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第3章 青年剣士の過日
第47話 出てこい!セレナのお友達
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やがて、土から丸みのある胴体ができあがる。
そこからさらに手足のようなものが生え、最終的には胴体の上に雪だるまの頭みたいに一回り小さな球体が乗っかった。そして、その球体に二つ穴を開けて目を作り出すと……謎な土人形ができあがった。
「はい! ゴレちゃんとムンちゃんです!」
セリナの紹介にゴレちゃんとムンちゃんは「ム~!」と鳴き声をあげて両手を掲げた。どうやら、挨拶してくれているらしい。
「これってもしかして……ゴーレム?」
二体を指しながらセリナに尋ねると、彼女は屈託のない笑みを浮かべながら頷いた。
ところでセリナさん。どちらがゴレちゃんでどちらがムンちゃんなのでしょうか。俺には同個体にしか見えないのですが。
そんなことを考えながら首を傾げていると、セリナはゴレちゃんとムンちゃんの視線に合わせてしゃがみこんだ。
「いいですか、今日からムギトさんの修行のお手伝いをしてあげてくださいね」
セリナの命令にゴレちゃんもムンちゃんも「ムー!」と返事をしながら敬礼する。そしてぴょんぴょんと跳ねながら元気に俺の周りを駆け回った。
「ゴレちゃんもムンちゃんも土さえあれば何度でも甦りますし、分裂させて個体を増やすこともできます。遠慮なく彼らの力を借りていいですから」
活発に動く二体をセリナは微笑ましそうに見つめる。こうして練習相手まで用意してくれるなんて本当至り尽せりだ。
「何やら何まで悪いな……」
申し訳なさそうに言うとセリナは「いえいえ」と首を横に振った。
「お世話になっているアンジェさんの頼みですから。それに――私も用事があってここに来たので」
「用事?」
深追いするべきではないのはわかっているが、つい聞き返してしまった。
なんせ、こんな町外れにわざわざ足を運ぶほどの用事なんて想像できない。
そんな素朴な疑問が浮かんでいるのがセリナにもわかったのか、彼女はクスッと笑った。
「よろしければ……ムギトさんも一緒に行きませんか?」
「え?」
ドキッとした。だが、それは彼女とご一緒できる甘いシチュエーションからではない――彼女の微笑みに愁いを感じたからだ。
それでも俺は、無意識のうちに頷いていた。
すると、セリナは「よかった」と嬉しそうに目を細めた。その笑みですらもどこか物悲しみを帯びていたが、ヘタレな俺はその理由を尋ねることができなかった。
◆ ◆ ◆
セリナに連れられ、この街はずれのさらに奥を歩く。
場所でいうとアンジェ宅のちょうど裏手辺りだろうか、こじんまりとした畑が現れた。
ただ、耕した痕跡はあるが、それ以上世話をしている様子はなかった。苗を植えただけで、あとは放置しているようだ。正確にいえば「畑だったところ」なのだろう。
また、畑には一部柵で区切られた区間があり、その一角には丸みを帯びた石碑が二つ並んで置かれていた。
石碑の周りにはちらほらと花が咲いているが、花壇のようには見えない。なんとも不思議な場所であった。
呆然とその区間を眺めていると、セリナは石碑の前にひざまずき、祈るように指を絡めた。
「『開花魔法』」
目を閉じ、呟くように魔法を演唱する。すると、彼女の呪文により石碑の周りで白い花が一気に咲き乱れた。また、その魔法で所々に咲いていた花も開花し、一面に広がる白い花のアクセントになっている。
こんなに美しい光景なのに、俺は言葉が出なかった。セリナが石碑の前で祈ったまま動かないからだ。ここで何か言葉を発してしまったら、懸命に祈る彼女の邪魔になってしまう。だから、俺も、一緒についてきたノアやゴレちゃんとムンちゃんも、彼女の祈りが終わるのを静かに待っていた。
やがて、セリナはゆっくりと目を開け、徐に立ち上がった。
「ムギトさんも、お参りはいかがですか?」
寂しげに笑いながら、セリナが石碑の前を避ける。もしかしなくても、これは墓のようだ。
「えっと……これってどなたのお墓?」
石碑の前に行きながら、恐る恐るセリナに尋ねる。
何も知らない俺に驚いたように目を瞠るセリナだったが、すぐに小さく笑った。
「……友達と、その家族のお墓です」
彼女の答えの前に、墓に刻まれた名前にハッと息を呑んだ。
――気づいてしまった。色々と。
