377 / 435
第3章 ダナシアの祝福
12 グルースの受難3
しおりを挟む
「コリンはどうした?」
「ティムの訓練を見学に行っているわ」
「そうか」
ロベリアでの全ての予定が終了し、明日にはフォルビアに戻る。婚礼を挙げたばかりの彼等はそこで10日程蜜月を過ごし、その後ワールウェイド領の視察を済ませて皇都へ凱旋する予定だった。
正式に竜騎士見習いとなったので、皇女であるコリンシアは気軽にティムと会えなくなる。そこで彼女の淡い恋心を知っている両親は、訓練を邪魔しないと言う条件を付けて今日までは見学を許していた。
「ルークが見込んだだけあって、あの子は高い素質を持っている。リーガスも鍛えるのが楽しみだと言っていたわ」
ほんわかとした見かけからは到底信じられないが、自身も上級竜騎士である団長夫人がお茶を飲みながらのんびりとした口調で口を挟む。夫の名を口にした時に甘さを感じたのは気のせいではない。
「上級に上がるのも直ぐだろう。優秀な竜騎士が増えるのは良い事だ」
息子を腕に抱き、エドワルドは妻が淹れたお茶を幸せそうに飲んでいる。何だか、室内の糖度が一気に増した気がする。
「我々は明日ここを出立するが、グルース殿は如何される?」
「はぁ……患者も回復の兆しが見えてきたし、俺がここを離れても問題ない。そろそろ薬草園の方へ送ってもらおうかと……」
急に話を振られ、グルースは少し戸惑いながら答える。正直、この砦に漂う甘い雰囲気に当てられ、糖分過多で胸やけがしそうである。内乱から解放され、更にはエドワルドの成婚によって今のタランテラ国内には幸せオーラが充満している。山の中にあると言う薬草園まではその影響は届かず、静かに過ごせるだろうと考えたのだ。
「ならばフォルビアまで同行されるといい。その後は誰かに送らせよう」
「はあ、ありがとうございます」
本来ならばグルースのこの物言いは不敬にとられて咎められるものなのだが、当のエドワルドが気にしていないので不問にされている。どうやら媚びない彼の態度に潔さを感じたらしい。その後、訓練の見学を終えたコリンシアとその護衛に付いていたワールウェイド公夫妻に騎士団長まで揃い、極限にまで部屋の糖度が上がってしまった。身の置き場が無くなり、いたたまれなくなったグルースは辞去の挨拶もそこそこに部屋から逃げるように退散したのだった。
「嬢様、無理しすぎですよ」
グルースに呆れた様な視線を向けられ、寝台で横になるフレアは体を縮こまらせた。
「ごめんなさい……」
前日にロベリアからフォルビアに戻り、今朝、薬草園に送ってもらおうと準備を整えていたところへ、フレアが熱を出したから診てくれとエドワルドに呼び止められたのだ。普段の冷静な彼からは信じられない事に、随分と狼狽した様子の彼は夜着に上着を羽織っただけという出で立ちだった。
「疲れから来る熱ですな。ラトリからの長旅に加えて慣れない公務をこなし、加えてコイツに頼りきりの生活をしていれば、いくら嬢様でも疲れはたまる一方です。一区切りついて気が緩めば熱が出るのも当然」
眉間に皺を寄せたグルースは、枕元で心配げにフレアを覗き込んでいた小竜の首元を掴んで引き剥がす。切なげにクウクウ鳴く小竜を彼は側に居たオリガに手渡すと外へ連れて出るように命じる。いくらフレアの力が強くても、体が弱っている状態で使い続ければ体にかかる負担は大きくなる。過去にこれが原因で倒れた事があり、以来ペドロやアレスに気を付けるように口を酸っぱくして言われていた事だった。
「だって……」
「だってではありません。乳母を雇われたのなら、坊主の世話は彼女達に任せて当面は安静を心がけてください。当然、アイツの使用も禁止です」
「……はい」
本気でキレたらしいグルースの小言にフレアはしゅんと項垂れて小さな声で返事するしかなかった。
「フレア、大丈夫か?」
そこへまだ夜着のままのエドワルドが部屋に入って来た。余程心配だったのか、着替えをしていないだけでなく、髪はまだボサボサで顔には無精ひげが生えたまま。折角のいい男が台無しである。
「エド……」
