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46.別れの決意(2)
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「何か事情がありそうだな~。今度こそ、綾芽ちゃんのお役に立てそうだから、話してよ」
本当のことを伝えるわけにもいかず、言葉に詰まった。それでも、行く当てもないことだけは、はっきりしている。
「あの……ちょっと事情があって、しばらくホテルにでも泊まろうかと探しているんです。この辺りで、安くて安全なホテルってご存じですか?」
「ホテル? またまた言えない事情かな~? ここで俺と出会えてよかったよ。この辺のホテルは殺人事件があったり、風俗で使われたりで、結構物騒だよ。そうだ、良かったら俺の友人が経営してるシェアハウスがあるんだ。そこへ、しばらく入ったらどうかな?」
「――――シェアハウス……?」
「綺麗な女性専用の部屋も完備してるし、同年代の女子とも知り合いになれるから、安心だよ」
神矢はスマホを取り出し、部屋の内部などを見せてくれた。どうやらシェアハウスの話は、本当のことらしい。ホテルに泊まろうと考えていたけれど、シェアハウスとは思いつかなかった。今後、仕事をしながら住むことを考えるなら、そういったタイプの方が都合がいいのかもしれない。
「ぜひ、お願いします」
「よし! 話がまとまれば、さっそく部屋を見に行こう。連絡をすぐにつけるから、ちょっと待ってて」
神矢はどこかへ電話を掛けると、先方と部屋を準備する話をまとめた。それから、近くに駐車している神矢の車に案内される。
「さ、車に乗って。ここから少し距離があるから、車の方が便利だよ。それに、都心から少し離れている分、家賃も安めだしね」
いきなり男性の車に乗るのは抵抗があるけれど、かつてのお見合い相手という素性の知れた立場の神矢が、悪いことを企んでいるとは考えにくい。勧められるままに助手席に乗り込んだ。
車は都心を抜け、郊外へ向けて走らせる。
閑静な住宅街の中を通り抜け、くねくねとした坂を上がっていくと、大きな一軒家が現れた。近所には家も少なく、家の明かりは消えており、辺りは静まり返っている。人の気配がまるでないことに疑問が生じた。
「神矢さん……本当にここって……」
車が止まりエンジンを止めると、神矢はいきなりラジオを流し始めた。なぜか音のボリュームを大きくしている。
「この辺りは静かだからね。こうしていれば、誰にも聞こえないでしょ。まぁ、ここへ来る人間は、ほとんどいないけどね」
正面を見据えたまま、神矢が引きつらせるように笑顔を浮かべた。その笑みが、綾芽をゾクリとさせる。やはり、これは神矢の罠だったようだ。気付いたのが遅いことを悟った綾芽は、ドアの取っ手に手を伸ばした。ガチャガチャと動かすが、もちろんドアはびくともしない。
「綾芽ちゃん。今度こそ俺たち本当に付き合おうよ」
冷たい目をした神矢が綾芽の方を見つめ、ボソッと呟いた。
「な、何を言ってるんですか?」
「理由もなく断られたら納得いかないよ。どうして嫌がるの? 僕なら、綾芽ちゃんを幸せにできる財力が充分にあるし、欲しいものなら何でも買ってあげられる。一緒にここで暮らそうよ。俺が幸せにしてやるからさ」
シートベルトを外そうと、神矢との間に手を伸ばすが、逆に腕を掴まれてしまった。
「お願いですから、やめて……!」
「さっき絡んできた奴ら、実は俺の仲間なの。電話一つ呼べるから、今さらどこへも逃げらんないよ。大丈夫。乱暴な事はしないから。少し目をつぶっていてくれれば、すぐに気持ち良くしてあげるよ」
神矢が綾芽の座るシートベルトのバックルに手を伸ばし、勢いよく座席シートを倒すと、腕を押さえつけ、強い力で覆いかぶさってきた。
「いやっ、やめてっ! 誰か、助けてー! 透也さ……」
その瞬間、車全体に叩きつけるような物音がして、車に衝撃が加わった。車体が何度か揺れて、ドアを何度もノックされる。神矢は慌てて体を起こし、周りを見回した。フロントには、黒ずくめの格好をした屈強そうな男性が数人、取り囲んでいる。
「これ以上罪を増やしたくなければ、鍵を開けろ!」
外からの呼びかけに、神矢は渋々命令に応じた。ドアが開くと外から数人の腕が伸びて、車内から引っ張り出される。怖くて瞼を閉じていると、シートベルトを外し、誰かが綾芽の体を持ち上げた。急いで目を開けて、抱き上げた人の顔を見上げる。
「とっ、透也さん……」
「大丈夫か? 綾芽」
名前を呼ばれた瞬間、勢いよく透也の首回りに抱き付いた。たった一日しか離れていたのに、長い間会えなかったような懐かしさを覚える。
「これで、すべてが繋がった。綾芽を張り込んでもらって正解だったな」
「ど、どういうことです……どうして透也さんが……?」
