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第2章 国主会議奇想曲
3 色々拗らせたティムの本音1
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国を出てから3年の月日が経った。アレス卿と行動を共にしている俺は今、大陸の最南端の国エルニアに来ていた。もちろん、物見遊山ではない。随分前からこの国では国主の後継者争いが起きており、それが泥沼化したために礎の里が介入し、その仲裁役にアレス卿が選ばれ、俺はそのお供で遥々この南の国まで来ていたのだ。
どうにか新国主の即位に漕ぎ付けたが、国はまだ荒れている。おまけにこの国の騎士団はほぼ壊滅状態で、俺達は妖魔の討伐に横行する犯罪の取り締まり、加えて騎士団の再建の為に日夜奔走していた。
そんな中、いつしか俺は「黒い雷光」などという呼び名がつけられていた。なんだか微妙だ。ルーク兄さんみたいに自分の技量から呼ばれたわけじゃなく、単に彼の義弟だという事と黒髪というだけでつけられているようなものだ。どうにもできないことだが、なんとなく複雑な心境だ。
礎の里で開かれる国主会議を数日後に控えたこの日、俺は一つの案件を解決してエルニアの王城に帰ってきた。まだ成人前の国主の後ろ盾をしているアレス卿がその会議の為に出立する前にどうしても耳に入れておきたいことがあったからだ。
「アレス卿、良かった間に合った」
「お帰り、ティム。どうした?」
初めて会った時から10年の歳月が流れ、彼は一国の国主にも劣らない風格を兼ね備えていた。もちろん見かけだけじゃない。養父母の元で幼少の頃から修めた様々な学問に加え、このエルニアで実績を重ねたおかげで身に付けたものだ。
陰では国主を傀儡にしようとしているとか言われているが、そんなものは単なるやっかみに過ぎない。当の本人はさっさと役目を終えて聖域に帰るつもりでいる。それは紛れもない本心だというのは、彼を支えているレイド卿を初めとした周囲に集う人たちの一致した見解だ。
「出る間際に申し訳ありません。こちらを……」
俺は仲間と国の南部の領主を締め上げてきたところだった。アレス卿が留守の間に反乱を企てているとの情報を得て、事実確認に行ってきたのだ。
ちょっと強引な手法を用いたが、証拠はばっちり押さえた。もちろん首謀者は牢屋に入れ、後始末は仲間に任せてある。その証拠の中に気になる情報があったので、俺だけ一足先に帰って来たのだ。
「……情報提供者がいるのか」
「しかも、里の内部にです」
持ち帰ったのは里から秘密裏に届けられた書簡。さすがに送り主の署名はないが、国主会議の細かい日程とアレス卿の滞在日数。そしてそれから導き出された決行日時と完遂期限までが書かれている。もしかしたら情報を提供しているとみられる人物の方が黒幕かもしれない。
「領主は何か吐いたか?」
「俺が出たときはまだ尋問の最中でした。まだこれと言って有力な証言は得られていません」
「そうか」
出立の刻限が迫っていた。アレス卿は件の手紙を懐に入れ、荷物を手に着場へ向かう。その後を追いながら俺はもう一つ別の資料を手渡した。
「今回、加担しているとみられる人物の一覧です」
「……」
一覧に目を通したアレス卿は眉間にしわを寄せる。
「印をしている人物は3年前、タランテラで姫様に絡んできた神官です」
こいつの名前は忘れていない。他人かとも思ったが、調査してすぐに同一人物だと判明した。奴はあの一件で罪には問われなかったものの、結局タランテラにはいられなくなってすぐに国を出たらしい。そしてエルニアの内乱が一段落した頃にこの国に来た記録が残っていた。
「里から来た手紙を領主の側近に渡していたのがこの男です」
「……」
俺の報告にアレス卿は足を止めて考え込む。
「あちらはスパーク卿が引き受けてくれました。俺も里へ同行させてください」
俺は元々礎の里へ同行する予定だった。しかし、今回の反乱計画の発覚によって残ることになってしまった。長引けばまた次々とよからぬことを企む輩が出てくるので速攻で片付けたのだが、今更出てきた奴の名前に胸騒ぎを覚えた。
奴は姫様に……彼女が受け継ぐはずのフォルビアの財産に固執していた。3年前の失敗で簡単に諦めるとは考えにくい。その奴がこの南の国まで来たのは何故か? 自分から不正を行う度胸もないくせに今回の内乱に関わったのは何故か?