自分が呼んだくせにグルースも目に入らない様子でエドワルドは寝台に横になったままのフレアを抱きしめる。診察を始める前はただおろおろして邪魔だったので寝室の外に追い出されたのだが、ルルーを連れ出したオリガから診察が終わったと聞いて入って来たらしい。
色々と注意事項を言っておきたいところだが、この様子だと耳にも入らないだろう。グルースは深くため息をつくと、診察道具を片付けて寝室を後にした。
部屋の外には心配げに寄り添う2組の夫婦の姿があった。フォルビア総督夫妻とワールウェイド公夫妻である。今のエドワルドよりも彼等の方に病状と注意事項を話した方が確実だろう。グルースは病状と先程フレア自身にも話した注意事項を簡単に説明する。そして最後に数日休めばすぐに良くなると伝えると、彼等はホッとした様子で互いの伴侶と抱き合っていた。心なしかこの場でも甘い空気が漂って来る。
「私としてはもう薬草園の方へ移りたいのですが、送って頂いても宜しいでしょうか?」
「勿論です。すぐに手配いたします」
当初の予定ではワールウェイド公夫妻に送ってもらい、一緒に視察を済ませる予定だったが、フレアが寝込んだことによって彼等は今しばらくフォルビアに待機する事となった。代わりに雷光の騎士に送ってもらう事になり、もう一度荷物をまとめた彼は若い竜騎士に案内されて着場に向かう。
そこには既に見送りの為にオリガが来ており、恋人と手を繋いで何やら話し込んでいる。互いに交わす視線は甘く、グルースも案内してくれた若い竜騎士もその甘さに耐え切れずに思わず天を仰いだ。
「そろいもそろって浮かれやがって、全くこの国はどうなっているんだ」
これがこの国に赴任した彼の率直な感想だった。
その後無事に薬草園の管理人に就任して10年の歳月が流れた。今頃皇都ではエドワルドの即位10周年を記念した宴が開かれている事だろう。本当はグルースもその宴に招待されていたのだが丁重に断り、いつも通り畑に出て薬草の世話をしていた。
「グルース先生!」
呼ばれて顔を上げた彼は、とたんに不機嫌なものとなる。そこには10代半ばの少年が目を輝かせて彼を見ていた。
「何だ、また来たのか? 未成年は受け入れないと何度言ったらわかる?」
「ついこの間、成人を迎えました。夏には学校も卒業しました。お願いです、弟子にしてください!」
「お前なぁ……」
バートと名乗る少年は2年くらい前から彼に弟子入り志願してこの薬草園に通って来ていた。明らかに未成年で学校も出ていない様子なので突っぱねているのだが、それでも彼は学校が休みになるたびにここへ足繁く通っていた。少しずつここの作業を覚え、今ではグルース以外の人間には仲間として認められてしまっている。
「僕は先生のおかげで助かったんです。幼かったのでおぼろげにしか覚えていませんが、それでも先生が励ましてくれて安心したのは良く覚えています」
少年は10年前、グルースがここへ赴任する前に診たかぶれが全身に広がって苦しんでいた幼児だった。あの時、治療してもらったのを記憶していた彼は、ただ一図にグルースの弟子にしてもらうのを夢見ていた。
あの後父親になった隊長も母親も彼を応援してくれてその為の学校に通わせてくれたのだ。実はかなりの好成績で皇都での仕事も勧められていたのだが、グルースの弟子になりたい彼はそれを蹴ってここへ来たのだ。
「お願いします」
「……弟子はいらん」
「給料は無くても構いません」
「……」
その姿は遠い昔に彼がペドロに弟子入り志願した時と重なる。最初に断られた彼は毎日のように師匠の元へ押しかけ、無理に雑用をやらしてもらい、遂にはペドロの方が根負けして弟子と認めてもらったのだ。
「薬師殿、諦めて弟子にしてやりなせぇ」
この分だと野宿してでもここに居座るつもりだろう。元よりバートに好印象を持つ古株の作業員に口添えされてはグルースも意地をはれなくなってくる。
「……技は見て覚えろ」
グルースが出した答えに少年は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「ありがとうございます!」
その後……技を見て覚えようとする少年に始終張り付かれる事になり、この決断を彼は大いに後悔した。そして今になってようやく、あの当時の師匠の気持ちが痛いほどわかったグルースだった。
