201 / 435
第2章 タランテラの悪夢
55 時が来るまで4
しおりを挟む
「ただ、部屋を移動して頂かなくては。この部屋で貴公の看病を行っているのは一部の村人には知られてしまっている。鎮魂の儀が済んでも、普段使わない部屋に人の気配があればすぐにばれてしまうだろう。さて、どの部屋が良いか……」
リカルドも思案する表情となる。怪我人の療養ができ、尚且つ限られた人間だけしか出入りできない部屋となると限られてくる。そこへ今まで大人しく控えていたマリーリアが口をはさむ。
「私の部屋はどうでしょう?」
「え?」
思わず2人とも振り向いて彼女を見ていた。
「私が住んでいる離れなら十分な広さがありますし、鎮魂の儀の後に私が悲嘆してこもっている事にしてしまえば、食事を運んでもらっても違和感はありません。何よりもカーマインが側にいますから、不審者が近づいてもすぐにわかります」
「いくらなんでもそれはまずいだろう」
アスターはあわてて反対をする。
「他にいい方法がございますか?」
「あのなぁ、私だって男だ。間違いが起こってからでは遅い」
「それほど元気になられるまでここにおられるつもりですか?」
マリーリアに見事切り替えされて、アスターは思わず頭を抱える。
「ククク……これはマリーリアの勝ちだな、アスター卿」
2人のやり取りを聞いていたリカルドは思わず笑い出す。
「しかし、いくらなんでも……」
「部屋の中央に仕切りを用意させ、予備の寝台を入れれば問題なかろう」
「そうですね、従兄上。大丈夫ですわ、アスター卿は紳士ですもの」
澄まして答えるマリーリアに恨みがましい視線を送るが、彼女は見事に無視した。
アスターは最後まで抵抗を試みたが、その翌日に起こった頭痛の発作で薬を飲み、眠り込んでいる間に部屋を移されていた。
「何てことだ……」
目が覚めてみると、女性向けの香が漂う部屋の寝台に寝かされていて彼は途方に暮れた。外からは鐘の音が鳴り響いており、鎮魂の儀が始まったことを村中に伝えている。アスターは溜息を一つつくと、短い間だったが部下としてよく働いてくれた竜騎士達の冥福と、主であるエドワルドとその家族の無事を静かに祈った。
しばらくして喪服姿のマリーリアが部屋に戻ってきた。本当に泣いたらしく、目は赤くなっている。
「終わったわ」
「……」
アスターは了承もなく部屋を移されたことに腹を立て、答えなかった。横になったままプイッとそっぽを向く。
「ルーク卿がいらしたわ」
「ルークが?」
皇都で囚われているはずの弟分の名前を聞いて思わず振り向いてしまう。彼女は喪服には不似合いな、布に包まれた長い棒状の物を手にしていた。
「これをあなたにと手渡してそのまま出ていかれたわ。真相をお話しする間も無かった」
「……」
マリーリアは楽に体を起こしていられるようにアスターの背中に枕を当ててくれる。彼が落ち着いたところで改めてその棒状の物を手渡す。
「これは……」
布を外してみると、中から出てきたのは自分の長剣だった。しっくり手になじむ感触は、昨年の夏至祭にハルベルトから賜った物で、今となっては彼の形見になってしまった。なくしてしまったと思っていたが、ルークはそれを見つけ、手入れまでしてくれている。
これを見つけたということは、あの現場を彼が目にしているということである。きっと、何が起こったか理解し、ヒースに報告してくれているに違いない。有能な指揮官である親友の彼なら何らかの手も打っている事だろう。更にルークが自由の身でいるということ自体が、アスターに希望をもたらした。
「早く良くならなければ……」
与えられた部屋に文句を言っている場合ではなかった。とにかく傷を治し、動けるようになって看病が必要なくなればいいのだ。その時はそう思って自分を納得させたのだった。
日中、アスターは落ちた筋力を回復する鍛錬に時間を費やしていた。本当は外を歩いたほうが手っ取り早く体力をつけられるのだが、死人となっている彼が歩き回っていたらそれこそ村中が大騒ぎである。今は部屋の中で出来る事を地道にコツコツとするしかなかった。
そこへ部屋の戸を叩く音がする。アスターはあわてて衝立の陰に隠れ、マリーリアは用心しながら戸を開ける。
「お茶のご用意をしてまいりました」
現れたのは、昨年までエドワルドの恋人だったエルデネートである。秋にエドワルドと別れた後、ロベリアを出て皇都に向かった事は知っていた。その後はもう関わるなとエドワルドから厳命されていたので消息を追うことはしなかったが、気になっていたのは確かだった。
