群青の空の下で(修正版)

花影

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第2章 タランテラの悪夢

閑話 ルークとティムの野外活動2 ティムの心の叫び

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1日目

暗いうちにルーク兄さんに叩き起こされ、体をほぐすのに付き合わされる。
本当は体力温存の為にぎりぎりまで寝ていたかったのに……。
しかも軽くほぐす程度だと思ったら、遠駆けに腕立て、腹筋、スクワット……いつもの鍛錬のメニューと変わらないじゃないか!
もうへとへとで朝食の席に着いた。
姉さんが用意した朝ごはんをルーク兄さんは幸せそうに食べている。
手を繋ぎ、見つめ合う2人を見ているだけで何だかこちらは胸がいっぱいだ。
そこっ、弟の存在忘れて口付けしないで!
……はいはい、邪魔者は早々に退散します。ごちそうさま。
日が昇る頃に館を出発。
今年も身分を公にしないでどこぞの自警団に所属している兄弟として旅行する。
最低限の変装としてルーク兄さんは渋草の実で作った染料で髪を黒く染めていた。
見慣れないからか、それだけで別人に見えてしまうから不思議だ。
のんびりと馬を駆り、夕刻にはフォルビアの街に着いた。
今日はここで宿に泊まる。野宿じゃないと聞いて一安心した。



2日目

宿屋に泊ったので、今朝の鍛錬は室内で出来る程度の軽いもので済んだ。
とりあえずホッとした。
宿で朝ごはんを済ませると、すぐに出立する。
今日は馬を駆るペースを上げて街道を北上した。
……安心するのは早かった。
今朝の不足分だと言って、早々に決めた野営地でいつも通りの鍛錬に付き合わされた。
夕飯が無性においしく感じたよ……。



3日目

夜中に起こされて不寝番を交代する。
眠くてついうとうとしていると、まだ暗いうちに起き出したルーク兄さんに、逆に起こされた。
当然、朝食前にいつも通りの鍛錬をする。
去年はここまできつくなかった気がするので思い切って聞いてみると、「この秋から第3騎士団に入るなら体を慣らしておけ」とリーガス卿に言われたのだとか……。
それで生真面目な兄さんはいつも自分がしているメニューを俺にもさせているらしい。
恨むよ、リーガス卿……。
山道が思ったよりも整備されていて、旅程がはかどった。
今夜も野宿。



4日目

少し仮眠がしたいからと、今日も暗いうちに起こされた。
空腹だったので先に朝食を用意していたら、その匂いにつられてルーク兄さんも起きてしまった。
食事が先になったので、鍛錬は軽く済ませてから出立。
お昼前に湯治場に到着した。
昼食に立ち寄った食堂のおばちゃんにルーク兄さんは随分と気に入られていた。
頼んだ料理よりもおまけの方が多いんじゃないかな……。
お腹が膨れてうとうとしていたら、夜にまた出直すぞと言って兄さんが席を立った。
慌ててその後を追い、一旦宿に戻る。
夜、あの食堂に行ってみると、ガタイのいい男達が酒盛りの真最中だった。
とりあえず隅の方の席に座っていたが、いつの間にかルーク兄さんも彼等になじんで一緒に酒杯を上げている。
初対面の人とも違和感なくすぐに馴染む。あれって才能だよな……。
俺は酒盛りに加わるのはまだ早いと言われて先に宿へ帰された。
でも、今夜はベッドでゆっくり寝られるのが何より嬉しい。



5日目

ルーク兄さんがベッドでうめいている……。
久しぶりに飲み過ぎたと言って姉さんが持たせてくれた薬を飲んでいた。
あの後、ガタイのいい男達と飲み比べをしたらしい。
まあ、こうなるのは当然か。
動けないもんだから用事を押し付けられた。
ここから北に温泉の熱を利用して薬草を育てる施設が有るらしい。
ひとっ走りして見て来いだって……。
具体的な位置も分かんないのに。
仕方ないから山道に沿って北に向かったら目当ての場所に着いた。
兄さんが聞き出した情報通り、立派な温室がいくつも建てられ、周囲は高い塀で囲まれている。
ちらほらと見える人影は薬草の世話をしている人だろうか。
門には当然、昨日見かけたようないかつい男達が見張りをしている。
見つからないように少し離れた立ち木に隠れ、場所を変えながら数枚のスケッチを仕上げて宿に戻った。
……兄さんは古傷の治療と称して温泉を満喫中だった。
俺が苦労している間に酷いよ。
抗議したら夕食に好物ばかりを用意してあった。
こんなもので……こんなもので……ごまかされ……て……しまった。
明日の出立も早いので、今夜は早々に床に就いた。



