、手をひらひらとさせる。幸い、彼には怪我はないようだ。しかし、これでアンジェは一本取られている。

 なんて野郎だ。早撃ちで、かつ命中率もずば抜けて高い。

 ライザの腕も相当だが、なんなのだあの銃は。発砲するところを見ていたが、トリガーを引いても発砲音はなかった。

 かろうじて「ビュンッ」とソニックブームのような音は聞こえたが、撃った時の閃光もないし、そもそも銃口に煙が立っていない。もしや、そもそも火薬を使っていないということなのか。

 ということはひょっとして、あの銃って――……。

「――水鉄砲かよ」

 頬を引き攣らせながらライザに言うと、彼はにんまりと笑ったまま俺に銃口を向けた。

「そんなちゃっちいのじゃねえよ……ウォーター・コア・ガンだ」

 いい加減俺もコアのことがわかってきた。おそらくあの銃の中にウォーター・コアが入っているのだろう。

 中身はただの水だ。だから発砲音もしないし、煙も立たない。それに加え、あいつの属性魔法は水だろうから、弾切れの心配もない。鬼に金棒というのはこのことだろう。
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