上 下
26 / 242
第2章 創造者《クリエイター》の冒険者ギルド

第26話 コアの武器

しおりを挟む
「しかもセリちゃんは鑑定スキル持ち。本当に優秀なんだから。ただの可愛い受付嬢なんて思っていたらダメなんだかね」

「お、恐れ入ります」

 ウィンクするアンジェだったが、セリナは「そんなことないです」と首を振って謙遜した。

「私なんてまだまだです。ギルド創設者様なんて家まで一瞬で造れたって言いますし……」

「何それ。もう神じゃん」

「それは比べる相手が違うわよセリちゃん。あのお方は最早伝説なんだから」

 アンジェのフォローにセリナははにかみながら会釈する。俺からしてみれば、セリナも十分優秀だと思うのに。

 さて、【創造者クリエーター】が凄いのは勿論なのだが、その能力を成し得るにはコアの力も必要なのだという。

「魔物のコアには魔力が溜まっているので、ベースとなる物質さえあればこうして魔法で合成もできるんです。しかもその魔物特有の魔力を利用して作るので、この小手みたいに魔物の特色が現れることがあるんですよ」

 そう言ってセリナはできあがった小手の緩衝材部分を指差した。言わずもがな、このジェル状の緩衝材がスライムの特色を現している。

 なるほど、これはノアも「拾っておけ」と言うはずだ。

 ふとノアを見ると、奴もにんまりと口角を上げてこちらを見ていた。そのゲスい笑顔からノアがなぜコアの説明を端折った理由も把握した。ただ、面倒臭かっただけである。

「よかったな。専門家に教えてもらえて」

 皮肉ってくるノアに思わず舌打ちする。

 この数十分でコアのことも理解できたが、クラスの能力格差をひしひしと感じた。

 万能すぎないか【創造者クリエーター】。そして、お前はいったいなんなんだ【赤子の悪魔ベビー・サタン

 世界の不条理に不貞腐れそうになったが、せっかくセリナが作ってくれたので小手をつけてみた。

 ベースが金属だから重たいかと思ったが、想像よりも軽い着け心地で動きにくさは感じなかった。これなら戦闘も妨げないし、防御力も上がる。

「ありがとう、アンジェ。セリナ」

 素直に礼を言うと、二人とも「どういたしまして」と微笑んだ。美男美女の笑顔は絵になるなと思ったのは内緒だ。

 ひと段落ついたところで、ふと思い出した。

 確かアンジェの新しい剣もコアから作ったと言っていたはず。

「なあ、その剣のコアってもしかして」

「そ。ルソードのコアから作ったの」

「ウフッ」と笑ったアンジェだったが、俺はつい退いてしまった。

 確かに剣のデザインはナイフに近いと感じたが、それがまさか昨日自分の肩をぶっ刺したものから取られているとは――ちょっと血の気が引く。

 それを言うと俺も同じか。俺だって、バトルフォークでぶっ刺したスライムの小手をつけているのだ。

「これって自分がった魔物で作った武器防具を使ってるんだな……」

 冷静になって考えると、俺のやっていることってただのサイコパス。

 そんな懸念をしていると、アンジェが「うーん」と腕を組んで唸った。

「魔物も『倒した』とは言うけど、『殺した』訳ではないのよね。コアをなくした彼らは魔界に戻るだけ」

「魔界? そんなのがあるのか?」

「あくまでも言い伝えだけどね。人は天に昇る。魔物は地に帰る。そうやって言われてるのよ」

 魔界。また新たな単語が出てきた。それが本当に存在するのなら、そこの住民が魔物で、そこを統べる者が魔王……ということだろうか。ここに来てようやく魔王に関する情報を得た気がする。覚えておこう。

「でも、それならなんで消えた時にコアだけ残るんだ?」

 なんとなしに浮かんだ疑問を二人にぶつける。

 アンジェは「鋭いわね」と褒めてくれたが、彼もセリナも回答に困っていた。彼らいわく、コアには謎が多く、まだ解明されていないことがたくさんあるらしい。

「それを研究するのも、私たちの仕事なんですよ」

「え、だって他にもクエストの斡旋やアイテムの錬成もやってるんだろ? 大変じゃないの?」

「大変と言えば大変ですけど……でも、やりがいがあって楽しいですよ」

 セリナが口角を上げてにっこりと笑う。その屈託のない笑顔が眩しくて目がくらみそうになる。

「やりがいか……凄いなセリナ」

 ああ、俺に足りないものはこの輝きなんだろうなあ。俺

 なんて、働く前から目が死んでたもんなあ。そら内定決まらねえわ。

 そんなことをしみじみと思っていると、アンジェがフフッと微笑ましくしていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...