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第1章 異世界《エムメルク》の歩き方
第15話 長閑な街『オルヴィルカ』
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「あたしはこれから街に戻るけど……行く宛てがないのなら、一緒にどう?」
「いいんすか?」
アンジェの提案はとても光栄だった。手当てしてくれたとはいえ、街へ行くまでの道中で魔物に会ったらどうなっていたか。多分、スライムでも今度は負けると思う。それに、アンジェは強くて頼りになる。
「ありがとうございます。助かります!」
その場で会釈すると、アンジェは「気にしないで」と笑った。
さっそく出発しようと立ち上がろうとする。だが、足に力を入れただけで、スライムとルソードに攻撃を喰らった腹部が痛んだ。
「あらあら、そこも怪我していたのね。大丈夫?」
顔を歪めた俺を見て、アンジェは一瞬驚いたが、すぐに手を伸ばしてくれた。
「す、すいません」
恥ずかしく思いながらも、アンジェの手を取ってやっと立ち上がる。その情けなさにばつが悪くなって頬を掻いて彼から視線を逸らすと、アンジェは「やれやれ」と言うように息を吐いた。
「……まずは『神官様』のところね」
「神官様?」
――って、誰だ?
思わず小首を傾げると、アンジェは「フフッ」と口角を上げながらウインクした。
「会ったらわかるわよ。凄い人だから」
「さ、行くわよ」そう言って先に行くアンジェに、俺は目をパチクリとさせてしまったが、行く宛もないので着いていくことにした。
◆ ◆ ◆
アンジェに連れられておよそ三十分。ここで俺は改めてここが異世界だということを実感した。
「おー……すげー……」
飛び込んできた街並みに思わず感動の声をあげる。
たどり着いた場所は決して大きくはないが、活気のある街だった。
いくつものマーケットが並んでおり、雑貨や食べ物を売る商人の明るい声が飛び交う。広場では子供たちが楽しそうに駆け巡り、その子たちを見守るように保護者らしきマダムたちが和気藹々と駄弁っている。また、建てられている住宅も外国な造りでつい見入ってしまった。こんなレンガ調で三角屋根の家なんてゲームかおもちゃ屋に置いてあるようなドールハウスでしか見たことがない。それに、道だってコンクリートではなくて石造りだ。あれだけ自然いっぱいな草原だったのに、少し歩いただけで随分と景色が変わったものだ。
興味津々に街をきょろきょろと見ていると、アンジェが微笑ましそうに話しかけてきた。
「ここは『オルヴィルカ』よ。あたしの故郷でもあるの。それで、神官様がいるのはあそこよ」
そう言ってアンジェが指差した先には屋根のところに鐘がついた建物があった。壁についたステンドグラスがここからでも見えるし、白い壁はこのレンガ造りの家並みからは異端で、とても目立っている。どうやら教会のようだ。
教会の扉を開けると、シスターが箒で床を掃いていた。だが、アンジェが来たことに気づくと、シスターは「あら」と優しく笑った。
「おかえりアンジェ。この方は?」
「ただいまシスター・モネ。この子、怪我をしているの。神官様にお会いできないかしら」
「まあ、大変! すぐにお呼びするわ」
モネと呼ばれたシスターは箒を壁に立てかけると、早足で奥へと入っていった。
神官を待つ間、疲れたので教会の長椅子に座らせてもらった。
教会の中は木造で、天井が筒抜けになっていた。屋根の近くについたステンドグラスが陽の光に反射して床を色鮮やかに照らしている。ゲーム以外でこんな建物に入ったことがなかったから、その神聖な空気に少しばかり緊張していた。
神官。アンジェは「凄い人」と言っていたが、いったいどんな人なのだろうか。神官というくらいだから、色白で金髪の優男な神父みたいな感じだろうか。そんな勝手なイメージを膨らませているうちに、やがて廊下から誰かの足音が聞こえる。神官様のお出ました。
気を引き締めて、背筋を伸ばす。すると、奥から黒い丈の長い服を着た男が入ってきた。
「遅くなってすまない」
「ん!?」
現れた男に、俺は思わず目を瞠った。
「いいんすか?」
アンジェの提案はとても光栄だった。手当てしてくれたとはいえ、街へ行くまでの道中で魔物に会ったらどうなっていたか。多分、スライムでも今度は負けると思う。それに、アンジェは強くて頼りになる。
「ありがとうございます。助かります!」
その場で会釈すると、アンジェは「気にしないで」と笑った。
さっそく出発しようと立ち上がろうとする。だが、足に力を入れただけで、スライムとルソードに攻撃を喰らった腹部が痛んだ。
「あらあら、そこも怪我していたのね。大丈夫?」
顔を歪めた俺を見て、アンジェは一瞬驚いたが、すぐに手を伸ばしてくれた。
「す、すいません」
恥ずかしく思いながらも、アンジェの手を取ってやっと立ち上がる。その情けなさにばつが悪くなって頬を掻いて彼から視線を逸らすと、アンジェは「やれやれ」と言うように息を吐いた。
「……まずは『神官様』のところね」
「神官様?」
――って、誰だ?
思わず小首を傾げると、アンジェは「フフッ」と口角を上げながらウインクした。
「会ったらわかるわよ。凄い人だから」
「さ、行くわよ」そう言って先に行くアンジェに、俺は目をパチクリとさせてしまったが、行く宛もないので着いていくことにした。
◆ ◆ ◆
アンジェに連れられておよそ三十分。ここで俺は改めてここが異世界だということを実感した。
「おー……すげー……」
飛び込んできた街並みに思わず感動の声をあげる。
たどり着いた場所は決して大きくはないが、活気のある街だった。
いくつものマーケットが並んでおり、雑貨や食べ物を売る商人の明るい声が飛び交う。広場では子供たちが楽しそうに駆け巡り、その子たちを見守るように保護者らしきマダムたちが和気藹々と駄弁っている。また、建てられている住宅も外国な造りでつい見入ってしまった。こんなレンガ調で三角屋根の家なんてゲームかおもちゃ屋に置いてあるようなドールハウスでしか見たことがない。それに、道だってコンクリートではなくて石造りだ。あれだけ自然いっぱいな草原だったのに、少し歩いただけで随分と景色が変わったものだ。
興味津々に街をきょろきょろと見ていると、アンジェが微笑ましそうに話しかけてきた。
「ここは『オルヴィルカ』よ。あたしの故郷でもあるの。それで、神官様がいるのはあそこよ」
そう言ってアンジェが指差した先には屋根のところに鐘がついた建物があった。壁についたステンドグラスがここからでも見えるし、白い壁はこのレンガ造りの家並みからは異端で、とても目立っている。どうやら教会のようだ。
教会の扉を開けると、シスターが箒で床を掃いていた。だが、アンジェが来たことに気づくと、シスターは「あら」と優しく笑った。
「おかえりアンジェ。この方は?」
「ただいまシスター・モネ。この子、怪我をしているの。神官様にお会いできないかしら」
「まあ、大変! すぐにお呼びするわ」
モネと呼ばれたシスターは箒を壁に立てかけると、早足で奥へと入っていった。
神官を待つ間、疲れたので教会の長椅子に座らせてもらった。
教会の中は木造で、天井が筒抜けになっていた。屋根の近くについたステンドグラスが陽の光に反射して床を色鮮やかに照らしている。ゲーム以外でこんな建物に入ったことがなかったから、その神聖な空気に少しばかり緊張していた。
神官。アンジェは「凄い人」と言っていたが、いったいどんな人なのだろうか。神官というくらいだから、色白で金髪の優男な神父みたいな感じだろうか。そんな勝手なイメージを膨らませているうちに、やがて廊下から誰かの足音が聞こえる。神官様のお出ました。
気を引き締めて、背筋を伸ばす。すると、奥から黒い丈の長い服を着た男が入ってきた。
「遅くなってすまない」
「ん!?」
現れた男に、俺は思わず目を瞠った。
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