「ティムの訓練を見学に行っているわ」
「そうか」
ロベリアでの全ての予定が終了し、明日にはフォルビアに戻る。婚礼を挙げたばかりの彼等はそこで10日程蜜月を過ごし、その後ワールウェイド領の視察を済ませて皇都へ凱旋する予定だった。
正式に竜騎士見習いとなったので、皇女であるコリンシアは気軽にティムと会えなくなる。そこで彼女の淡い恋心を知っている両親は、訓練を邪魔しないと言う条件を付けて今日までは見学を許していた。
「ルークが見込んだだけあって、あの子は高い素質を持っている。リーガスも鍛えるのが楽しみだと言っていたわ」
ほんわかとした見かけからは到底信じられないが、自身も上級竜騎士である団長夫人がお茶を飲みながらのんびりとした口調で口を挟む。夫の名を口にした時に甘さを感じたのは気のせいではない。
「上級に上がるのも直ぐだろう。優秀な竜騎士が増えるのは良い事だ」
息子を腕に抱き、エドワルドは妻が淹れたお茶を幸せそうに飲んでいる。何だか、室内の糖度が一気に増した気がする。
「我々は明日ここを出立するが、グルース殿は如何される?」
「はぁ……患者も回復の兆しが見えてきたし、俺がここを離れても問題ない。そろそろ薬草園の方へ送ってもらおうかと……」
急に話を振られ、グルースは少し戸惑いながら答える。正直、この砦に漂う甘い雰囲気に当てられ、糖分過多で胸やけがしそうである。内乱から解放され、更にはエドワルドの成婚によって今のタランテラ国内には幸せオーラが充満している。山の中にあると言う薬草園まではその影響は届かず、静かに過ごせるだろうと考えたのだ。
「ならばフォルビアまで同行されるといい。その後は誰かに送らせよう」
「はあ、ありがとうございます」
本来ならばグルースのこの物言いは不敬にとられて咎められるものなのだが、当のエドワルドが気にしていないので不問にされている。どうやら媚びない彼の態度に潔さを感じたらしい。その後、訓練の見学を終えたコリンシアとその護衛に付いていたワールウェイド公夫妻に騎士団長まで揃い、極限にまで部屋の糖度が上がってしまった。身の置き場が無くなり、いたたまれなくなったグルースは辞去の挨拶もそこそこに部屋から逃げるように退散したのだった。
「嬢様、無理しすぎですよ」
グルースに呆れた様な視線を向けられ、寝台で横になるフレアは体を縮こまらせた。
「ごめんなさい……」
前日にロベリアからフォルビアに戻り、今朝、薬草園に送ってもらおうと準備を整えていたところへ、フレアが熱を出したから診てくれとエドワルドに呼び止められたのだ。普段の冷静な彼からは信じられない事に、随分と狼狽した様子の彼は夜着に上着を羽織っただけという出で立ちだった。
「疲れから来る熱ですな。ラトリからの長旅に加えて慣れない公務をこなし、加えてコイツに頼りきりの生活をしていれば、いくら嬢様でも疲れはたまる一方です。一区切りついて気が緩めば熱が出るのも当然」
眉間に皺を寄せたグルースは、枕元で心配げにフレアを覗き込んでいた小竜の首元を掴んで引き剥がす。切なげにクウクウ鳴く小竜を彼は側に居たオリガに手渡すと外へ連れて出るように命じる。いくらフレアの力が強くても、体が弱っている状態で使い続ければ体にかかる負担は大きくなる。過去にこれが原因で倒れた事があり、以来ペドロやアレスに気を付けるように口を酸っぱくして言われていた事だった。
「だって……」
「だってではありません。乳母を雇われたのなら、坊主の世話は彼女達に任せて当面は安静を心がけてください。当然、アイツの使用も禁止です」
「……はい」
本気でキレたらしいグルースの小言にフレアはしゅんと項垂れて小さな声で返事するしかなかった。
「フレア、大丈夫か?」
そこへまだ夜着のままのエドワルドが部屋に入って来た。余程心配だったのか、着替えをしていないだけでなく、髪はまだボサボサで顔には無精ひげが生えたまま。折角のいい男が台無しである。
「エド……」
自分が呼んだくせにグルースも目に入らない様子でエドワルドは寝台に横になったままのフレアを抱きしめる。診察を始める前はただおろおろして邪魔だったので寝室の外に追い出されたのだが、ルルーを連れ出したオリガから診察が終わったと聞いて入って来たらしい。
