57 / 60
第3章 大団円円舞曲
6 幸せを掴んだコリンシアの想い3
しおりを挟む
父様の挨拶で祝賀会が始まった。いつもの事だけど、音楽が流れ始めると父様は真先に母様に踊りを申し込む。優雅に踊る2人の姿はいつ見ても素敵だ。自分もティムと踊りたくなり、ここ数日の不調も忘れ、ティムの袖を引っ張っておねだりしていた。
「後で、一緒に踊ってくれる?」
「もちろんだよ」
優しい彼は笑顔で応じ、手に口づけてくれた。やがて曲が変わり、私達は喝采を浴びながら広間の中央に出て行く。
踊るのが楽しい。ティムと踊れるのが楽しい。留学から帰って来て1年余り。一緒に公の場に出るのが当たり前になったけど、何度踊ってもワクワク感が止まらない。彼のリードに合わせてステップを踏めば、気分が悪いのも忘れていた。
楽しくてあっという間に曲が終わっていた。もっと踊りたかったけど、ティムがさりげなく休憩を提案してくれる。ティムはワイン、私は甘めの果実酒を給仕係からもらい、熱気のこもる広間から中庭に通じる露台に出ると、どこかほっとした気持ちになった。
「フォルビア公就任おめでとう」
「ありがとう」
ガラスが合わさって涼やかな音がする。いつも通り飲もうとしたのだけれど、強いアルコールの匂いを嗅いだとたん猛烈な吐き気に襲われる。ティムが狼狽する中、耐えきれなくなってその場にしゃがみ込んだ。
「コリン!」
こんな時に心配かけてしまって申し訳なかった。だけど、気持ちが悪くて立ち上がることもできない。そうしているうちに異変を察知してくれたオリガが来てくれた。
「姫様、如何されましたか?」
「気分が……」
久しぶりにルークと2人で過ごす時間を楽しんでいたオリガの邪魔をして申し訳なかった。ごめんなさいと謝ろうとするけど、言葉が出てこない。
「とにかく、場所を移動しましょう。私は陛下と皇妃様にご報告してくるから、先にお部屋へ姫様をお運びして」
「分かった」
ティムが返事をするとともに私の体がふわりと浮いた。大好きな人の腕の中に納まって安心したけれど、残念ながら気分の悪さは良くならなかった。
無事に部屋に戻り、窮屈な礼装を解いて楽な夜着に着替えると、気分の悪さは幾分か和らいだ。もう大丈夫だから心配かけたことをティムに誤りたかったけど、心配性のイリスが寝台から出るのを許してくれない。そうしているうちに母様とオリガがお医者様を連れて部屋に入ってきた。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫」
「念のために診ていただきましょう」
母様に懇願されてしまうと断ることなどできない。奥棟に常駐してくれている年配の女医に脈や熱を測ってもらい、そしていくつか問診に応える。
「姫様、お月のものが最後に来たのはいつでございますか?」
最後の質問に私は考え込んだ。そういえば来ていない。忙しくて乱れているのだろうと思うのだけど……。
「夏至祭の前……かな?」
私の答えに女医と母様は微笑み、オリガは深いため息を漏らす。
「おめでとうございます。姫様はご懐妊されておられます」
女医の言葉に私は目を瞬かせる。
「赤ちゃん?」
「そうよ、コリン。ここ数日のあなたの様子を見て、もしかしたらと思っていたのだけど」
唖然としている私を母様は抱きしめて額に優しく唇を落とす。
「ここに……ティムの赤ちゃん……」
まだ信じられないけど、お腹に触れてみる。ここに愛する人との子供が宿っている。この事実にじわじわと喜びがわき起こってきた。
「おめでとう、コリン。良かったわね」
母様は手放しで喜んでくれているが、ここではたと気付く。母様はまだ30歳なのに孫が出来ても嫌じゃないのだろうか?
