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第3章 ダナシアの祝福
30 国主の資質1
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「内乱で荒れたこの国をまとめ上げたのは叔父、エドワルド・クラウスの功績です。次代の国主に相応しいのは彼以外に考えられません」
「平穏が戻ったこの国に今後必要なのは経済だ。財務に詳しい我が姪のアルメリア・レオナこそ国主として立つにふさわしい」
皇都に帰還して3日後、イヴォンヌが起こした事件の後処理の為に予定より1日遅れて国主選定会議が開かれた。慣例通り、会議の冒頭では対象となる候補の長所が披露されるのだが、今回は候補が互いに相手を推薦すると言う過去に例のない事態となっていた。
「今必要なのは指導力です。この国の名だたる方々に支持されている叔父上が国の主として立つべきです」
「指導力という点ならそなたも負けておるまい。私の救出作戦の前に飛ばした激は、皆感銘を受けたと聞く」
「あの時は叔父上を救うと言う共通の目的があったからこそ、私でもどうにかまとめる事が出来たのです。国の運営となると、私ではまだまだ力不足。様々な才に長けた方々をまとめ上げるのは不可能でしょう」
「自分を冷静に判断できるなら問題ないだろう」
「単純に私よりも経験と実績のある叔父上が国主になられるのが最も効率が良いのでは?」
「いや、内乱までの悪い印象を払拭させる為にも、次代の国主には清廉な印象をもつアルメリアが適任だ」
「叔母上のご帰還とエルヴィンの誕生、そしてお2人のご成婚で、既に内乱までの印象は払拭されているのではないでしょうか?」
採決になればエドワルドが国主に選ばれるのは確実だった。もちろん覚悟は出来ているが、国主となればせっかく会えた家族との時間が削られてしまう。要するに彼は今、全力で最後の悪あがきをしているのだ。アルメリアもそれは分かっているが、あえて叔父の我儘に付き合い、弁論の修練をしているつもりでその胸を借りていた。
「平和ですな」
「全くです」
そんな前代未聞の珍事をサントリナ公とブランドル公は出されたお茶を飲みながらのんびりと見物している。一方でリネアリス公は落ち着きなく幾度も座り直し、フォルビア公として参加しているフレアは膝に抱えたルルーを撫でながら、身の置き場のない様子で2人の舌戦を眺めていた。ワールウェイド公として参加しているマリーリアは、そんなフレアに時折声をかけながら、自分の出番が来るのを大人しく待っていた。
「兄上もだんだん苦しくなってきましたね」
「そうですね」
そもそも、アルメリアが国主に選ばれたとしても、エドワルドは否応なしに補佐として働くことになる。おそらく忙しさは大して変わらないだろうが、果たして本人は気づいているのだろうか?
「これが本来あるべき選定会議の姿ですな」
「左様で」
本当にしみじみとサントリナ公が零せば、ブランドル公もリネアリス公も大きくうなずく。文字通り国主を選ぶ会議である。各大公は自分とつながりのある者を選ぼうと躍起になり、水面下で交渉するだけでなく、古来より平然と裏取引が行われ、下手をすると流血沙汰まで起こるほど殺伐とした会議になる。
アロンが倒れた時にはハルベルトが既に国主に内定されていたにも関わらず、強引にグスタフがゲオルグも候補に入れて会議を開いたのだ。しかも自ら進行役に付き、己の持論を延々と展開してハルベルト側には殆ど口を挟ませない。それでもゲオルグが選ばれる事は無かったが、最終的にはハルベルトの内定を取り消してしまったのだ。その会議に居合わせていたサントリナ公とブランドル公は本当にほのぼのとした様子で舌戦を繰り広げる叔父と姪を見守り、色々と後ろ暗い所があったリネアリス公は終始落ち着かない様子で立ったり座ったりを繰り返していた。
「未熟な私が国主に就いてしまえば、それを補佐する人間が必要です。私は迷うことなく叔父上を指名するでしょう。そうなると、叔父上が国主となられた時に比べて余計な手間がかかると思います」
「それは順次覚えていけばいいのではないか?」
「手間がかかればその分経費が掛かかります。財政が厳しい現状では少しでも経費を抑える努力が必要なのではありませんか?」
「これは……手厳しいな」
エドワルドは思わず目を見張る。これで決着がついたとアルメリアは安堵したが、エドワルドは少し意地の悪い笑みを浮かべて反論する。
「その英明さがあれば国主となっても問題ないのではないか?」
「叔父上……」
あまりの往生際の悪さにアルメリアは叔父に冷たい視線を送る。
「国民の大半は叔父上が国主になると決めつけています。それなのに私が国主になったら、禍根が残るのは明白です。もう二度とあのような悲劇を起こさない為にも、潔く国主の座に就いて下さい」
きっぱりと言い切るアルメリアにサントリナ公もブランドル公も手を叩いて賛同していた。彼等だけでない。マリーリアもリネアリス公も同意するかのようにうなずき、一方のフレアは少し困ったような笑みを浮かべてエドワルドを見つめている。
「言いくるめられると思ったのだが、我が姪は案外手ごわいな」
「叔父上」
「それだけの才覚があれば、国主は十分に務まると思うのだが?」
「これ以上褒めても何も出せません」
呆れを通り越して本当に怒ってしまったらしいアルメリアは頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。こうしてみると、まだまだ年相応のかわいらしい所があるのだと思い、エドワルドは苦笑する。
「殿下、そろそろ覚悟は決められたでしょうか?」
「覚悟は出来ている。一応な」
エドワルドが肩を竦めて答えると、散々悪あがきをした後なので当然の如く一同から疑いの眼差しが向けられる。
「本当ですかな?」
「後は5大公家の総意に従う」
慣例に従って宣誓すると、どうにか信じて貰えたようだ。アルメリアも叔父に倣って宣誓し、ようやくここから選定のための審議が始まる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
12時に閑話を更新します。
「平穏が戻ったこの国に今後必要なのは経済だ。財務に詳しい我が姪のアルメリア・レオナこそ国主として立つにふさわしい」
皇都に帰還して3日後、イヴォンヌが起こした事件の後処理の為に予定より1日遅れて国主選定会議が開かれた。慣例通り、会議の冒頭では対象となる候補の長所が披露されるのだが、今回は候補が互いに相手を推薦すると言う過去に例のない事態となっていた。
「今必要なのは指導力です。この国の名だたる方々に支持されている叔父上が国の主として立つべきです」
「指導力という点ならそなたも負けておるまい。私の救出作戦の前に飛ばした激は、皆感銘を受けたと聞く」
「あの時は叔父上を救うと言う共通の目的があったからこそ、私でもどうにかまとめる事が出来たのです。国の運営となると、私ではまだまだ力不足。様々な才に長けた方々をまとめ上げるのは不可能でしょう」
「自分を冷静に判断できるなら問題ないだろう」
「単純に私よりも経験と実績のある叔父上が国主になられるのが最も効率が良いのでは?」
「いや、内乱までの悪い印象を払拭させる為にも、次代の国主には清廉な印象をもつアルメリアが適任だ」
「叔母上のご帰還とエルヴィンの誕生、そしてお2人のご成婚で、既に内乱までの印象は払拭されているのではないでしょうか?」
採決になればエドワルドが国主に選ばれるのは確実だった。もちろん覚悟は出来ているが、国主となればせっかく会えた家族との時間が削られてしまう。要するに彼は今、全力で最後の悪あがきをしているのだ。アルメリアもそれは分かっているが、あえて叔父の我儘に付き合い、弁論の修練をしているつもりでその胸を借りていた。
「平和ですな」
「全くです」
そんな前代未聞の珍事をサントリナ公とブランドル公は出されたお茶を飲みながらのんびりと見物している。一方でリネアリス公は落ち着きなく幾度も座り直し、フォルビア公として参加しているフレアは膝に抱えたルルーを撫でながら、身の置き場のない様子で2人の舌戦を眺めていた。ワールウェイド公として参加しているマリーリアは、そんなフレアに時折声をかけながら、自分の出番が来るのを大人しく待っていた。
「兄上もだんだん苦しくなってきましたね」
「そうですね」
そもそも、アルメリアが国主に選ばれたとしても、エドワルドは否応なしに補佐として働くことになる。おそらく忙しさは大して変わらないだろうが、果たして本人は気づいているのだろうか?
