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第2章 タランテラの悪夢
204 引導を渡すとき1
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残酷なシーンがあります。
ご了承ください。
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石造りの地下室にヘデラ夫妻とヘザーが連れてこられた。牢に捕われて半年。下働きのような労役を課せられて自尊心を大いに傷つけられた彼等は実年齢よりも随分と老けて見えた。
「久しいな」
用意されていた椅子に座って彼等を待っていたエドワルドが声をかけると、憎々し気な視線が返ってきた。
「何の……用だ?」
忌々し気な視線をエドワルドに向けたままヤーコブが聞いてくる。エドワルドはすぐには応えず、背後に控えるアスターに視線を向ける。彼が外へ声をかけると、戸口から何かを乗せた板が運び込まれ、3人の前に置かれた。下働きらしい男が4人がかりで運び込んだそれには布が掛けられ、何が乗っているのかはまだ分からない。
「何……だ?」
困惑する3人を尻目に下働きの1人が布を外すと、中から現れたのは人の死体だった。頭には包帯がまかれ、目はつむっているものの安らかとは決して言えない表情を浮かべている。それが死体と分かったとたんにカトリーヌとヘザーは悲鳴を上げる。
「ダ、ダドリー」
ヤーコブにはそれが誰か分かったらしい。その呟きに騒いでいたカトリーヌは我に返り、息子の顔を改めて見る。そして今度はエドワルドを攻め立てた。
「そなたが殺したのであろう! 人殺し!」
「手を下したのはラグラスだ。内輪もめでもしたのだろう。潜伏していた小神殿で壁に頭を打ち付けた状態で発見された。一応、手は尽くしたが、昨夜死亡した」
アスターが冷静に経緯を説明するが、カトリーヌは信じようとはしない。
「信じられるか。どこまで我らを貶めるつもりじゃ」
「やめろ、カトリーヌ」
以外にも彼女を止めたのはヤーコブだった。
「これはわしらを見捨てた。既にあの時から縁を切った」
もっともらしい事を言っているが、結局、その元凶を生み出したのは彼等自身だ。ダドリーはラグラスを出し抜こうとした彼等を擁護しきれなかったに過ぎない。そもそもラグラスと手を組んで反乱を起こしたのが間違いなのだ。エドワルドが突きつけた計画に大人しく従っていれば、贅沢は出来ないまでも普通に暮らしていけたはずなのだ。そこを指摘すると彼等は押し黙った。
「最後の別れぐらいさせてやろうと配慮したつもりだったが、無用だったようだな」
エドワルドはそう言うと、控えていた下働き達に運び出す様に命じる。遺体に再び布が掛けられ、速やかに外へ運び出された。
「……」
運び出されていく遺体をヘデラ夫妻は複雑な表情で見送った。だが、エドワルドは感傷に浸る間すら与えるつもりはないらしい。
「さて、本題に入ろうか」
「これ以上我らから何を奪うつもりか?」
「自分達がしたことを棚に上げて何を言う?」
「我らは当然の権利を主張しただけじゃ。フォルビアは我らの物じゃ。どこの馬の骨とも分からぬ女が手にするものではない!」
血がつながっているだけあって、ヘザーはラグラスと全く同じ事を主張する。エドワルドは一つため息をつくと、再び控えて居たアスターに視線を向ける。彼は一礼をすると扉を開け、外で待っていた人物を招き入れた。入ってきたのはミハイルに手を引かれたフレアだった。
「お、お前は……」
牢にいた彼等はこの半年に起きた事を全て知っているわけではない。彼等はまだ、フレアが死んだと思い込んでいたのだ。
「我が娘を随分と愚弄してくれたな」
今の会話だけではない。以前にフレアは彼等に突き飛ばされて怪我をしたと聞いていたミハイルはその怒りを抑えようとはしてない。その威圧をまともに浴びた3人は恐怖で足がすくむ。
エドワルドもだが、ミハイルも正装を纏っていた。それぞれにその地位を表す記章を付けているのだが、一同はミハイルが付けている記章に愕然となる。一番目立つのは国主を表す金の輝き。それに続く所属を示す記章を見れば、顔を合わせたことは無くても相手の素性は自ずと分かってくる。
「バカな……」
詳しい経緯までは知らないが、それでもエドワルドが大陸屈指の実力者を味方に付けたことで苦境を脱したのは理解できた。しかも、その実力者は自分達が散々見下した相手の身内だったのだ。
「妻も娘も無事に帰ってきた。だからと言ってお前達を許す材料にはならない。ヤーコブ、カトリーヌ、ヘザーの3人には絞首刑を言い渡す」
エドワルドが国主代行として反逆に加担した3人に刑を言い渡す。半年間牢に繋がれていた彼等は心のどこかでそれはもうないだろうと安堵していた部分があったのだろうが、単に忙しくて彼等にかまっている暇が無かっただけだった。
ラグラスと決着をつけた後に彼等の刑も執行するのは当初の予定通りだったが、やはりフレアを散々貶めた相手に直接文句が言いたくてミハイルが同席を強く望んだために刑を言い渡すのが早まったのだ。
「……」
今度こそ気力を全て奪われたらしい3人はがっくりとその場に膝をつく。エドワルドは身振りで控えて居た牢番達に3人を連れて行くように命じた。執行されるのは先になるが、3人はそれまで死の恐怖におびえながら過ごす事になるだろう。
