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第2章 タランテラの悪夢
140 戻せない時間4
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朝議が済み、皆が下がるとエドワルドはすぐに執務を再開した。アスターの事は気にはなるが、ブロワディにもあの様に言われたらいくら頑固な彼でも休まざるは得ないだろう。
だが、今日も処理する書類は山の様に重ねられており、他人の事ばかりかまっている暇は無い。彼は今日もせっせと目を通した書類にサインをしていく。
「……来たか」
馴染んだ気配が窓の外から感じる。きっと番の2頭に当てられて逃げ出してきたのだろう。今日は厚手の上着を着込むと、露台への扉を開けた。
「グランシアード……?」
いつもの様に頭を撫でようとして、彼は動きが止まる。パートナーの飛竜の頭の上には一匹の小竜がちょこんと止まっていたのだ。
「お前、誰の小竜だ?」
小竜は物怖じしない様子でグランシアードの頭の上で寛いでいた。よく見ると、体には胴輪がつけられ、そこには小さな紙片が挟まっている。
「おいで」
それに気づいたエドワルドは、小竜を怖がらせないようにそっと手を差し伸べた。するとその小竜は臆することなくその腕に収まる。
「いい子だ」
話しかけ、体を撫でてやるとクルクルと機嫌よく喉を鳴らす。優しく話しかけながら体を撫で、十分に小竜が落ち着いたところでようやくエドワルドはその紙片を取りだした。
「……」
紙片には大母の使いを示す百合の紋章が押されており、広げてみると特徴のない細かい字でびっしりとベルクに関する調査報告が書きこまれていた。それは既に知らされていた件の薬草園の情報だけではなかった。
彼等はロイスを静養という名目で監禁している小神殿を制圧い、彼を救出していた。しかし、徐々に衰弱していく毒薬を盛られていたロイスは、最早回復の目途が立たないほど弱っているらしい。この国を食い物にするだけにとどまらず、躊躇なく人を殺める命令を下す彼の横暴さに改めて腹が立つ。
「まさかここまでとはな……」
エドワルドはショックを隠し切れない。気分を落ち着け、改めて書かれた内容を完璧に記憶し、室内に戻るとその紙片を暖炉の中に入れて燃やした。そして彼も紙片に細かい字でベルクに関わると思われる情報と疑問点を書き連ね、そして最後に感謝の言葉を添えた。
「名前も分からぬが、そなたの主に感謝を伝えてくれ」
胴輪に紙片を挟み、小竜に労いの言葉をかけて外に放ってやる。小竜は元気よく飛び立ち、木々の向こうへと姿を消した。
アスターが自分の執務室に戻ると、クッションを抱えたマリーリアがソファで眠っていた。自分の仕事を抱えながらも彼の仕事も手伝い、空いた時間は飛竜の世話に忙殺されている彼女も疲れているのだろう。奥の仮眠室で休めばゆっくり寝られるのに、ここにいるという事はアスターが戻って来るのを待っていたのかもしれない。頭痛で鈍る思考でアスターはそう結論付けた。
「一緒に休むか……」
アスターは常備してある薬を取りだして丸薬を飲み下す。そして少しふらつきながらも眠っている恋人を抱き上げ、奥の仮眠室へ向かった。
目を覚ましたマリーリアは目の前に恋人の顔があって驚いた。しかもソファでうたた寝していたはずなのに、いつの間にか仮眠室の寝台で彼の腕に抱かれて眠っていたのだ。
思わず離れようとしたのだが、彼女の腰にはアスターの腕が回っていて身動きが出来なかった。寝ている筈なのに、整いすぎて好みでは無いとジーンが評するしなやかな筋肉に覆われた腕でがっちりと固定されていてびくともしない。
「アスター……」
気持ちが落ち着いたところで彼の顔にかかる栗色の髪を払う。こうして突いても起きないという事は、あの薬を飲んだのだろう。目の下の隈は先程見た時よりも幾分か薄くなっている。痛み止めの効果が出ているのか、その寝顔は穏やかだった。
「起きないの?」
衝動に駆られて頬や耳に触れる。しかし、うーんと唸るが起きる気配は無い。再び腰に回った腕を外してみようとも試みるが、やはりびくともしない。逆に抱き寄せられて体が密着する。