アスターが寝込んでいる間、時折マリーリアに代わって彼女も看病をしてくれていた。今はマリーリアの紹介でリカルドの娘の家庭教師をしていると言う。エドワルドと彼女が別れた時、マリーリアは彼女を友人だと言って彼に文句を言ってきた。行く当てのない彼女にマリーリアが落ち着き先を世話するのは自然な流れだと納得したのだった。
「ありがとう」
マリーリアはほほ笑んで彼女を部屋の中へ招き入れる。戸が閉まるとアスターもほっとして緊張を解いた。彼女もアスターの存命を知る一人だった。
「こちらが今、届きました」
エルデネートは盆を机に置くと、盆と茶器の間から小さく折りたたんだ手紙を取り出した。現在、リカルドは所用でワールウェイド城に出かけている。そちらでの様子を娘にあてた手紙の中にまぎれさせて送ってきてくれているのだ。
「ありがとう」
アスターは手紙を受け取ると、早速目を通し始める。その間にエルデネートとマリーリアはお茶の準備を整える。
「!」
手紙を読んでいたアスターの表情がこわばり、手紙を持つ手が震えている。彼のそんな様子に女性2人も動きが止まる。
「アスター卿、一体……」
彼は答える代りに手紙をマリーリアに差し出した。彼女もその手紙に目を通すうちに顔が青ざめてくる。
「フロリエ様とコリンシア様が亡くなられたって……」
「まさか……」
エルデネートもマリーリアから手紙を受け取って目を通すが、彼女も手紙を読み終えるころには蒼白な顔になっている。
「ラグラスの発表だからどこまで信用していいか分からないが、紋章を手に入れたというのが引っ掛かる」
「ええ」
しばらくしてからようやく絞り出すような声でアスターが自分の考えを誰ともなしに言う。他の2人はうなずくしかできない。
「とにかく、リカルド殿が帰ってきてからもう一度詳細をうかがおう」
「そ、そうですわね」
2人はアスターの考えにぎこちなく同意して、冷めたお茶を淹れなおした。いつもなら和やかな時間になるはずだが、終始無言で3人はお茶を口に運んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
12時に次話を更新します。
リカルドも思案する表情となる。怪我人の療養ができ、尚且つ限られた人間だけしか出入りできない部屋となると限られてくる。そこへ今まで大人しく控えていたマリーリアが口をはさむ。
「私の部屋はどうでしょう?」
「え?」
思わず2人とも振り向いて彼女を見ていた。
「私が住んでいる離れなら十分な広さがありますし、鎮魂の儀の後に私が悲嘆してこもっている事にしてしまえば、食事を運んでもらっても違和感はありません。何よりもカーマインが側にいますから、不審者が近づいてもすぐにわかります」
「いくらなんでもそれはまずいだろう」
アスターはあわてて反対をする。
「他にいい方法がございますか?」
「あのなぁ、私だって男だ。間違いが起こってからでは遅い」
「それほど元気になられるまでここにおられるつもりですか?」
マリーリアに見事切り替えされて、アスターは思わず頭を抱える。
「ククク……これはマリーリアの勝ちだな、アスター卿」
2人のやり取りを聞いていたリカルドは思わず笑い出す。
「しかし、いくらなんでも……」
「部屋の中央に仕切りを用意させ、予備の寝台を入れれば問題なかろう」
「そうですね、従兄上。大丈夫ですわ、アスター卿は紳士ですもの」
澄まして答えるマリーリアに恨みがましい視線を送るが、彼女は見事に無視した。
アスターは最後まで抵抗を試みたが、その翌日に起こった頭痛の発作で薬を飲み、眠り込んでいる間に部屋を移されていた。
「何てことだ……」
目が覚めてみると、女性向けの香が漂う部屋の寝台に寝かされていて彼は途方に暮れた。外からは鐘の音が鳴り響いており、鎮魂の儀が始まったことを村中に伝えている。アスターは溜息を一つつくと、短い間だったが部下としてよく働いてくれた竜騎士達の冥福と、主であるエドワルドとその家族の無事を静かに祈った。
しばらくして喪服姿のマリーリアが部屋に戻ってきた。本当に泣いたらしく、目は赤くなっている。
「終わったわ」
「……」
アスターは了承もなく部屋を移されたことに腹を立て、答えなかった。横になったままプイッとそっぽを向く。