頭の中で引っかかっていたことが、少しずつ繋がっていく。ただ、真相に近づけば近づくほど胸がちくりと痛んだ。
そこからさらに手足のようなものが生え、最終的には胴体の上に雪だるまの頭みたいに一回り小さな球体が乗っかった。そして、その球体に二つ穴を開けて目を作り出すと……謎な土人形ができあがった。
「はい! ゴレちゃんとムンちゃんです!」
セリナの紹介にゴレちゃんとムンちゃんは「ム~!」と鳴き声をあげて両手を掲げた。どうやら、挨拶してくれているらしい。
「これってもしかして……ゴーレム?」
二体を指しながらセリナに尋ねると、彼女は屈託のない笑みを浮かべながら頷いた。
ところでセリナさん。どちらがゴレちゃんでどちらがムンちゃんなのでしょうか。俺には同個体にしか見えないのですが。
そんなことを考えながら首を傾げていると、セリナはゴレちゃんとムンちゃんの視線に合わせてしゃがみこんだ。
「いいですか、今日からムギトさんの修行のお手伝いをしてあげてくださいね」
セリナの命令にゴレちゃんもムンちゃんも「ムー!」と返事をしながら敬礼する。そしてぴょんぴょんと跳ねながら元気に俺の周りを駆け回った。
「ゴレちゃんもムンちゃんも土さえあれば何度でも甦りますし、分裂させて個体を増やすこともできます。遠慮なく彼らの力を借りていいですから」
活発に動く二体をセリナは微笑ましそうに見つめる。こうして練習相手まで用意してくれるなんて本当至り尽せりだ。
「何やら何まで悪いな……」
申し訳なさそうに言うとセリナは「いえいえ」と首を横に振った。
「お世話になっているアンジェさんの頼みですから。それに――私も用事があってここに来たので」
「用事?」
深追いするべきではないのはわかっているが、つい聞き返してしまった。
なんせ、こんな町外れにわざわざ足を運ぶほどの用事なんて想像できない。
そんな素朴な疑問が浮かんでいるのがセリナにもわかったのか、彼女はクスッと笑った。
「よろしければ……ムギトさんも一緒に行きませんか?」
「え?」
ドキッとした。だが、それは彼女とご一緒できる甘いシチュエーションからではない――彼女の微笑みに愁いを感じたからだ。
それでも俺は、無意識のうちに頷いていた。
すると、セリナは「よかった」と嬉しそうに目を細めた。その笑みですらもどこか物悲しみを帯びていたが、ヘタレな俺はその理由を尋ねることができなかった。
◆ ◆ ◆
セリナに連れられ、この街はずれのさらに奥を歩く。
場所でいうとアンジェ宅のちょうど裏手辺りだろうか、こじんまりとした畑が現れた。
ただ、耕した痕跡はあるが、それ以上世話をしている様子はなかった。苗を植えただけで、あとは放置しているようだ。正確にいえば「畑だったところ」なのだろう。
また、畑には一部柵で区切られた区間があり、その一角には丸みを帯びた石碑が二つ並んで置かれていた。
石碑の周りにはちらほらと花が咲いているが、花壇のようには見えない。なんとも不思議な場所であった。
呆然とその区間を眺めていると、セリナは石碑の前にひざまずき、祈るように指を絡めた。
「『開花魔法』」
目を閉じ、呟くように魔法を演唱する。すると、彼女の呪文により石碑の周りで白い花が一気に咲き乱れた。また、その魔法で所々に咲いていた花も開花し、一面に広がる白い花のアクセントになっている。
こんなに美しい光景なのに、俺は言葉が出なかった。セリナが石碑の前で祈ったまま動かないからだ。ここで何か言葉を発してしまったら、懸命に祈る彼女の邪魔になってしまう。だから、俺も、一緒についてきたノアやゴレちゃんとムンちゃんも、彼女の祈りが終わるのを静かに待っていた。
やがて、セリナはゆっくりと目を開け、徐に立ち上がった。
「ムギトさんも、お参りはいかがですか?」
寂しげに笑いながら、セリナが石碑の前を避ける。もしかしなくても、これは墓のようだ。
「えっと……これってどなたのお墓?」
石碑の前に行きながら、恐る恐るセリナに尋ねる。
何も知らない俺に驚いたように目を瞠るセリナだったが、すぐに小さく笑った。
「……友達と、その家族のお墓です」
彼女の答えの前に、墓に刻まれた名前にハッと息を呑んだ。
――気づいてしまった。色々と。
頭の中で引っかかっていたことが、少しずつ繋がっていく。ただ、真相に近づけば近づくほど胸がちくりと痛んだ。
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