上 下
85 / 166
第5章 『死の森』へ

第85話 俺、覚醒

しおりを挟む
 辺りの空気が凍りついているのが自分でもわかった。

 俺の魔力が溢れ出しているのだろうか。広げた俺の両手から紫色の光がぼんやりと光っていた。

 俺の異様な気配にエレメントたちがうろたえる。だが、もう泣いても喚いても無駄だ。

 イメージ? 情熱? 勢い そんなこと、しったこっちゃねえよ。ただ今は――こいつらを一匹残らずぶちのめしたい。

 それが、俺が初めて抱いた殺意だった。

「俺を怒らせたこと……後悔させてやる」

 怒りをぶつけるように奴らを鋭く睨みつける。

 そして最大限の魔力を込めて、俺は奴らに向かって両腕を振り払った。
 
「『集団即死魔法ディジリッド』」

 魔法を詠唱すると、放たれた青い光がパァン!と分裂した。

 弾けた青い光は骸の形に変化し、エレメントたちの元へ飛んでいく。

 そして骸を模った光が奴らを貫通した時、この森につんざく金切り声が一面に轟いた。 

 陽炎に似た紫色の靄が燃えるように広がるエレメントたちが絶命したのだ。だが俺は奴らの最期を見届けることなく、その場で膝を落とした。

 あの魔法を放ってからいきなり全身に力が入らなくなった。魔力が枯渇してしまったのだろう。ただ、ポタポタとエレメントたちが残したコアが落ちる音を聞きながら、枯れた草原にうずくまる。

 横たわったまま呆然としていていると、森の空気が変わった気配を感じた。

 力を振り絞って体を起こし上げると、あれだけ霧のように濃かった『陰の気』が少し晴れていることに気づいた。ひょっとすると、あの死神をぶっ倒したから『陰の気』が弱まったのかもしれない。

 そうだ。こんなところでうかうかしてられないのだった。

 振り返り、後ろで横たわるアンジェに近づく。

「アンジェ?」

 小声で名を呼んでみるが、やはり反応はなかった。

 震える手で恐る恐る彼の脈を計る。すると、かろうじて脈拍を感じとることができた。危ない容態であるには変わりないが、彼はまだ生きている。

 一つ山を越えたからか、俺自身落ち着きを取り戻しつつあった。

 ひとまずここをさっさと出よう。話はそれからだ。

 アンジェの腹部からは未だに血が出ていたので、彼の鞄から包帯を拝借し、傷口に巻いた。これで止血できるかはわからないが、しないよりはマシだろう。

 あとはお互いの武器や転がったコアを回収し、そこから眠りについているアンジェを背負う。この時点で足元がふらついていたが、ここは俺が踏ん張るしかなかった。

 よろめきながら、森の奥へと再び歩き出す。

 ここまで来ると意識も朦朧としていた。 

 一歩足を進めるたびに頭が絞めつけられるように痛むし、まっすぐに歩けているのかわからないほどくらくらと眩暈がした。それでも俺は、ひたすら森の中を歩いた。

 そうしてしばらく歩いていると、途端に目の前が明るくなった。あれだけ重苦しかった空気も晴れ、爽やかな風が吹き抜けた。 

 この環境の変化に辺りを見渡してみるが、目を開けるのもやっとで周りの景色もぼんやりとしか見えなかった。

「エルフ……探さないと……」

 自分に言い聞かせるように独り言ちる。しかし、再び一歩踏み入れたところでガソリンが切れたようで、風に流されるようにその場で倒れ込んだ。

 懐かしい草の臭いがする。それに、陽の光が暖かい。どうやら本当に森を抜けたみたいだ。

 このままだと、この温もりに溶けてしまう。

 だめだ。もう限界だ。

 そう思った時、向こう側から誰かの足音が聞こえた。

 ぼうっとした意識でその足音を聴いていると、間もなくして小さな足が俺の頭元で立ち止まった。

「……だあれ?」

 幼い声が不思議そうな声で尋ねる。徐に視線を上げると、小さな影が俺を見下ろしていた。

 しかし、それ以上応えることができず、その影の顔を拝む前に俺は力尽きてしまった。

 もう瞼を開けることすらもできず、だんだんと意識が遠退いていく。

 ただ、真っ暗な世界の中で、強い風の音だけが脳内に響いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

兄と妹がはっちゃけるだけ

下菊みこと
ファンタジー
はっちゃけた兄妹のあれやそれや。 不定期更新するつもりです。 アルファポリス様でも投稿しています

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

処理中です...