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第3章 青年剣士の過日

第46話 恋しちゃったんだ

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「ありがとう、セリナ。勉強になった」

 素直に礼を言うと、彼女も「いえいえ」と目を細める。

「多分、この武器はムギトさんにしか装備できないと思います。きっとこの武器がムギトさんのことを認めているんですよ」

 そう言って、セリナは両手で丁寧にバトルフォークを俺に手渡した。

 武器が俺のことを認めている……嬉しい言葉に胸がジーンとなった。それに、武器にも敬意を払っているのも【創造者クリエーター】らしい。

「……そういえば、セリナはこの武器を馬鹿にしないんだな」

 これまでのことを振り返る。

 魔物も、あのアンジェですらもこの武器を見せた時は固まったり、キョトンとしていた。あのシュールな空気感は作っている俺本人でも耐え難いものがあった。いや、こんなヘンテコな武器を見せられてすんなり受け入れるほうが難しい。

 だが、セリナは「とんでもない」と慌てて否定する。

「だって、ムギトさんの大事な武器じゃないですか。それを馬鹿になんてできませんよ」

 その優しい言葉と、全てを包み込むような温かい微笑みに、俺は思わず息を止めた。なんていい子なのだ。そして、なんて愛らしい子なのだ。体温が上がる。心音が高鳴る。ああ、メルトよ。「恋に落ちる音がした」とはこのことか。

 しかし、今はそんな感情を抱いている時間ではない。頭を振り、深呼吸をして気合いを入れ直す。

「ありがとう」

 そう一言告げ、俺は彼女から渡されたフォークを強く握った。

 ――修行の再開だ。

「大丈夫ですよムギトさん。落ち着いて、しっかりイメージしてください」

 セリナの助言通り、頭の中で強くイメージする。

 冷たい風……思えば雪というものは北国育ちの俺にとってとても身近なものだった。

 記憶を巡らせ、イメージに結びつける。思い出せ、あの凍てつく空気を。 視界を白く染め上がる光景を。そして二十年以上体に打ち付けられていた冷たい氷の結晶を――

「うぉぉぉ! いけぇぇ俺の内なる道産子魂ぃぃ!」

 想像力を熱意に変え、俺は呪文を叫んだ。

「『冷たい風コルド・ウィンド』!」

 すると、これまで雪程度しか出せていなかった結晶が霰くらいに凍っていた。

「おお! マジか!」

 これまでと打って変わったこの魔法に一番驚いたのは俺自身だった。まさかほんの少しの意識の違いでここまで変わるとは、思いもしなかったのだ。

 唖然としながらフォークを見ていると、後ろでセリナが拍手をした。

「その調子です! あとは……風というくらいだからもう少し風力がいるのかもしれません。武器を振ってみたらいかがですか?」

 いただいたヒントを元にもう一度、今度はフォークも振ってみる。

 そうすると、今度は勢いよく前方に霰が飛んだ。これは、少しさまになってきたかもしれない。

「すげえなセリナ! セリナの言った通りだ!」

 興奮して思わず振り向くと、セリナは「いえいえ」と謙虚になる。

「ムギトさんの筋がいいんですよ」

「いやいや、そんなことねえよ」

 セリナの言葉に照れ臭くなって頭を掻く。その隣でノアがにんまりと笑みを含んでいた。

「まあ、単純とも言うんだけどな」

「うるせえわ」

 嘲るように言うノアを睨みつけるが、欠伸されて終わった。半分冷やかしに来ているのは本当のようだった。うざったい。

 ――さて、魔法も進歩したはいいが、まだ問題はある。

 まず、範囲攻撃の割には攻撃範囲が広がっていない。それによりダメージ判定もわかっていない……何もないところで打っているのだから把握していないのも当然なのだが。

 ここからは実戦形式で行いたい……と言いたいところだが、雑魚敵ならまだしも、一人で魔物を相手にするのはまだ早い。複数相手なら尚更だ。

「何か的みたいなものがあればいいけど……ある訳ないしな」

 腕を組みながら独りごちる。

 その独り言はセリナにも届いていたようで、一緒になって考えてくれた。そうしているうちに、セリナが閃いたように手を叩いた。

「そうだ! 私の友達に手伝ってもらいましょう!」

「友達?」

「ウフフ、まあ、見ててください」

 笑いながらセリナは両手を広げ、いつものように手のひらをオレンジ色に光らせる。

「おいで! ゴレちゃん! ムンちゃん!」

 そう言ってセリナはその場でしゃがみ、地面に両手をつけた。

 彼女の目の前で突然土がもこもこと動き出す。その後も土は波打ったり、山のように膨らんだりと形を変えていった。
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