「これが本来あるべき選定会議の姿ですな」
「左様で」
本当にしみじみとサントリナ公が零せば、ブランドル公もリネアリス公も大きくうなずく。文字通り国主を選ぶ会議である。各大公は自分とつながりのある者を選ぼうと躍起になり、水面下で交渉するだけでなく、古来より平然と裏取引が行われ、下手をすると流血沙汰まで起こるほど殺伐とした会議になる。
アロンが倒れた時にはハルベルトが既に国主に内定されていたにも関わらず、強引にグスタフがゲオルグも候補に入れて会議を開いたのだ。しかも自ら進行役に付き、己の持論を延々と展開してハルベルト側には殆ど口を挟ませない。それでもゲオルグが選ばれる事は無かったが、最終的にはハルベルトの内定を取り消してしまったのだ。その会議に居合わせていたサントリナ公とブランドル公は本当にほのぼのとした様子で舌戦を繰り広げる叔父と姪を見守り、色々と後ろ暗い所があったリネアリス公は終始落ち着かない様子で立ったり座ったりを繰り返していた。
「未熟な私が国主に就いてしまえば、それを補佐する人間が必要です。私は迷うことなく叔父上を指名するでしょう。そうなると、叔父上が国主となられた時に比べて余計な手間がかかると思います」
「それは順次覚えていけばいいのではないか?」
「手間がかかればその分経費が掛かかります。財政が厳しい現状では少しでも経費を抑える努力が必要なのではありませんか?」
「これは……手厳しいな」
エドワルドは思わず目を見張る。これで決着がついたとアルメリアは安堵したが、エドワルドは少し意地の悪い笑みを浮かべて反論する。
「その英明さがあれば国主となっても問題ないのではないか?」
「叔父上……」
あまりの往生際の悪さにアルメリアは叔父に冷たい視線を送る。
「国民の大半は叔父上が国主になると決めつけています。それなのに私が国主になったら、禍根が残るのは明白です。もう二度とあのような悲劇を起こさない為にも、潔く国主の座に就いて下さい」
きっぱりと言い切るアルメリアにサントリナ公もブランドル公も手を叩いて賛同していた。彼等だけでない。マリーリアもリネアリス公も同意するかのようにうなずき、一方のフレアは少し困ったような笑みを浮かべてエドワルドを見つめている。
「言いくるめられると思ったのだが、我が姪は案外手ごわいな」
「叔父上」
「それだけの才覚があれば、国主は十分に務まると思うのだが?」
「これ以上褒めても何も出せません」
呆れを通り越して本当に怒ってしまったらしいアルメリアは頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。こうしてみると、まだまだ年相応のかわいらしい所があるのだと思い、エドワルドは苦笑する。
「殿下、そろそろ覚悟は決められたでしょうか?」
「覚悟は出来ている。一応な」
エドワルドが肩を竦めて答えると、散々悪あがきをした後なので当然の如く一同から疑いの眼差しが向けられる。
「本当ですかな?」
「後は5大公家の総意に従う」
慣例に従って宣誓すると、どうにか信じて貰えたようだ。アルメリアも叔父に倣って宣誓し、ようやくここから選定のための審議が始まる。
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