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第3章 ダナシアの祝福
エピローグ2
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今日の祝賀会には国外からも多くの賓客を招いていた。10年前、内乱終結の折に世話になった方々には復興した様子を見て貰おうと、直に竜騎士を派遣して招待状を送っていた。
まだ現役で国政に携わっているガウラの王弟殿下もタルカナの宰相閣下も快く受け、現在は首座の地位を降りたミハイルもアリシアと共に参列している。ダーバの隠居は残念ながら体調不良で欠席だが、国主の補佐をしている末の息子が代理で来ていた。エヴィルからは昨年即位したばかりの国主が王妃同伴で出席している。あの時来てくれた賢者は既に亡くなられてしまったが、彼の弟子だった賢者が礎の里を代表して出席していた。あの後大母となったシュザンナは2年前にその役目を終え、今では代替わりしたサントリナ公夫人となっている。ただ、残念な事にアレスもルイスも都合がつかなくて今回は欠席となっている。
「コリンシア・テレーゼ、ここへ」
そんな各国の賓客とタランテラの国を支える重鎮達に見守られる中、礼装に身を包んだコリンシアが両親の下へと進み出る。結い上げた眩いばかりのプラチナブロンドに美しい顔立ち。すっかり大人の女性へと成長を遂げたその姿に誰もが目を奪われる。
昨年、3年間留学していた礎の里から帰国した彼女は、成人の儀式を済ませると1年間フォルビア総督のヒースの下で補佐として働いていた。彼の手腕を間近で見て学び、その働きぶりに及第点を貰えたので、補佐を付けた上で正式に彼女をフォルビア公とする事に決まったのだ。
「コリンシア・テレーゼ。先代大公グロリアの意思により、そなたをフォルビア公に任命いたします。奢ることなく、その責務を果たして下さい」
「はい。陛下の施政に則り、領民が心安らかに暮らせるよう努めます」
コリンシアのよどみない答えにエドワルドもフレアも満足げに頷く。そしてフレアは自分の首にかけていたフォルビアの紋章を外すと、前に進み出てコリンシアの首にかけた。立ち会った人々より拍手が起こり、これで彼女は皇家を出て正式にフォルビア家の当主と認められ、認証式は終了した。
「陛下、10周年を祝う市民が本宮前広場に集まっております。少しお姿をお見せになって頂けないでしょうか?」
困惑した様子でグラナトが報告に上がる。ミハイルを始めとした賓客達からも勧められ、エドワルドはさほど迷うことなく同意する。
「エルヴィンとあと、アルとフランも連れて来てくれ」
広場に面した南棟2階の露台から一家そろって手を振ろうと決め、すぐに準備が整えられる。着替えを済ませた子供達もすぐに連れて来られたが、彼等は何が起こっているか分からずに困惑した表情を浮かべていた。
「下の広場に、お父様の即位10周年をお祝いして下さっている街の方々が集まっておられます。怖がらずに笑顔で手を振りましょう」
急いで着替えたらしいエルヴィンの襟元を直してやりながらフレアが子供達に言い聞かせると、彼等は緊張した面持ちで神妙に頷いた。そんな真剣な表情の彼等をエドワルドとフレアは優しく抱擁して気持ちを解してやる。
「準備整いました」
手早く警備の采配を済ませたアスターが報告するとエドワルドは末のフランチェスカを抱き上げて頷く。すると窓が大きく開け放たれ、大きな歓声が聞こえてくる。
「すごい……」
エルヴィンは少しだけ躊躇した様子だったが、母親に背中を押されて前に進み出る。日没が迫る時刻にもかかわらず、広場は人で溢れていた。物怖じしない性格のアルベルトは露台の手すりにつかまって背伸びすると、大きく手を振り、甘えんぼのフランチェスカも父親の腕の中なら安心できるのか、手を叩いて喜んでいる。フォルビア公になったばかりのコリンシアはもう慣れたもので、上品に手を上げて振っていた。
国主一家の左側にはマルモア総督のアルメリアが夫のユリウスと共に立ち、右側にはワールウェイド公夫妻が立っている。おそらく、いざという時の為の護衛も兼ねているのだろう。ユリウスもアスターも油断なく辺りに気を配っている。
「やけに大人しいじゃないか?」
気後れしている様子の息子にエドワルドは声をかける。フレアもいつになく大人しい息子の様子が気にかかる様だ。
「なんだか、怖くて……」
「良く見なさい、エルヴィン。集まっている人々の表情は怒っているか?」
「いいえ……」
竜騎士の資質があるだけにエルヴィンもかなり目が良い。2階の露台からでも下の広場に集まる人々の表情までよく分かる。
「こうして集まってくれた民衆が、皆、笑っていればそれは今の施政が彼らにとって良いものである証拠だ。逆に怒っていれば何か良くない事をしていることになる。彼等を無暗に恐れる事は無いが、軽んじてはならない」
「はい……」
「将来、私の後を継ぐのはお前とは限らない。アルベルトかもしれないし、フランチェスカかもしれない。もしかしたら、他の誰かかもしれない。それでもお前はこの髪を持って生まれてきた。この国でこの髪を持って生まれたからには何かしらの責務を負う事は逃れられないだろう。だから、覚えておきなさい」