尋ねた言葉には答えようとせず、透也は綾芽を抱き上げたまま、神矢の行方を見つめている。神矢は数人の男たちから強引に車へ押し込まれると、どこかへ走り去っていった。
本当のことを伝えるわけにもいかず、言葉に詰まった。それでも、行く当てもないことだけは、はっきりしている。
「あの……ちょっと事情があって、しばらくホテルにでも泊まろうかと探しているんです。この辺りで、安くて安全なホテルってご存じですか?」
「ホテル? またまた言えない事情かな~? ここで俺と出会えてよかったよ。この辺のホテルは殺人事件があったり、風俗で使われたりで、結構物騒だよ。そうだ、良かったら俺の友人が経営してるシェアハウスがあるんだ。そこへ、しばらく入ったらどうかな?」
「――――シェアハウス……?」
「綺麗な女性専用の部屋も完備してるし、同年代の女子とも知り合いになれるから、安心だよ」
神矢はスマホを取り出し、部屋の内部などを見せてくれた。どうやらシェアハウスの話は、本当のことらしい。ホテルに泊まろうと考えていたけれど、シェアハウスとは思いつかなかった。今後、仕事をしながら住むことを考えるなら、そういったタイプの方が都合がいいのかもしれない。
「ぜひ、お願いします」
「よし! 話がまとまれば、さっそく部屋を見に行こう。連絡をすぐにつけるから、ちょっと待ってて」
神矢はどこかへ電話を掛けると、先方と部屋を準備する話をまとめた。それから、近くに駐車している神矢の車に案内される。
「さ、車に乗って。ここから少し距離があるから、車の方が便利だよ。それに、都心から少し離れている分、家賃も安めだしね」
いきなり男性の車に乗るのは抵抗があるけれど、かつてのお見合い相手という素性の知れた立場の神矢が、悪いことを企んでいるとは考えにくい。勧められるままに助手席に乗り込んだ。
車は都心を抜け、郊外へ向けて走らせる。
閑静な住宅街の中を通り抜け、くねくねとした坂を上がっていくと、大きな一軒家が現れた。近所には家も少なく、家の明かりは消えており、辺りは静まり返っている。人の気配がまるでないことに疑問が生じた。
「神矢さん……本当にここって……」
車が止まりエンジンを止めると、神矢はいきなりラジオを流し始めた。なぜか音のボリュームを大きくしている。
「この辺りは静かだからね。こうしていれば、誰にも聞こえないでしょ。まぁ、ここへ来る人間は、ほとんどいないけどね」
正面を見据えたまま、神矢が引きつらせるように笑顔を浮かべた。その笑みが、綾芽をゾクリとさせる。やはり、これは神矢の罠だったようだ。気付いたのが遅いことを悟った綾芽は、ドアの取っ手に手を伸ばした。ガチャガチャと動かすが、もちろんドアはびくともしない。
「綾芽ちゃん。今度こそ俺たち本当に付き合おうよ」
冷たい目をした神矢が綾芽の方を見つめ、ボソッと呟いた。
「な、何を言ってるんですか?」
「理由もなく断られたら納得いかないよ。どうして嫌がるの? 僕なら、綾芽ちゃんを幸せにできる財力が充分にあるし、欲しいものなら何でも買ってあげられる。一緒にここで暮らそうよ。俺が幸せにしてやるからさ」
シートベルトを外そうと、神矢との間に手を伸ばすが、逆に腕を掴まれてしまった。
「お願いですから、やめて……!」
「さっき絡んできた奴ら、実は俺の仲間なの。電話一つ呼べるから、今さらどこへも逃げらんないよ。大丈夫。乱暴な事はしないから。少し目をつぶっていてくれれば、すぐに気持ち良くしてあげるよ」
神矢が綾芽の座るシートベルトのバックルに手を伸ばし、勢いよく座席シートを倒すと、腕を押さえつけ、強い力で覆いかぶさってきた。
「いやっ、やめてっ! 誰か、助けてー! 透也さ……」
その瞬間、車全体に叩きつけるような物音がして、車に衝撃が加わった。車体が何度か揺れて、ドアを何度もノックされる。神矢は慌てて体を起こし、周りを見回した。フロントには、黒ずくめの格好をした屈強そうな男性が数人、取り囲んでいる。
「これ以上罪を増やしたくなければ、鍵を開けろ!」
外からの呼びかけに、神矢は渋々命令に応じた。ドアが開くと外から数人の腕が伸びて、車内から引っ張り出される。怖くて瞼を閉じていると、シートベルトを外し、誰かが綾芽の体を持ち上げた。急いで目を開けて、抱き上げた人の顔を見上げる。
「とっ、透也さん……」
「大丈夫か? 綾芽」
名前を呼ばれた瞬間、勢いよく透也の首回りに抱き付いた。たった一日しか離れていたのに、長い間会えなかったような懐かしさを覚える。
「これで、すべてが繋がった。綾芽を張り込んでもらって正解だったな」
「ど、どういうことです……どうして透也さんが……?」
尋ねた言葉には答えようとせず、透也は綾芽を抱き上げたまま、神矢の行方を見つめている。神矢は数人の男たちから強引に車へ押し込まれると、どこかへ走り去っていった。
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