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12時に閑話を更新します。
ご了承ください。
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石造りの地下室にヘデラ夫妻とヘザーが連れてこられた。牢に捕われて半年。下働きのような労役を課せられて自尊心を大いに傷つけられた彼等は実年齢よりも随分と老けて見えた。
「久しいな」
用意されていた椅子に座って彼等を待っていたエドワルドが声をかけると、憎々し気な視線が返ってきた。
「何の……用だ?」
忌々し気な視線をエドワルドに向けたままヤーコブが聞いてくる。エドワルドはすぐには応えず、背後に控えるアスターに視線を向ける。彼が外へ声をかけると、戸口から何かを乗せた板が運び込まれ、3人の前に置かれた。下働きらしい男が4人がかりで運び込んだそれには布が掛けられ、何が乗っているのかはまだ分からない。
「何……だ?」
困惑する3人を尻目に下働きの1人が布を外すと、中から現れたのは人の死体だった。頭には包帯がまかれ、目はつむっているものの安らかとは決して言えない表情を浮かべている。それが死体と分かったとたんにカトリーヌとヘザーは悲鳴を上げる。
「ダ、ダドリー」
ヤーコブにはそれが誰か分かったらしい。その呟きに騒いでいたカトリーヌは我に返り、息子の顔を改めて見る。そして今度はエドワルドを攻め立てた。
「そなたが殺したのであろう! 人殺し!」
「手を下したのはラグラスだ。内輪もめでもしたのだろう。潜伏していた小神殿で壁に頭を打ち付けた状態で発見された。一応、手は尽くしたが、昨夜死亡した」
アスターが冷静に経緯を説明するが、カトリーヌは信じようとはしない。
「信じられるか。どこまで我らを貶めるつもりじゃ」
「やめろ、カトリーヌ」
以外にも彼女を止めたのはヤーコブだった。
「これはわしらを見捨てた。既にあの時から縁を切った」
もっともらしい事を言っているが、結局、その元凶を生み出したのは彼等自身だ。ダドリーはラグラスを出し抜こうとした彼等を擁護しきれなかったに過ぎない。そもそもラグラスと手を組んで反乱を起こしたのが間違いなのだ。エドワルドが突きつけた計画に大人しく従っていれば、贅沢は出来ないまでも普通に暮らしていけたはずなのだ。そこを指摘すると彼等は押し黙った。
「最後の別れぐらいさせてやろうと配慮したつもりだったが、無用だったようだな」
エドワルドはそう言うと、控えていた下働き達に運び出す様に命じる。遺体に再び布が掛けられ、速やかに外へ運び出された。
「……」
運び出されていく遺体をヘデラ夫妻は複雑な表情で見送った。だが、エドワルドは感傷に浸る間すら与えるつもりはないらしい。
「さて、本題に入ろうか」
「これ以上我らから何を奪うつもりか?」
「自分達がしたことを棚に上げて何を言う?」
「我らは当然の権利を主張しただけじゃ。フォルビアは我らの物じゃ。どこの馬の骨とも分からぬ女が手にするものではない!」
血がつながっているだけあって、ヘザーはラグラスと全く同じ事を主張する。エドワルドは一つため息をつくと、再び控えて居たアスターに視線を向ける。彼は一礼をすると扉を開け、外で待っていた人物を招き入れた。入ってきたのはミハイルに手を引かれたフレアだった。
「お、お前は……」
牢にいた彼等はこの半年に起きた事を全て知っているわけではない。彼等はまだ、フレアが死んだと思い込んでいたのだ。
「我が娘を随分と愚弄してくれたな」
今の会話だけではない。以前にフレアは彼等に突き飛ばされて怪我をしたと聞いていたミハイルはその怒りを抑えようとはしてない。その威圧をまともに浴びた3人は恐怖で足がすくむ。
エドワルドもだが、ミハイルも正装を纏っていた。それぞれにその地位を表す記章を付けているのだが、一同はミハイルが付けている記章に愕然となる。一番目立つのは国主を表す金の輝き。それに続く所属を示す記章を見れば、顔を合わせたことは無くても相手の素性は自ずと分かってくる。
「バカな……」
詳しい経緯までは知らないが、それでもエドワルドが大陸屈指の実力者を味方に付けたことで苦境を脱したのは理解できた。しかも、その実力者は自分達が散々見下した相手の身内だったのだ。
「妻も娘も無事に帰ってきた。だからと言ってお前達を許す材料にはならない。ヤーコブ、カトリーヌ、ヘザーの3人には絞首刑を言い渡す」
エドワルドが国主代行として反逆に加担した3人に刑を言い渡す。半年間牢に繋がれていた彼等は心のどこかでそれはもうないだろうと安堵していた部分があったのだろうが、単に忙しくて彼等にかまっている暇が無かっただけだった。
ラグラスと決着をつけた後に彼等の刑も執行するのは当初の予定通りだったが、やはりフレアを散々貶めた相手に直接文句が言いたくてミハイルが同席を強く望んだために刑を言い渡すのが早まったのだ。
「……」
今度こそ気力を全て奪われたらしい3人はがっくりとその場に膝をつく。エドワルドは身振りで控えて居た牢番達に3人を連れて行くように命じた。執行されるのは先になるが、3人はそれまで死の恐怖におびえながら過ごす事になるだろう。
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