「はい……父上」
エドワルドの言葉にエルヴィンはうなずき、顔を上げて背筋を伸ばすと集まる人々に向き直る。そして自分達に手を振ってくれる人々に手を振りかえした。その様子を露台に立つ大人達は微笑ましく見守る。
「何だかあっという間だわ」
「そうだな」
フレアの脳裏には10年前の光景が蘇っていた。ちょうど10年前にもここで集まった人々に手を振った。エドワルドの即位と婚礼の祝いを兼ねた披露目の日だった。今日のエルヴィンの様に彼女もここに立つのが怖かったのだが、夫に支えられてようやくその責務を果たしたのだ。
「支えてくれてありがとう」
「それを言うのなら私の方だな。君がいたから頑張れた。これからも一緒に……」
「はい、あなた……」
2人はどちらからともなく口づけた。すると、その仲睦まじい様子にひときわ大きな歓声が上がった。
内乱を乗り越え、国を建てなおしただけでなく、繁栄をもたらしたとして、エドワルド・クラウス・ディ・タランテイルは皇祖と並ぶ英明な国主として名を残した。その傍らには常に聡明で美しい皇妃が控え、彼を支えたと伝えられている。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おまけ
保育室にいた子供の内訳
エドワルドとフレアの子供
アルベルト(男・5歳) フランチェスカ(女・2歳)
アスターとマリーリアの子供
長女・8歳 次女・6歳 三女・3歳(この2~3年後にもう1人女の子が誕生予定)
リーガスとジーンの子供
二男・7歳 三男・3歳 四男・1歳(この翌年に長女が誕生)
注:ややこしくなるので、ニコル達養子を除いて記載しています。
ルークとオリガの子供
長男・6歳(養子) 長女・1歳
ユリウスとアルメリアの子供
長女・7歳 長男・6歳
エルフレートとブランカの子供
長男・7歳 長女・4歳 次男・4歳
オスカーとシュザンナの子供
長女・0歳
以上、男の子8人、女の子8人。
ちなみに読み聞かせをしていたのはアスターの長女とユリウスの長女。
群青の空の下でこれにて完結です。
沢山の方に読んでいただけて本当にうれしいです。
更新を始めてから1年ちょっと。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
近々コリンシアとティムを主人公にした「小さな恋の行方」(小説家になろうで完結済)を公開予定。
こちらもよろしくお願いします。
まだ現役で国政に携わっているガウラの王弟殿下もタルカナの宰相閣下も快く受け、現在は首座の地位を降りたミハイルもアリシアと共に参列している。ダーバの隠居は残念ながら体調不良で欠席だが、国主の補佐をしている末の息子が代理で来ていた。エヴィルからは昨年即位したばかりの国主が王妃同伴で出席している。あの時来てくれた賢者は既に亡くなられてしまったが、彼の弟子だった賢者が礎の里を代表して出席していた。あの後大母となったシュザンナは2年前にその役目を終え、今では代替わりしたサントリナ公夫人となっている。ただ、残念な事にアレスもルイスも都合がつかなくて今回は欠席となっている。
「コリンシア・テレーゼ、ここへ」
そんな各国の賓客とタランテラの国を支える重鎮達に見守られる中、礼装に身を包んだコリンシアが両親の下へと進み出る。結い上げた眩いばかりのプラチナブロンドに美しい顔立ち。すっかり大人の女性へと成長を遂げたその姿に誰もが目を奪われる。
昨年、3年間留学していた礎の里から帰国した彼女は、成人の儀式を済ませると1年間フォルビア総督のヒースの下で補佐として働いていた。彼の手腕を間近で見て学び、その働きぶりに及第点を貰えたので、補佐を付けた上で正式に彼女をフォルビア公とする事に決まったのだ。
「コリンシア・テレーゼ。先代大公グロリアの意思により、そなたをフォルビア公に任命いたします。奢ることなく、その責務を果たして下さい」
「はい。陛下の施政に則り、領民が心安らかに暮らせるよう努めます」
コリンシアのよどみない答えにエドワルドもフレアも満足げに頷く。そしてフレアは自分の首にかけていたフォルビアの紋章を外すと、前に進み出てコリンシアの首にかけた。立ち会った人々より拍手が起こり、これで彼女は皇家を出て正式にフォルビア家の当主と認められ、認証式は終了した。
「陛下、10周年を祝う市民が本宮前広場に集まっております。少しお姿をお見せになって頂けないでしょうか?」
困惑した様子でグラナトが報告に上がる。ミハイルを始めとした賓客達からも勧められ、エドワルドはさほど迷うことなく同意する。
「エルヴィンとあと、アルとフランも連れて来てくれ」
広場に面した南棟2階の露台から一家そろって手を振ろうと決め、すぐに準備が整えられる。着替えを済ませた子供達もすぐに連れて来られたが、彼等は何が起こっているか分からずに困惑した表情を浮かべていた。
「下の広場に、お父様の即位10周年をお祝いして下さっている街の方々が集まっておられます。怖がらずに笑顔で手を振りましょう」