色々と注意事項を言っておきたいところだが、この様子だと耳にも入らないだろう。グルースは深くため息をつくと、診察道具を片付けて寝室を後にした。
部屋の外には心配げに寄り添う2組の夫婦の姿があった。フォルビア総督夫妻とワールウェイド公夫妻である。今のエドワルドよりも彼等の方に病状と注意事項を話した方が確実だろう。グルースは病状と先程フレア自身にも話した注意事項を簡単に説明する。そして最後に数日休めばすぐに良くなると伝えると、彼等はホッとした様子で互いの伴侶と抱き合っていた。心なしかこの場でも甘い空気が漂って来る。
「私としてはもう薬草園の方へ移りたいのですが、送って頂いても宜しいでしょうか?」
「勿論です。すぐに手配いたします」
当初の予定ではワールウェイド公夫妻に送ってもらい、一緒に視察を済ませる予定だったが、フレアが寝込んだことによって彼等は今しばらくフォルビアに待機する事となった。代わりに雷光の騎士に送ってもらう事になり、もう一度荷物をまとめた彼は若い竜騎士に案内されて着場に向かう。
そこには既に見送りの為にオリガが来ており、恋人と手を繋いで何やら話し込んでいる。互いに交わす視線は甘く、グルースも案内してくれた若い竜騎士もその甘さに耐え切れずに思わず天を仰いだ。
「そろいもそろって浮かれやがって、全くこの国はどうなっているんだ」
これがこの国に赴任した彼の率直な感想だった。
その後無事に薬草園の管理人に就任して10年の歳月が流れた。今頃皇都ではエドワルドの即位10周年を記念した宴が開かれている事だろう。本当はグルースもその宴に招待されていたのだが丁重に断り、いつも通り畑に出て薬草の世話をしていた。
「グルース先生!」
呼ばれて顔を上げた彼は、とたんに不機嫌なものとなる。そこには10代半ばの少年が目を輝かせて彼を見ていた。
「何だ、また来たのか? 未成年は受け入れないと何度言ったらわかる?」
「ついこの間、成人を迎えました。夏には学校も卒業しました。お願いです、弟子にしてください!」
「お前なぁ……」
バートと名乗る少年は2年くらい前から彼に弟子入り志願してこの薬草園に通って来ていた。明らかに未成年で学校も出ていない様子なので突っぱねているのだが、それでも彼は学校が休みになるたびにここへ足繁く通っていた。少しずつここの作業を覚え、今ではグルース以外の人間には仲間として認められてしまっている。
「僕は先生のおかげで助かったんです。幼かったのでおぼろげにしか覚えていませんが、それでも先生が励ましてくれて安心したのは良く覚えています」
少年は10年前、グルースがここへ赴任する前に診たかぶれが全身に広がって苦しんでいた幼児だった。あの時、治療してもらったのを記憶していた彼は、ただ一図にグルースの弟子にしてもらうのを夢見ていた。
あの後父親になった隊長も母親も彼を応援してくれてその為の学校に通わせてくれたのだ。実はかなりの好成績で皇都での仕事も勧められていたのだが、グルースの弟子になりたい彼はそれを蹴ってここへ来たのだ。
「お願いします」
「……弟子はいらん」
「給料は無くても構いません」
「……」
その姿は遠い昔に彼がペドロに弟子入り志願した時と重なる。最初に断られた彼は毎日のように師匠の元へ押しかけ、無理に雑用をやらしてもらい、遂にはペドロの方が根負けして弟子と認めてもらったのだ。
「薬師殿、諦めて弟子にしてやりなせぇ」
この分だと野宿してでもここに居座るつもりだろう。元よりバートに好印象を持つ古株の作業員に口添えされてはグルースも意地をはれなくなってくる。
「……技は見て覚えろ」
グルースが出した答えに少年は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「ありがとうございます!」
その後……技を見て覚えようとする少年に始終張り付かれる事になり、この決断を彼は大いに後悔した。そして今になってようやく、あの当時の師匠の気持ちが痛いほどわかったグルースだった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる