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第1章 異世界《エムメルク》の歩き方
第12話 この世はだいたいオワタ式
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「うお! なんだこれ!」
フォークの先から出てきた雪は魔物の顔面に雪が直撃する。
こんな間近で雪が出てくるとは思わなかったのか、魔物は奪われた視界と冷たさで体がよろめいた。
――今しかない。
「うおらぁ!」
気合いの入れた掛け声で男を押し出し、ナイフを払い除ける。
やっと魔物から解放されたところで今度は一目散に退避だ。
「行くぞノア!」
俺はフォークとノアの胴体を持って一気に駆け出した。
「へえ、やるではないか」
嬉しそうな声をあげながら、ノアは器用に俺の腕をすり抜け、一瞬で俺の頭の上に乗る。
走っている間に、フォークは自分の役目を終えたかのように元の長さに戻った。小さいとはいえ持っているのは邪魔だ。けれども、腰についているケースに入れ戻す暇はない。
「待てこのガキ!」
後ろから怒った声がする。振り向くまでもない。奴の憤怒と殺気がビリビリと肌で痛みを感じるくらい伝わってくる。
「おいノア! 一応確認するけどよ、この世界では死んでも生き返れるんだよな!?」
この世界はRPGゲームと酷似している。「死んでしまうとは情けない」と国王なり神父なりが生き返させてくれてもおかしくないはずだ。死にたくはないが、死んでしまった時のための希望がほしい。
だが、ノアの答えは実に曖昧だった。
「できないことはないが、期待するのではないぞ」
「なんだそれ、どういうことだ?」
突っかかるように尋ねると、ノアがため息をこぼした。
「余程体が劣化していなく、死んだ者の御霊がこの世に残っていれば御霊を体に戻すことができる。ただ……そこまでできる輩はこの世界ではほぼいないのだよ」
その事実を聞いた時、体の血の気が一気に引いた。
つまり――死んだらゲームオーバーだ。しかもコンティニューできないオワタ式の。
「なんとかしろよ神の使い!」
「できたら逃走しないし、こんなに必死にならない! 貴様が死んだら私も消えるんだから!」
「はっ⁉︎ それ、どういう――」
聞き捨てならないノアの発言を聞き返そうとした途端、俺の肩に何かがぶつかった。
その衝撃でバランスを崩し、草原の上に転ぶ。転んだ勢いで頭に乗っていたノアも吹っ飛んだ。しかし、ノアはすぐに着地し、眉間にしわを寄せたまま顔を上げた。
その時、絶句したノアの目が大きく見開いた。それでも俺は自分が置かれている状況を理解できていなかった。
「いってえ……」
突き飛ばされた後ろ肩がズキズキと痛む。痛みだけではない。肩が火傷したみたいに熱いし、痛すぎて呼吸も上手くできない。
恐る恐る痛む肩に手を伸ばす。肩に触れると、生温かい血がドクドクと流れ出ていた。しかも、鋭利な刃が俺の肩を突き刺している。それが魔物の持っていたナイフだと気づいた時、俺の意識は遠退きそうになった。
「ったく、手間かけさせやがって」
背後から魔物の声が聞こえる。だが、振り向こうとした瞬間に魔物が俺の肩に刺さっているナイフを容赦なく抜いた。
「うあぁぁ!」
俺の金切声が草原に響き渡る。そんな苦しむ俺を見て、魔物は蔑むように笑う。
「いい気味だな、クソガキ」
魔物はニヤリと笑ったまま、俺の血がついたナイフの峰を舐める。
逃げなければいけないのはわかっている。だが、血が流れる肩を押さえるので精一杯で、走るどころか立ち上がることもできなかった。
俺をかばうようにノアが魔物の前に立ち塞がる。しかし、どんなに牙を向けても、威嚇しても、この姿では魔物に叶うはずがなく、足蹴にされて吹っ飛ばされた。
「ノア!」
駆け寄りたくても肩に激痛が走って動けない。
だが、魔物は容赦なく俺の前に立ちふさがる。
「じゃーな、さっさと死にやがれ」
そう言って魔物が天に掲げたナイフは太陽の光に反射してギラリと光った。
避けなければ死ぬ。わかっているのに、指一本も動かすことができない。
――あ、もう死んだ。