急いで着替えたらしいエルヴィンの襟元を直してやりながらフレアが子供達に言い聞かせると、彼等は緊張した面持ちで神妙に頷いた。そんな真剣な表情の彼等をエドワルドとフレアは優しく抱擁して気持ちを解してやる。
「準備整いました」
手早く警備の采配を済ませたアスターが報告するとエドワルドは末のフランチェスカを抱き上げて頷く。すると窓が大きく開け放たれ、大きな歓声が聞こえてくる。
「すごい……」
エルヴィンは少しだけ躊躇した様子だったが、母親に背中を押されて前に進み出る。日没が迫る時刻にもかかわらず、広場は人で溢れていた。物怖じしない性格のアルベルトは露台の手すりにつかまって背伸びすると、大きく手を振り、甘えんぼのフランチェスカも父親の腕の中なら安心できるのか、手を叩いて喜んでいる。フォルビア公になったばかりのコリンシアはもう慣れたもので、上品に手を上げて振っていた。
国主一家の左側にはマルモア総督のアルメリアが夫のユリウスと共に立ち、右側にはワールウェイド公夫妻が立っている。おそらく、いざという時の為の護衛も兼ねているのだろう。ユリウスもアスターも油断なく辺りに気を配っている。
「やけに大人しいじゃないか?」
気後れしている様子の息子にエドワルドは声をかける。フレアもいつになく大人しい息子の様子が気にかかる様だ。
「なんだか、怖くて……」
「良く見なさい、エルヴィン。集まっている人々の表情は怒っているか?」
「いいえ……」
竜騎士の資質があるだけにエルヴィンもかなり目が良い。2階の露台からでも下の広場に集まる人々の表情までよく分かる。
「こうして集まってくれた民衆が、皆、笑っていればそれは今の施政が彼らにとって良いものである証拠だ。逆に怒っていれば何か良くない事をしていることになる。彼等を無暗に恐れる事は無いが、軽んじてはならない」
「はい……」
「将来、私の後を継ぐのはお前とは限らない。アルベルトかもしれないし、フランチェスカかもしれない。もしかしたら、他の誰かかもしれない。それでもお前はこの髪を持って生まれてきた。この国でこの髪を持って生まれたからには何かしらの責務を負う事は逃れられないだろう。だから、覚えておきなさい」
「はい……父上」
エドワルドの言葉にエルヴィンはうなずき、顔を上げて背筋を伸ばすと集まる人々に向き直る。そして自分達に手を振ってくれる人々に手を振りかえした。その様子を露台に立つ大人達は微笑ましく見守る。
「何だかあっという間だわ」
「そうだな」
フレアの脳裏には10年前の光景が蘇っていた。ちょうど10年前にもここで集まった人々に手を振った。エドワルドの即位と婚礼の祝いを兼ねた披露目の日だった。今日のエルヴィンの様に彼女もここに立つのが怖かったのだが、夫に支えられてようやくその責務を果たしたのだ。
「支えてくれてありがとう」
「それを言うのなら私の方だな。君がいたから頑張れた。これからも一緒に……」
「はい、あなた……」
2人はどちらからともなく口づけた。すると、その仲睦まじい様子にひときわ大きな歓声が上がった。
内乱を乗り越え、国を建てなおしただけでなく、繁栄をもたらしたとして、エドワルド・クラウス・ディ・タランテイルは皇祖と並ぶ英明な国主として名を残した。その傍らには常に聡明で美しい皇妃が控え、彼を支えたと伝えられている。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おまけ
保育室にいた子供の内訳
エドワルドとフレアの子供
アルベルト(男・5歳) フランチェスカ(女・2歳)
アスターとマリーリアの子供
長女・8歳 次女・6歳 三女・3歳(この2~3年後にもう1人女の子が誕生予定)
リーガスとジーンの子供
二男・7歳 三男・3歳 四男・1歳(この翌年に長女が誕生)
注:ややこしくなるので、ニコル達養子を除いて記載しています。
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長男・6歳(養子) 長女・1歳
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長女・7歳 長男・6歳
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長男・7歳 長女・4歳 次男・4歳
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以上、男の子8人、女の子8人。
ちなみに読み聞かせをしていたのはアスターの長女とユリウスの長女。
群青の空の下でこれにて完結です。
沢山の方に読んでいただけて本当にうれしいです。
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最後までお付き合いいただきありがとうございました。
近々コリンシアとティムを主人公にした「小さな恋の行方」(小説家になろうで完結済)を公開予定。
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