6日目

早朝に宿を出て、今度は南東に向かう。
去年、酷い目に合ったヘデラ夫妻のおひざ元へ向かうと聞いて一気にやる気をなくした。
気分を象徴するかのように空はどんよりとした曇り空。
午後になって雨が降り出してしまった。
途中の村で宿を頼んだところ、村の人が快く引き受けてくれた。
お礼代わりに力仕事を引き受けると、随分と喜んでくれた。
夕食もごちそうになり、整えてくれた寝台に横になる。
今夜は野宿の予定だったので、余計に嬉しい。



7日目

朝起きると、雨が止んでいたので早々に村を出発する。
早いのに村の人が見送りしてくれた。
ぬかるんだ道で馬が歩きにくそうにしている。
去年もそういえばそうだった。
全然変わっていないな。
途中の休憩で今日の分の鍛錬をさせられた。
剣術はあまり得意ではないと兄さんは言うけど、俺はまだ初心者だからね?
だから本気ださないで!
休憩のはずがたっぷりしごかれてくたくたになった。
そのまま次の町に向かう。
相変わらず貧富の差が激しい街だ。
しかも兄さんはわざわざ下町の宿を選ぶし……。
しごかれてくたくただったので、早々にベッドにもぐりこんだ。



8日目。

昨夜は2度も賊が侵入したらしい。
全然気づかなかった。
兄さんは紳士的にお引き取り願ったと言っていたけど……。
小耳にはさんだ話だと、宿の外にガラの悪そうな男が転がっていたらしい。
しかも身ぐるみはがされて。
まあ、この辺りなら当然か。
町を散策するのも気を抜けない。
走り回っている子供達ですら懐の物を狙ってくる。
俺はまだ対処しきれないので、金目の物は全て兄さんに預けた。
さすがだよ、兄さん。見事守り切ってくれた。
あまり長居したくないのは兄さんも同様だったらしく、早々に町を出た。
ここの事は早急に対処が必要だといつになく真剣にメモを取っていた。
今日は野宿。
寝る前にまたしごかれた。
くたくたで眠たかったけど、昨夜はほとんど寝てないからと先に兄さんが寝てしまった。
仕方なく不寝番。
だけど夜中に交代してくれた。



9日目

やっぱり夜明け前に叩き起こされた。
半分寝ながら鍛錬に付き合っていたら、弛《たる》んでいるぞと怒られた。
あの……まだ見習いにもなっていないんですけど?
もうちょっと軽い鍛錬から始めてはいけないんでしょうか?
今日は更に試練を与えられた。
夕食は自分の手で確保しろだって。
しかも釣竿も網も弓矢も禁止。
俺に何を求めているんですか?
仕方ないので、兄さんの真似をして木の枝を削って銛《もり》を作ってみた。
……うまく突けなかった。
仕方なく手づかみで捕まえたのは小ぶりな魚が2匹。
腹の足しにもならない。
可哀想に思ってくれたのか、パンは出してくれた。
俺が疲れているのを察してくれた兄さんが今夜は不寝番を引き受けてくれた。



10日目

今日も日の出前に起こされた。
心の叫びが聞こえたのか、今日の鍛錬は何時になく軽かった。
簡単な朝食を済ませてから出発。
午前中の早い時間帯にフォルビア正神殿に到着。
グロリア様の霊廟に花を供えて祈った。
ここには兄さんの知人がいるらしく、変装しているのがばれるのを警戒して早々に神殿を後にする。
ご一家が参られる時に俺も同道するからまたゆっくり祈ればいいか。
それにしてもいつになく警備が物々しい。
兄さんも何か引っかかったようだ。
とりあえず用事は全て済んだ。
やっと帰れる……。
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