城に戻る道中、考えをめぐらせて浮かび上がった可能性は俺の足止め。そしてそこから導き出されたのは里にいる姫様に危険が迫っているという答えだった。この俺の推理にアレス卿は無言で耳を傾け、すぐに考えをまとめて俺に向き直った。
「俺達は予定通り出る。お前も準備出来次第、里へ行け。お前ならすぐに追いつくだろうが、合流する必要はない。おそらく兄上はもう到着されているだろうから、先行して事情を説明し、手伝ってもらうといい」
「はい」
俺が頭を下げると同時に、女官を伴った旅装姿のエルニアの国主がアレス卿を見つけて駆け寄ってくる。
「師匠!」
まだ12歳の少年はアレス卿の事を父親か兄のように慕っている。そんな彼にアレス卿も惜しみなく己の知識と技量を伝授していた。
「ティムも帰っていたのか? 問題は解決したのか?」
「はい。報告の為に先に戻ってまいりました。事後処理は皆がしてくださっています」
「さすが、黒い雷光だ。ありがとう」
キラキラとした視線を向けられると少しくすぐったい。だけど、俺にも弟が出来たみたいで正直、嬉しい。
「陛下、そろそろお時間です。急ぎましょう」
控えていた女官が促す。陛下はアレス卿を伴って着場へ向かい、俺もその後を追う。
「では、行ってくる」
陛下はアレス卿と相乗りし、5人の竜騎士を伴って出立した。護衛が少ない気もするが、アレス卿だけでなく同道する5人はいずれも精鋭を揃えた。更には国境でエヴィルの国主一行に同行させてもらう手はずを整えている。
俺は一行を見送るとすぐに自分の準備に取り掛かる。さすがに着の身着のまま出立するわけにはいかず、必要最低限の荷物を大急ぎで用意し、そして一息休憩を入れてから俺も礎の里を目指して飛び立った。
どうにか新国主の即位に漕ぎ付けたが、国はまだ荒れている。おまけにこの国の騎士団はほぼ壊滅状態で、俺達は妖魔の討伐に横行する犯罪の取り締まり、加えて騎士団の再建の為に日夜奔走していた。
そんな中、いつしか俺は「黒い雷光」などという呼び名がつけられていた。なんだか微妙だ。ルーク兄さんみたいに自分の技量から呼ばれたわけじゃなく、単に彼の義弟だという事と黒髪というだけでつけられているようなものだ。どうにもできないことだが、なんとなく複雑な心境だ。
礎の里で開かれる国主会議を数日後に控えたこの日、俺は一つの案件を解決してエルニアの王城に帰ってきた。まだ成人前の国主の後ろ盾をしているアレス卿がその会議の為に出立する前にどうしても耳に入れておきたいことがあったからだ。
「アレス卿、良かった間に合った」
「お帰り、ティム。どうした?」
初めて会った時から10年の歳月が流れ、彼は一国の国主にも劣らない風格を兼ね備えていた。もちろん見かけだけじゃない。養父母の元で幼少の頃から修めた様々な学問に加え、このエルニアで実績を重ねたおかげで身に付けたものだ。
陰では国主を傀儡にしようとしているとか言われているが、そんなものは単なるやっかみに過ぎない。当の本人はさっさと役目を終えて聖域に帰るつもりでいる。それは紛れもない本心だというのは、彼を支えているレイド卿を初めとした周囲に集う人たちの一致した見解だ。
「出る間際に申し訳ありません。こちらを……」
俺は仲間と国の南部の領主を締め上げてきたところだった。アレス卿が留守の間に反乱を企てているとの情報を得て、事実確認に行ってきたのだ。
ちょっと強引な手法を用いたが、証拠はばっちり押さえた。もちろん首謀者は牢屋に入れ、後始末は仲間に任せてある。その証拠の中に気になる情報があったので、俺だけ一足先に帰って来たのだ。
「……情報提供者がいるのか」
「しかも、里の内部にです」
持ち帰ったのは里から秘密裏に届けられた書簡。さすがに送り主の署名はないが、国主会議の細かい日程とアレス卿の滞在日数。そしてそれから導き出された決行日時と完遂期限までが書かれている。もしかしたら情報を提供しているとみられる人物の方が黒幕かもしれない。
「領主は何か吐いたか?」
「俺が出たときはまだ尋問の最中でした。まだこれと言って有力な証言は得られていません」
「そうか」
出立の刻限が迫っていた。アレス卿は件の手紙を懐に入れ、荷物を手に着場へ向かう。その後を追いながら俺はもう一つ別の資料を手渡した。
「今回、加担しているとみられる人物の一覧です」
「……」
一覧に目を通したアレス卿は眉間にしわを寄せる。
「印をしている人物は3年前、タランテラで姫様に絡んできた神官です」
こいつの名前は忘れていない。他人かとも思ったが、調査してすぐに同一人物だと判明した。奴はあの一件で罪には問われなかったものの、結局タランテラにはいられなくなってすぐに国を出たらしい。そしてエルニアの内乱が一段落した頃にこの国に来た記録が残っていた。
「里から来た手紙を領主の側近に渡していたのがこの男です」
「……」
俺の報告にアレス卿は足を止めて考え込む。
「あちらはスパーク卿が引き受けてくれました。俺も里へ同行させてください」
俺は元々礎の里へ同行する予定だった。しかし、今回の反乱計画の発覚によって残ることになってしまった。長引けばまた次々とよからぬことを企む輩が出てくるので速攻で片付けたのだが、今更出てきた奴の名前に胸騒ぎを覚えた。
奴は姫様に……彼女が受け継ぐはずのフォルビアの財産に固執していた。3年前の失敗で簡単に諦めるとは考えにくい。その奴がこの南の国まで来たのは何故か? 自分から不正を行う度胸もないくせに今回の内乱に関わったのは何故か?
城に戻る道中、考えをめぐらせて浮かび上がった可能性は俺の足止め。そしてそこから導き出されたのは里にいる姫様に危険が迫っているという答えだった。この俺の推理にアレス卿は無言で耳を傾け、すぐに考えをまとめて俺に向き直った。
「俺達は予定通り出る。お前も準備出来次第、里へ行け。お前ならすぐに追いつくだろうが、合流する必要はない。おそらく兄上はもう到着されているだろうから、先行して事情を説明し、手伝ってもらうといい」
「はい」
俺が頭を下げると同時に、女官を伴った旅装姿のエルニアの国主がアレス卿を見つけて駆け寄ってくる。
「師匠!」
まだ12歳の少年はアレス卿の事を父親か兄のように慕っている。そんな彼にアレス卿も惜しみなく己の知識と技量を伝授していた。
「ティムも帰っていたのか? 問題は解決したのか?」
「はい。報告の為に先に戻ってまいりました。事後処理は皆がしてくださっています」
「さすが、黒い雷光だ。ありがとう」
キラキラとした視線を向けられると少しくすぐったい。だけど、俺にも弟が出来たみたいで正直、嬉しい。
「陛下、そろそろお時間です。急ぎましょう」
控えていた女官が促す。陛下はアレス卿を伴って着場へ向かい、俺もその後を追う。
「では、行ってくる」
陛下はアレス卿と相乗りし、5人の竜騎士を伴って出立した。護衛が少ない気もするが、アレス卿だけでなく同道する5人はいずれも精鋭を揃えた。更には国境でエヴィルの国主一行に同行させてもらう手はずを整えている。
俺は一行を見送るとすぐに自分の準備に取り掛かる。さすがに着の身着のまま出立するわけにはいかず、必要最低限の荷物を大急ぎで用意し、そして一息休憩を入れてから俺も礎の里を目指して飛び立った。
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