小さな恋の行方(修正版)

花影

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第3章 大団円円舞曲

6 幸せを掴んだコリンシアの想い3

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 父様の挨拶で祝賀会が始まった。いつもの事だけど、音楽が流れ始めると父様は真先に母様に踊りを申し込む。優雅に踊る2人の姿はいつ見ても素敵だ。自分もティムと踊りたくなり、ここ数日の不調も忘れ、ティムの袖を引っ張っておねだりしていた。
「後で、一緒に踊ってくれる?」
「もちろんだよ」
 優しい彼は笑顔で応じ、手に口づけてくれた。やがて曲が変わり、私達は喝采を浴びながら広間の中央に出て行く。
 踊るのが楽しい。ティムと踊れるのが楽しい。留学から帰って来て1年余り。一緒に公の場に出るのが当たり前になったけど、何度踊ってもワクワク感が止まらない。彼のリードに合わせてステップを踏めば、気分が悪いのも忘れていた。
 楽しくてあっという間に曲が終わっていた。もっと踊りたかったけど、ティムがさりげなく休憩を提案してくれる。ティムはワイン、私は甘めの果実酒を給仕係からもらい、熱気のこもる広間から中庭に通じる露台に出ると、どこかほっとした気持ちになった。
「フォルビア公就任おめでとう」
「ありがとう」
 ガラスが合わさって涼やかな音がする。いつも通り飲もうとしたのだけれど、強いアルコールの匂いを嗅いだとたん猛烈な吐き気に襲われる。ティムが狼狽する中、耐えきれなくなってその場にしゃがみ込んだ。
「コリン!」
 こんな時に心配かけてしまって申し訳なかった。だけど、気持ちが悪くて立ち上がることもできない。そうしているうちに異変を察知してくれたオリガが来てくれた。
「姫様、如何されましたか?」
「気分が……」
 久しぶりにルークと2人で過ごす時間を楽しんでいたオリガの邪魔をして申し訳なかった。ごめんなさいと謝ろうとするけど、言葉が出てこない。
「とにかく、場所を移動しましょう。私は陛下と皇妃様にご報告してくるから、先にお部屋へ姫様をお運びして」
「分かった」
 ティムが返事をするとともに私の体がふわりと浮いた。大好きな人の腕の中に納まって安心したけれど、残念ながら気分の悪さは良くならなかった。



 無事に部屋に戻り、窮屈な礼装を解いて楽な夜着に着替えると、気分の悪さは幾分かやわらいだ。もう大丈夫だから心配かけたことをティムに誤りたかったけど、心配性のイリスが寝台から出るのを許してくれない。そうしているうちに母様とオリガがお医者様を連れて部屋に入ってきた。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫」
「念のために診ていただきましょう」
 母様に懇願されてしまうと断ることなどできない。奥棟に常駐してくれている年配の女医に脈や熱を測ってもらい、そしていくつか問診に応える。
「姫様、お月のものが最後に来たのはいつでございますか?」
 最後の質問に私は考え込んだ。そういえば来ていない。忙しくて乱れているのだろうと思うのだけど……。
「夏至祭の前……かな?」
 私の答えに女医と母様は微笑み、オリガは深いため息を漏らす。
「おめでとうございます。姫様はご懐妊されておられます」
 女医の言葉に私は目をしばたかせる。
「赤ちゃん?」
「そうよ、コリン。ここ数日のあなたの様子を見て、もしかしたらと思っていたのだけど」
 唖然としている私を母様は抱きしめて額に優しく唇を落とす。
「ここに……ティムの赤ちゃん……」
 まだ信じられないけど、お腹に触れてみる。ここに愛する人との子供が宿っている。この事実にじわじわと喜びがわき起こってきた。
「おめでとう、コリン。良かったわね」
 母様は手放しで喜んでくれているが、ここではたと気付く。母様はまだ30歳なのに孫が出来ても嫌じゃないのだろうか? 
「母様、嫌じゃないの?」
「あらどうして?」
 私が尋ねると母様は不思議そうに首をかしげる。そして優しい笑顔で答えた。
「家族が増えるのって素敵なことじゃない?」
 笑顔で答える母様が眩しかった。こんな風に手放しで喜んでもらえるなんて、私もお腹の子も幸せかもしれない。部屋の外で心配して待ってくれているティムにも早く教えてあげたい。
「じゃあ、私達は広間に戻るわね。ティムを呼ぶから、ちゃんと教えてあげて」
 母様はそう言って皆を促して部屋を出て行く。やがてためらいがちに扉が叩かれ、返事をすると焦燥したティムが入ってきた。
「コリン……」
 私の姿を見てティムは泣きそうな表情を浮かべている。待たされている間にきっと悪い方向へ考えてしまっていたのは容易に想像できた。なんだか本当に申し訳なくて、とにかく謝るしかない。
「驚かしてごめんね、ティム」
「大丈夫なのか?」
 彼は寝台に近寄ると、私を抱きしめた。彼の腕の中で頷くと、幾分かホッとした表情を浮かべる。嬉しい出来事は早く教えてあげたい。私はすぐに本題に入った。
「あのね……赤ちゃん、出来たの」
 ティムは目を見開いて驚いていた。しばらく固まっていたけど、徐々に顔がほころんでくる。
「本当に?」
「うん」
 私が頷くと、彼はもう一度私をギュッと抱きしめて「ありがとう」と言ってくれた。そして互いに顔を見合わせると、唇を重ねて喜びを分かち合った。

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