群青の空の下で(修正版)

花影

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第2章 タランテラの悪夢

64 カギとなるのは1

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 タランテラへバラバラに潜入した聖域神殿騎士団の一行は、フォルビアの城下町にある酒場で合流していた。
 この場にいるのはアレスを含めて6人。最初にエヴィルの使者の護衛として入国したレイド、エヴィルで推薦状もらって入国したガスパルとパット。エヴィルでの予定変更の連絡を受け、ダニーの指示で後から入国したスパークとマルクスという顔ぶれだった。
 テーブルに並べられた料理と酒をつまみながらそれぞれ集めてきた情報を交換し、今後の方針を定めていくのだ。
 宿屋と兼業するどこにでもある酒場だが、舌が肥えた彼等でも満足できるほど料理も酒も申し分ない。昔、傭兵をしていたディエゴがよく利用し、信用のおける酒場をいくつか紹介してもらったのだが、ここでは特に女将さんに気に入られていたらしい。ディエゴの名前を出した途端に女将さんがすっ飛んできて、直々に応対し、更には一番上等な部屋を格安で泊めてもらえることになったのだ。
「料理も酒も悪くないな」
「若、良くこんな所を見つけましたね」
 話を始めようとしたが、体が資本の彼等は腹ごしらえが先とばかりに、皿に山と積まれた料理を平らげるのに夢中だった。
「……ディエゴ兄さんの紹介だ」
 そんな彼らを呆れながらも、アレスも負けじと手と口を動かしている。彼等と行動する時は、遠慮していると自分の分が無くなってしまう。骨付きのあぶり肉を頬張り、それをエールで流し込んだ。
「あー、あの人はホントにいろんな伝手を持ってるからなぁ」
 ディエゴと顔見知りのスパークはアレスの言葉に納得する。かくいう彼もタルカナなどで羽を伸ばす際に、いろんな店を彼から紹介してもらっていた。
「で、村の方は若のご親戚が手を貸して下さるから心配ないとして、我らはどう動きましょうか?」
「ダニーは何て言って送り出したんだ?」
「後は若に任せるだって」
「……」
 珍しくやる気を見せたダニーだったが、アレスが動いたのを確認した時点でもう興味を無くしたようだ。確かに現地に行かないと細かい事まで分からないだろうが、それにしても早すぎる。
「盗賊の件、フォルビアからは期限付きで城壁の外を探索する許可はもらいましたが、それ以上の協力は拒否されました。ロベリアからはいくらか協力を得られましたが、おそらくあの一帯全てを探索するのは難しいでしょう」
 困ったアレスを見かね、先ずはエヴィルからの紹介で公にタランテラ入りしていたレイドが口を開いた。
「だろうな。奴等も竜騎士が飛び回る中をのこのこ出てくるような真似はしないだろうし……。向こうも俺達も奴等ばかりにかまっている暇もない。ある程度の探索をしたら引き上げるしかないだろうな」
「そうですね。多分城壁での検分を強化するで終わりそうです」
「それが無難なところだろう」
 アレスはレイドからの報告にうなずくと、残っていたエールを飲み干す。普段はワインを好んで飲む彼だが、ブレシッドで育った為に舌が肥えていて選り好みが激しい。その為、国外で酒を飲むときはエールを選ぶようにしていた。
「それにしても、あの男はおかしい。こちらは急用だと言っているのに1日待たせ、結局、城に入るのも拒否した」
 普段、血の気の多い聖域の竜騎士達の歯止め役を担っているレイドが珍しく声を荒げる。
 ロベリアにエルフレートを送り届けた翌日、クレストを案内役にエヴィルの使者の護衛としてフォルビアに向かったのだが、きちんと用向きを伝えたにもかかわらず境界で止められたのだ。ラグラスに伺いを立てると言われて1日待たされ、挙句に入城は拒否されたのだ。
「結局どうしたんだ?」
「ロベリアの西の砦で1泊させてもらい、翌日、指定されたロベリアの正神殿でダドリーという補佐役と会って話をした。使者殿もこんな事は初めてだと仰っていた」
「なんだ、それ」
 レイドの話に他の5人はただあきれるばかりだ。
「それから、『死神の手』が関わっている可能性があります。フレア様がご夫君と別れたあの村が殲滅せんめつされいてた点からしてもまず間違いないかと。それと、その村……マーデ村というのですが、子供が何人か生き残っていたそうです。
「よく無事だったなぁ」
 レイドの報告に他の面々も感心する。
「フレア様達を捜索に来た竜騎士達がその子達を偶然見つけて保護したのですが、負傷した殿下が連れ去られていくのをその子供達が見ていました」
「本当か?」
「はい。まだ生きておられる可能性があります。ロベリア勢は助け出す方策を練っていますが、情報を集めるのに苦心している状態です」
 最悪の事態は回避された。どんな状況におかれているかまだ分からないが、それでもまだ可能性があるのだ。それなら自分達の方法でしっかり情報を集めようと決意した。
「それで、その子供達はどうしたんだ?」
 2人の子供を持つ父親でもあるガスパルが口を挟む。
「一時正神殿で預かっていたそうですが、現在はロベリアの竜騎士の夫婦が引き取ったという話です」
「そうか」
 フレアはあの村が自分達の所為で全滅したと随分心を痛めていた。生き残りがいると伝えれば少しは気が休まるだろう。
「先ほどのマーデ村なんですが、ロベリアの竜騎士が神殿の協力を得て、その村を再建しつつ拠点にしているという話です。私もここでの情報収集が終わりましたら、そちらに顔を出す予定です」
 エヴィルの使者が本国から同行していた別の護衛と共に帰国した後、レイドはエルフレート共にフォルビア正神殿に移ることとなった。顔が知られていない彼ならフォルビアでも自由に動けると、ヒースに頼まれたのだ。彼としてもその方が動きやすかったので、二つ返事で引き受けたのだ。
「それにしても、あの野郎は随分好き勝手しているな」
 独裁状態のフォルビアで、あからさまにラグラスの名前を上げて非難すると後々に面倒な事になりかねない。フレアを苛めた憎くき相手ではあるが、スパークも一応自重して名前を出すのを控えた。
「具体的には?」
「方々から若い女を集めているらしい。自分の閨の相手もだが、今度来る国主候補の皇子さんに宛がって接待させると言う話だ」
「他には?」
「お約束だが税を上げたとかそれに反対する領民を捕えたとかきりがない」
 顔をしかめながらスパークがここへ来るまでの道中に聞いた噂の数々を披露する。総じてエドワルドが他界した事を惜しみ、そして怖くて口に出して言わないが、フレアが彼を殺したことになっている事については疑問を抱いている者が多いと言う話だ。
「当然だろうな。反乱がおきるのも時間の問題だな」
「既に親族達の間で内輪もめが始まっているらしい」
先にフォルビアに来ていたガスパルが補足する。
「それで領民に死者が出たらまたフレアが悲しむな」
 アレスが漏らした言葉に他の5人はうなずく。心優しい彼女は例え罪を犯した人間でも訃報を聞くと涙を流す。それが少しの間だけでも領主となったこの地で内乱が起き、領民が命を落としたとなると……。安静が必要な彼女に聞かせる訳にはいかない。例え黙っていてもいずれ耳に入る事になる。彼女の為にもそれは回避したい事態だった。


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人物紹介2も更新しています。
聖域とブレシッド側の人物中心です。よかったら覗いてみてください。
後、人物紹介1にロイス、トロスト、オットーの3人を追加してあります。こちらも合わせてどうぞ。

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