「母様、嫌じゃないの?」
「あらどうして?」
私が尋ねると母様は不思議そうに首をかしげる。そして優しい笑顔で答えた。
「家族が増えるのって素敵なことじゃない?」
笑顔で答える母様が眩しかった。こんな風に手放しで喜んでもらえるなんて、私もお腹の子も幸せかもしれない。部屋の外で心配して待ってくれているティムにも早く教えてあげたい。
「じゃあ、私達は広間に戻るわね。ティムを呼ぶから、ちゃんと教えてあげて」
母様はそう言って皆を促して部屋を出て行く。やがてためらいがちに扉が叩かれ、返事をすると焦燥したティムが入ってきた。
「コリン……」
私の姿を見てティムは泣きそうな表情を浮かべている。待たされている間にきっと悪い方向へ考えてしまっていたのは容易に想像できた。なんだか本当に申し訳なくて、とにかく謝るしかない。
「驚かしてごめんね、ティム」
「大丈夫なのか?」
彼は寝台に近寄ると、私を抱きしめた。彼の腕の中で頷くと、幾分かホッとした表情を浮かべる。嬉しい出来事は早く教えてあげたい。私はすぐに本題に入った。
「あのね……赤ちゃん、出来たの」
ティムは目を見開いて驚いていた。しばらく固まっていたけど、徐々に顔がほころんでくる。
「本当に?」
「うん」
私が頷くと、彼はもう一度私をギュッと抱きしめて「ありがとう」と言ってくれた。そして互いに顔を見合わせると、唇を重ねて喜びを分かち合った。
「後で、一緒に踊ってくれる?」
「もちろんだよ」
優しい彼は笑顔で応じ、手に口づけてくれた。やがて曲が変わり、私達は喝采を浴びながら広間の中央に出て行く。
踊るのが楽しい。ティムと踊れるのが楽しい。留学から帰って来て1年余り。一緒に公の場に出るのが当たり前になったけど、何度踊ってもワクワク感が止まらない。彼のリードに合わせてステップを踏めば、気分が悪いのも忘れていた。
楽しくてあっという間に曲が終わっていた。もっと踊りたかったけど、ティムがさりげなく休憩を提案してくれる。ティムはワイン、私は甘めの果実酒を給仕係からもらい、熱気のこもる広間から中庭に通じる露台に出ると、どこかほっとした気持ちになった。
「フォルビア公就任おめでとう」
「ありがとう」
ガラスが合わさって涼やかな音がする。いつも通り飲もうとしたのだけれど、強いアルコールの匂いを嗅いだとたん猛烈な吐き気に襲われる。ティムが狼狽する中、耐えきれなくなってその場にしゃがみ込んだ。
「コリン!」
こんな時に心配かけてしまって申し訳なかった。だけど、気持ちが悪くて立ち上がることもできない。そうしているうちに異変を察知してくれたオリガが来てくれた。
「姫様、如何されましたか?」
「気分が……」
久しぶりにルークと2人で過ごす時間を楽しんでいたオリガの邪魔をして申し訳なかった。ごめんなさいと謝ろうとするけど、言葉が出てこない。
「とにかく、場所を移動しましょう。私は陛下と皇妃様にご報告してくるから、先にお部屋へ姫様をお運びして」
「分かった」
ティムが返事をするとともに私の体がふわりと浮いた。大好きな人の腕の中に納まって安心したけれど、残念ながら気分の悪さは良くならなかった。
無事に部屋に戻り、窮屈な礼装を解いて楽な夜着に着替えると、気分の悪さは幾分か和らいだ。もう大丈夫だから心配かけたことをティムに誤りたかったけど、心配性のイリスが寝台から出るのを許してくれない。そうしているうちに母様とオリガがお医者様を連れて部屋に入ってきた。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫」
「念のために診ていただきましょう」
母様に懇願されてしまうと断ることなどできない。奥棟に常駐してくれている年配の女医に脈や熱を測ってもらい、そしていくつか問診に応える。
「姫様、お月のものが最後に来たのはいつでございますか?」
最後の質問に私は考え込んだ。そういえば来ていない。忙しくて乱れているのだろうと思うのだけど……。
「夏至祭の前……かな?」
私の答えに女医と母様は微笑み、オリガは深いため息を漏らす。
「おめでとうございます。姫様はご懐妊されておられます」
女医の言葉に私は目を瞬かせる。
「赤ちゃん?」
「そうよ、コリン。ここ数日のあなたの様子を見て、もしかしたらと思っていたのだけど」
唖然としている私を母様は抱きしめて額に優しく唇を落とす。
「ここに……ティムの赤ちゃん……」
まだ信じられないけど、お腹に触れてみる。ここに愛する人との子供が宿っている。この事実にじわじわと喜びがわき起こってきた。
「おめでとう、コリン。良かったわね」
母様は手放しで喜んでくれているが、ここではたと気付く。母様はまだ30歳なのに孫が出来ても嫌じゃないのだろうか?
「母様、嫌じゃないの?」
「あらどうして?」
私が尋ねると母様は不思議そうに首をかしげる。そして優しい笑顔で答えた。
「家族が増えるのって素敵なことじゃない?」
笑顔で答える母様が眩しかった。こんな風に手放しで喜んでもらえるなんて、私もお腹の子も幸せかもしれない。部屋の外で心配して待ってくれているティムにも早く教えてあげたい。
「じゃあ、私達は広間に戻るわね。ティムを呼ぶから、ちゃんと教えてあげて」
母様はそう言って皆を促して部屋を出て行く。やがてためらいがちに扉が叩かれ、返事をすると焦燥したティムが入ってきた。
「コリン……」
私の姿を見てティムは泣きそうな表情を浮かべている。待たされている間にきっと悪い方向へ考えてしまっていたのは容易に想像できた。なんだか本当に申し訳なくて、とにかく謝るしかない。
「驚かしてごめんね、ティム」
「大丈夫なのか?」
彼は寝台に近寄ると、私を抱きしめた。彼の腕の中で頷くと、幾分かホッとした表情を浮かべる。嬉しい出来事は早く教えてあげたい。私はすぐに本題に入った。
「あのね……赤ちゃん、出来たの」
ティムは目を見開いて驚いていた。しばらく固まっていたけど、徐々に顔がほころんでくる。
「本当に?」
「うん」
私が頷くと、彼はもう一度私をギュッと抱きしめて「ありがとう」と言ってくれた。そして互いに顔を見合わせると、唇を重ねて喜びを分かち合った。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる