上 下
64 / 242
第4章 ギルド、崩壊

第64話 そして魔の手が動き出す

しおりを挟む
 用心するに越したことはないので、掲示板を見るふりをしながら二人の会話に聞き耳を立てた。

「ちょっとコアみたいの拾ったから鑑定してくれないかな」

 男の顔は見えないが、意外と声が若い。ひょっとすると俺と大して変わらないかもしれない。けれどもフードの奥から聞こえるその声はどこかにたついており、いやらしさを感じた。

 もう少し様子を見たほうが良さそうだ。

「ほら、これなんだけど」

 対角線上から観察していると、男がポケットから石を出した。それは確かにコアのような石だった。

「これは……なんでしょう。私も初めてみました」

 セリナが真剣な表情でそういうのだから余程のものだろう。ただ、ここからでは距離があってよく見えない。

 かといって変に近づいたら怪しまれそうだし……。

 そんな具合で次の一手に困っていると、セリナが鑑定を始めていた。

「では、鑑定致します……『鑑定魔法アプレザイド』」

 ぼんやりとオレンジ色に光るセリナの様子になぜか男が小さく笑う。

 しかし――それが奴の作戦決行の合図だった。

 男は天井に向かって手を掲げ、パチンと指を鳴らすと、セリナが持っていた石から目が眩むほど眩しい光が放たれた。

 そこからすべてが一瞬で、何が起こったのか理解できなかった。

 何かが破裂したような爆発音が部屋中に響き、隅にいる俺たちですら感じるほど強い熱風が吹き荒れる。

 慌てて手で熱風をガードするが、風が強すぎて目を開けられなかった。しかし、流れ込んできたその風からは焦げ臭さだけでなく、鼻を突き刺すような腐敗臭も混ざっていた。

 アンジェはそれを強く吸ってしまったのか、俺の後ろでずっとむせている。

 爆発したのはおそらくあの石。コアだと思っていたがあれは爆弾だったということか?

 だが、うろたえている時間はなかった。

 慌ててガードしていた腕を解くと青黒い煙の中で地獄絵図のような光景が広がっていた。

 最初に飛び込んだのは爆発によって破壊された木製のカウンターだった。その近くには爆発を諸に食らったセリナが横たわっている。

 それだけではない。彼女の後ろで忙しなく動いていた他の職員たちも爆発に巻き込まれ、血を流して倒れていた。

 そんな光景を男は壊れたカウンターに足をかけながら見下すように眺めていた。

 あれだけ爆発の近くにいたのに、男は怪我の一つもしていないようだった。ただ、あの熱風でかぶっていたフードが落ち、顔が露わになっている。

「お前……何してくれてるんだ……」

 よろめきながら、男に一歩近づく。すると、俺に気づいた男がゆらりと揺らめくようにこちらへ顔を向けた。

「なんだ……お前、動けるんだ」

 男がニヤリと下衆な笑みを浮かべる。フードの色によく似た緑色の短髪に紫色の瞳。爬虫類のように吊り上がった大きな目。まだ半月程度しかこの街に住んではいないとはいえ、初めて見る顔だった。

「これ食らってほぼ無傷なんて、お前運がいいじゃん」

 男がニヤニヤとしながら口角を上げる。その顔を見ていると胸から炎のような怒りがふつふつと燃えたぎってきた。

 これだけセリナが……【創造者クリエーター】たちが傷ついているのに、男の卑下した表情からは悪意しか感じない。それでいて苦しんでいる彼女たちを楽しそうに眺めるなんて神経腐ってやがる。

「ふざけんなよこの野郎!」

 怒りを拳に変えて男のほうへと駆け出す。

 しかし、男は俺と戦う気はまったくなく、俺が突撃する前に出入り口まで一直線に走り抜けていった。

「くっそ!」

 急ブレーキをかけて急いで方向転換する。けれども男は扉をぶち開けたところで、さっさととんずらしていた。

「アンジェ! みんなを頼む!」

「えっ……ちょっとムギちゃん⁉︎」

 ようやく立ち上がったアンジェに構わず俺も男を追って一目散に駆け出す。

 後先なんて考えていなかった。出店準備をしている商人たちを横切り、朝の散歩をしている住民たちの間を猛スピードで通過する。中には悲鳴をあげる者もいたが、そんなことで足を止める訳にはいかない。

 男も俺も街の中をひたすら全力疾走していた。集会所から少なくとも百メートルは走っている。それでもお互いスピードを落とすことはない。

 ――絶対に許さない。

 今の俺を駆り立てているのは、奴に関する憎悪と怒りだった。

 彼女たちをあんな目に合わせて易々と見逃すなんてできるか。息があがっても、足がもつれて転びそうになっても、俺は諦めなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

理不尽まみれの異世界転生~最弱から始まる成り上がりサバイバル~

灰猫さんきち@2シリーズ書籍化
ファンタジー
主人公ユウが異世界転生した先は、鬼畜難易度のゲームを思わせる理不尽まみれの世界だった。 ユウのステータスはオール1! 最弱の魔物にボコられて死にかける始末。 理不尽な目にあいまくって毎日生きているのがやっとの状態だ。 それでも少しずつお金を貯めて腕を上げ、じょじょに強くなっていく。 やがて仲間を増やして店を経営したり、鍛冶スキルを覚えて生産しまくったり、国と交渉して開拓村を作ったり。 挑戦を続けるユウはいつしか最強になっていく。 最後にユウがやり遂げる偉業とは!? 最弱から始まるユウのサバイバル&成り上がり物語。 ※ファンタジー小説大賞参加中!投票よろしくお願いします。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...