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17.思わぬドライブ(1)

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 車を走らせてしばらくすると、ガイドブックで見かけたような風景が目の前広がる。川沿いの道に出ると、いつの間にか観光名所の嵐山に来ていた。
 坂を上がり、しばらく走ったところに駐車場が現れ、車を停車させる。

 車から降りると、目の前には立派な門構えが見えた。
 そこは敷居の高そうな料亭などで見られる、数寄屋造りと呼ばれる建築方法で建てられた、純日本風旅館だった。
 
「すご……い」

 思わず見事な建築にため息が漏れ、周囲を見回す。透也が隣に立ち綾芽と一緒に建物を見上げた。

「ここはかつて老舗の旅館だった施設を買い取り、最近ラグジュアリーホテルに改装したばかりなんだ。ところで、綾芽は昼食がまだだろう?」

 実は車の中で空腹を感じ、頭がクラクラしていた。朝からほとんど何も食べていないのだから、具合が悪くなるのも当然だ。

 山門のような入り口を抜け、木々が生えた石畳を踏みながら、くねくねとした道を歩くと、旅館の佇まいをした大きな建物が見えてくる。
 建物の中から支配人らしき女性が現れ、外まで出迎えてくれた。

「おこしやす、久我咲様」

「最近はどうだ? 順調に客足が伸びているようだが」

「はい。おかげさんで、予約も好調な滑り出しです」

 エントランスの格子戸を模した自動ドアを抜けると、中は改装されており、外観は純和風旅館のような造りに見えて、内部は高級ホテルのようになっていた。インテリアはシンプルな黒と金色でまとめられ、木造のいい香りが漂う。

 フロントから奥の部屋へと案内され、扉を開けると三十畳ほどの和室が現れた。足元には市松模様のモダン畳が敷かれ、窓の外には一面桂川の景色が広がっている。
 入り口でパンプスを脱ぐと畳の上へ上がり、窓際へと近付いた。すぐ傍には川が流れ、せせらぎが光を反射し、美しく輝く水の流れが遠くまで続いている。

「ここから見える景色、とても素敵です……」

 思わず口からはため息と共に、素直な感想が漏れてしまった。

「景色もいいが、そろそろ食事にしよう。準備を頼む」

 部屋の入り口で中居が一礼をし、襖を閉める。二人きりなって安心したせいか、綾芽は思わずその場で座り込んでしまった。

「どうした? 綾芽」

 透也が隣へ座り、心配そうな表情で綾芽を覗き込む。

「あの、実は……朝からご飯を食べてなくて……」

 その言葉に、透也はククッと笑い出した。

「そう思って、消化の良い料理を注文しておいたよ」

 綾芽は彼の言葉に思わず恥ずかしくなり、力なく彼を見上げて、また視線を手元に戻した。


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