上 下
31 / 242
第2章 創造者《クリエイター》の冒険者ギルド

第31話 これは三叉槍であって、フォークではない

しおりを挟む
 現れたのは白いムカデのような生き物だ。ただし、体長は俺たちより大きく、おそらく二メートルはある。ギョロリとした目は鋭く、凶暴に見える。

 もう一体は白いうさぎだった。うさぎと言えども体は大きく、毛玉のようにコロコロとしていた。それに加えて耳の先が凍っているし、額についたツノも氷柱だ。氷属性の魔物だろう。

「あのムカデ、試し切りにぴったりじゃない」

 明るい口調でアンジェは言うが、目は笑っていなかった。彼もまた、魔物をる気満々だ。

「ムカデは私がやるから、ムギちゃんはうさぎちゃんをお願い」

「りょ、了解!」

 強く頷いて、革のケースからバトルフォークを取り出す。

 そして、前みたいに柄を強く握るとフォークは紫のオーラを纏って俺の身長くらいに伸びた。戦いの準備は十分――いざ、戦闘だ。

「よっしゃ! 行くぜ!」

 気合い十分に声を高らかにあげる。そこでようやく、みんなの視線が俺に集まっていることに気づいた。

「……あれ?」

 ふと、隣に顔を向けるとあれだけ鋭かったアンジェの目がバトルフォークを見て丸くなっている。

 他の魔物も同じだ。出てきたフォークにキョトンとしていた。張り詰めていたはずの空気が、シュールな雰囲気に変わっているのが嫌でもわかる。そして、岩の奥で避難しているノアが必死に笑いを堪えていることも。

 そんな中、ついにアンジェが腫れ物に触るような感じに訊いてきた。

「ムギちゃん……その武器は?」

「三叉槍です」

「え?」

「三叉槍です」

「そ、そう。個性的なデザインね」

 アンジェが頬を引きつらせながらそう返してくれたが、そのやり取りに耐えきれなくなったノアはついに後ろを向いてぷるぷる体を震わせて笑った。

「人の気も知らないで、このクソにゃんこ……!」

 馬鹿にしたように笑うノアへのムカつきが、怒りとなってわなわなと沸き立つ。

 その憤りを発散するように俺はフォークの面を魔物たちに向け、怒鳴るように魔法を唱えた。

「『冷たい風コルド・ウィンド』」

 手の体温が一気に下がり、冷気を伝ったフォークの面から雪が出る。

 その雪はうさぎとムカデの顔面に当たり、驚いた二体は反射的に退いた。

 その隙を、アンジェが逃がさない。

「ナイス、ムギちゃん」

 高々と飛んだアンジェは剣を掲げ、勢いよくムカデを叩き切った。


 斬撃はムカデの胴体を切り裂き、赤黒い液体が舞った。アンジェに切り裂かれたムカデは鳴き声をあげながら後ろに転がる。一撃で致命傷だ。だが、これには当の本人も驚いていた。

「まあ、鋭い切れ味。前に使っていたのと段違いだわ。流石、魔王の配下のコアね」

 剣の切っ先を見ながらアンジェは満足そうに微笑む。

 そんな彼の戦いぶり目を奪われているうちに、今度はうさぎが攻撃を仕かけてきた。

 うさぎが大きく息を吸うと、俺に向けて氷の塊を吐き出した。

「うお!」

 吐き出された氷は弧を描いて俺の足元に落ちる。攻撃は外れたが、地面に落ちた氷の塊は水で湿った地面を一瞬にして凍らせた。あれに当たっていたら、俺も凍っていたのだろうか。

 だが、怯んでいる暇はない。

 間髪入れずに今度はうさぎがツノを向けて俺に突っ込んできた。ジャンプしたうさぎは一気に俺の懐に入る。あまりの速さに避けることはできず、間合いは逆に近すぎてフォークでは刺せない。空いているのは、左手だけだ。

「うおりぁぁ!」

 突撃するうさぎに咄嗟に左フックを決める。

 殴られたうさぎは壁になっている岩に直撃した。短い断末魔をあげたうさぎはその場で落ちて伸びている。ダメージは与えられたが、コアは出ていないのでまだ倒せてはいない。それと、あれだけ思い切り殴っても小手のおかげで左手に痛みはなかった。手を握ったり開いたりしても、小手は傷ついていない。この弾力性のある緩衝材に助けられたのか。

 防御力一.五増しの恩恵に感心していると、ノアが俺に話しかけてきた。

「おい、貴様のステータスが更新されたぞ」

 振り返るとノアが岩の上に乗って尻尾を揺らしていた。彼の前には青いボードが浮かんでいる。ステータスボードだ。

「さっきは防御力しか上がっていなかった。だが、今は攻撃力も『三』上がっている。多分貴様のバトルスタイルに伴って更新されたのだ」

 ノアが短く笑うと、ステータスボードはフッと消えた。 

「ステータスの更新って、そんなことあるのかよ」

「私も初めてのことだからよくわからん――ほら、油断するな。次、来るぞ」

 ノアに言われハッとうさぎを見ると、奴はすでに態勢整え終えていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...