「もう……」
寝ているふりなのかと様子を窺うが、規則正しい寝息が聞こえる。起きるのを諦め、そのままアスターの体にすり寄る。体温と心臓の鼓動が伝わり、その心地良さにマリーリアは再び目をつむった。
だが、今日も処理する書類は山の様に重ねられており、他人の事ばかりかまっている暇は無い。彼は今日もせっせと目を通した書類にサインをしていく。
「……来たか」
馴染んだ気配が窓の外から感じる。きっと番の2頭に当てられて逃げ出してきたのだろう。今日は厚手の上着を着込むと、露台への扉を開けた。
「グランシアード……?」
いつもの様に頭を撫でようとして、彼は動きが止まる。パートナーの飛竜の頭の上には一匹の小竜がちょこんと止まっていたのだ。
「お前、誰の小竜だ?」
小竜は物怖じしない様子でグランシアードの頭の上で寛いでいた。よく見ると、体には胴輪がつけられ、そこには小さな紙片が挟まっている。
「おいで」
それに気づいたエドワルドは、小竜を怖がらせないようにそっと手を差し伸べた。するとその小竜は臆することなくその腕に収まる。
「いい子だ」
話しかけ、体を撫でてやるとクルクルと機嫌よく喉を鳴らす。優しく話しかけながら体を撫で、十分に小竜が落ち着いたところでようやくエドワルドはその紙片を取りだした。
「……」
紙片には大母の使いを示す百合の紋章が押されており、広げてみると特徴のない細かい字でびっしりとベルクに関する調査報告が書きこまれていた。それは既に知らされていた件の薬草園の情報だけではなかった。
彼等はロイスを静養という名目で監禁している小神殿を制圧い、彼を救出していた。しかし、徐々に衰弱していく毒薬を盛られていたロイスは、最早回復の目途が立たないほど弱っているらしい。この国を食い物にするだけにとどまらず、躊躇なく人を殺める命令を下す彼の横暴さに改めて腹が立つ。
「まさかここまでとはな……」
エドワルドはショックを隠し切れない。気分を落ち着け、改めて書かれた内容を完璧に記憶し、室内に戻るとその紙片を暖炉の中に入れて燃やした。そして彼も紙片に細かい字でベルクに関わると思われる情報と疑問点を書き連ね、そして最後に感謝の言葉を添えた。
「名前も分からぬが、そなたの主に感謝を伝えてくれ」
胴輪に紙片を挟み、小竜に労いの言葉をかけて外に放ってやる。小竜は元気よく飛び立ち、木々の向こうへと姿を消した。
アスターが自分の執務室に戻ると、クッションを抱えたマリーリアがソファで眠っていた。自分の仕事を抱えながらも彼の仕事も手伝い、空いた時間は飛竜の世話に忙殺されている彼女も疲れているのだろう。奥の仮眠室で休めばゆっくり寝られるのに、ここにいるという事はアスターが戻って来るのを待っていたのかもしれない。頭痛で鈍る思考でアスターはそう結論付けた。
「一緒に休むか……」
アスターは常備してある薬を取りだして丸薬を飲み下す。そして少しふらつきながらも眠っている恋人を抱き上げ、奥の仮眠室へ向かった。
目を覚ましたマリーリアは目の前に恋人の顔があって驚いた。しかもソファでうたた寝していたはずなのに、いつの間にか仮眠室の寝台で彼の腕に抱かれて眠っていたのだ。
思わず離れようとしたのだが、彼女の腰にはアスターの腕が回っていて身動きが出来なかった。寝ている筈なのに、整いすぎて好みでは無いとジーンが評するしなやかな筋肉に覆われた腕でがっちりと固定されていてびくともしない。
「アスター……」
気持ちが落ち着いたところで彼の顔にかかる栗色の髪を払う。こうして突いても起きないという事は、あの薬を飲んだのだろう。目の下の隈は先程見た時よりも幾分か薄くなっている。痛み止めの効果が出ているのか、その寝顔は穏やかだった。
「起きないの?」
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「もう……」
寝ているふりなのかと様子を窺うが、規則正しい寝息が聞こえる。起きるのを諦め、そのままアスターの体にすり寄る。体温と心臓の鼓動が伝わり、その心地良さにマリーリアは再び目をつむった。
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