魔物が掲げたナイフを振り下ろした時、俺は目をつぶることもできずに、ただ脳天にナイフが突き刺されるのを待つことしかできなかった。
フォークの先から出てきた雪は魔物の顔面に雪が直撃する。
こんな間近で雪が出てくるとは思わなかったのか、魔物は奪われた視界と冷たさで体がよろめいた。
――今しかない。
「うおらぁ!」
気合いの入れた掛け声で男を押し出し、ナイフを払い除ける。
やっと魔物から解放されたところで今度は一目散に退避だ。
「行くぞノア!」
俺はフォークとノアの胴体を持って一気に駆け出した。
「へえ、やるではないか」
嬉しそうな声をあげながら、ノアは器用に俺の腕をすり抜け、一瞬で俺の頭の上に乗る。
走っている間に、フォークは自分の役目を終えたかのように元の長さに戻った。小さいとはいえ持っているのは邪魔だ。けれども、腰についているケースに入れ戻す暇はない。
「待てこのガキ!」
後ろから怒った声がする。振り向くまでもない。奴の憤怒と殺気がビリビリと肌で痛みを感じるくらい伝わってくる。
「おいノア! 一応確認するけどよ、この世界では死んでも生き返れるんだよな!?」
この世界はRPGゲームと酷似している。「死んでしまうとは情けない」と国王なり神父なりが生き返させてくれてもおかしくないはずだ。死にたくはないが、死んでしまった時のための希望がほしい。
だが、ノアの答えは実に曖昧だった。
「できないことはないが、期待するのではないぞ」
「なんだそれ、どういうことだ?」
突っかかるように尋ねると、ノアがため息をこぼした。
「余程体が劣化していなく、死んだ者の御霊がこの世に残っていれば御霊を体に戻すことができる。ただ……そこまでできる輩はこの世界ではほぼいないのだよ」
その事実を聞いた時、体の血の気が一気に引いた。
つまり――死んだらゲームオーバーだ。しかもコンティニューできないオワタ式の。
「なんとかしろよ神の使い!」
「できたら逃走しないし、こんなに必死にならない! 貴様が死んだら私も消えるんだから!」
「はっ⁉︎ それ、どういう――」
聞き捨てならないノアの発言を聞き返そうとした途端、俺の肩に何かがぶつかった。
その衝撃でバランスを崩し、草原の上に転ぶ。転んだ勢いで頭に乗っていたノアも吹っ飛んだ。しかし、ノアはすぐに着地し、眉間にしわを寄せたまま顔を上げた。
その時、絶句したノアの目が大きく見開いた。それでも俺は自分が置かれている状況を理解できていなかった。
「いってえ……」
突き飛ばされた後ろ肩がズキズキと痛む。痛みだけではない。肩が火傷したみたいに熱いし、痛すぎて呼吸も上手くできない。
恐る恐る痛む肩に手を伸ばす。肩に触れると、生温かい血がドクドクと流れ出ていた。しかも、鋭利な刃が俺の肩を突き刺している。それが魔物の持っていたナイフだと気づいた時、俺の意識は遠退きそうになった。
「ったく、手間かけさせやがって」
背後から魔物の声が聞こえる。だが、振り向こうとした瞬間に魔物が俺の肩に刺さっているナイフを容赦なく抜いた。
「うあぁぁ!」
俺の金切声が草原に響き渡る。そんな苦しむ俺を見て、魔物は蔑むように笑う。
「いい気味だな、クソガキ」
魔物はニヤリと笑ったまま、俺の血がついたナイフの峰を舐める。
逃げなければいけないのはわかっている。だが、血が流れる肩を押さえるので精一杯で、走るどころか立ち上がることもできなかった。
俺をかばうようにノアが魔物の前に立ち塞がる。しかし、どんなに牙を向けても、威嚇しても、この姿では魔物に叶うはずがなく、足蹴にされて吹っ飛ばされた。
「ノア!」
駆け寄りたくても肩に激痛が走って動けない。
だが、魔物は容赦なく俺の前に立ちふさがる。
「じゃーな、さっさと死にやがれ」
そう言って魔物が天に掲げたナイフは太陽の光に反射してギラリと光った。
避けなければ死ぬ。わかっているのに、指一本も動かすことができない。
――あ、もう死んだ。
魔物が掲げたナイフを振り下ろした時、俺は目をつぶることもできずに、ただ脳天にナイフが突き刺されるのを待つことしかできなかった。
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