「ルーク卿がいらしたわ」
「ルークが?」
皇都で囚われているはずの弟分の名前を聞いて思わず振り向いてしまう。彼女は喪服には不似合いな、布に包まれた長い棒状の物を手にしていた。
「これをあなたにと手渡してそのまま出ていかれたわ。真相をお話しする間も無かった」
「……」
マリーリアは楽に体を起こしていられるようにアスターの背中に枕を当ててくれる。彼が落ち着いたところで改めてその棒状の物を手渡す。
「これは……」
布を外してみると、中から出てきたのは自分の長剣だった。しっくり手になじむ感触は、昨年の夏至祭にハルベルトから賜った物で、今となっては彼の形見になってしまった。なくしてしまったと思っていたが、ルークはそれを見つけ、手入れまでしてくれている。
これを見つけたということは、あの現場を彼が目にしているということである。きっと、何が起こったか理解し、ヒースに報告してくれているに違いない。有能な指揮官である親友の彼なら何らかの手も打っている事だろう。更にルークが自由の身でいるということ自体が、アスターに希望をもたらした。
「早く良くならなければ……」
与えられた部屋に文句を言っている場合ではなかった。とにかく傷を治し、動けるようになって看病が必要なくなればいいのだ。その時はそう思って自分を納得させたのだった。
日中、アスターは落ちた筋力を回復する鍛錬に時間を費やしていた。本当は外を歩いたほうが手っ取り早く体力をつけられるのだが、死人となっている彼が歩き回っていたらそれこそ村中が大騒ぎである。今は部屋の中で出来る事を地道にコツコツとするしかなかった。
そこへ部屋の戸を叩く音がする。アスターはあわてて衝立の陰に隠れ、マリーリアは用心しながら戸を開ける。
「お茶のご用意をしてまいりました」
現れたのは、昨年までエドワルドの恋人だったエルデネートである。秋にエドワルドと別れた後、ロベリアを出て皇都に向かった事は知っていた。その後はもう関わるなとエドワルドから厳命されていたので消息を追うことはしなかったが、気になっていたのは確かだった。
アスターが寝込んでいる間、時折マリーリアに代わって彼女も看病をしてくれていた。今はマリーリアの紹介でリカルドの娘の家庭教師をしていると言う。エドワルドと彼女が別れた時、マリーリアは彼女を友人だと言って彼に文句を言ってきた。行く当てのない彼女にマリーリアが落ち着き先を世話するのは自然な流れだと納得したのだった。
「ありがとう」
マリーリアはほほ笑んで彼女を部屋の中へ招き入れる。戸が閉まるとアスターもほっとして緊張を解いた。彼女もアスターの存命を知る一人だった。
「こちらが今、届きました」
エルデネートは盆を机に置くと、盆と茶器の間から小さく折りたたんだ手紙を取り出した。現在、リカルドは所用でワールウェイド城に出かけている。そちらでの様子を娘にあてた手紙の中にまぎれさせて送ってきてくれているのだ。
「ありがとう」
アスターは手紙を受け取ると、早速目を通し始める。その間にエルデネートとマリーリアはお茶の準備を整える。
「!」
手紙を読んでいたアスターの表情がこわばり、手紙を持つ手が震えている。彼のそんな様子に女性2人も動きが止まる。
「アスター卿、一体……」
彼は答える代りに手紙をマリーリアに差し出した。彼女もその手紙に目を通すうちに顔が青ざめてくる。
「フロリエ様とコリンシア様が亡くなられたって……」
「まさか……」
エルデネートもマリーリアから手紙を受け取って目を通すが、彼女も手紙を読み終えるころには蒼白な顔になっている。
「ラグラスの発表だからどこまで信用していいか分からないが、紋章を手に入れたというのが引っ掛かる」
「ええ」
しばらくしてからようやく絞り出すような声でアスターが自分の考えを誰ともなしに言う。他の2人はうなずくしかできない。
「とにかく、リカルド殿が帰ってきてからもう一度詳細をうかがおう」
「そ、そうですわね」
2人はアスターの考えにぎこちなく同意して、冷めたお茶を淹れなおした。いつもなら和やかな時間になるはずだが、終始無言で3人はお茶を口に運んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
12時に次話を更新します。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる