上 下
63 / 82

第63話 視線の先

しおりを挟む
 魔女がいなくなってから、改めて、これからのことを考えました。


 あの男がミーシャを殺したことを、許すつもりはありません。
 ですが、あのような男に力を与えた、諸悪の根源である魔女に協力するなど、冗談ではありません。

 私は、魔女に教えられた言葉を、生涯口にしないと決意しました。

 しかし、問題があります。
 あの男は、魔力を無計画に使い続けて、枯渇するかもしれない状態なのです。

 魔力が尽きれば、彼は死んでしまうので、私を利用して補おうとするでしょう。
 しかし、彼の魔力の源を知ってしまった私のことを苦しめても、魔力を補うことはできません。

 焦った彼が、少女達に過剰な虐待を行うおそれがあることは、否定できませんでした。

 どうすれば、魔女の思惑に乗らず、少女達を守ることができるのか……?
 考えて、私は答えを出しました。


 私が部屋に入ると、彼は意外そうな顔をしました。

「……逃げなかったのか? そんなに、俺に抱かれたかったとはな」
「御主人様、お願いがございます」
「何だ? 言ってみろ」
「当面の間、旅は中断して、どこかに定住しませんか?」
「……何?」

 彼は怪訝な顔をしました。
 私は話を続けます。

「既に、御主人様が魂を入れた少女は7人になりました。彼女達が成長すれば、身体が大きくなって、馬車の荷台は手狭になっていくでしょう。そろそろ、女の子を集めるのは限界ではないでしょうか?」
「そんなことか……。狭くなったら、もっと大きな馬車を買えばいい」
「ですが、馬車を大きくしたら、扱いが大変になります。それに、馬車を買い替えるためのお金を、簡単に用意することができますか? 人数が増えれば、今よりも生活費が必要になりますよ?」
「金の心配なら必要ない。あいつらを使えば、稼ぐ方法はいくらでもある」
「まさか……身体を売らせたりは……」
「するはずがないだろう!?」
「……申し訳ありません」
「俺の女を、他の男に抱かせるはずがない」
「……」

 この男の独占欲が強いことを喜ぶべきなのかは、迷うところです。
 ですが、とりあえず、妹達が売春をせずに済むことについては安心できました。

「問題は、お金だけではありません。御主人様は、あの子達に、なるべく魔法を使わせないようになさっていますね? それは、魔力が尽きてしまうからではありませんか?」
「!」

 彼は、私の言葉に、激しく反応しました。
 やはり、これは、他人に知られたくないことだったようです。

「御主人様の能力が、いかに人智を超越したものであっても、魔力を消費しないとは思えません。そして……御主人様が女の子達に魂を与えたことを考えると、ひょっとして、魔力を与えているのも御主人様なのでは……?」
「お前は、余計なことを考えるな!」

 彼は、激昂して叫びました。
 やはり、自分の命に関わることについては、私に知られたくないのでしょう。

「……それはともかく、7人もの少女達が、これから大人になっていくのです。当分の間は、これ以上、人数を増やす必要はないでしょう?」
「コレクションは、増やすことに意味がある。俺は、集めることをやめるつもりはない」

 これからも、コレクションに加えるために、少女を殺すのですか……?
 そう言いたくなりましたが、私は言葉を飲み込みました。

 私が魔女と接触したことは、なるべく隠した方が良いでしょう。
 この男は、魔力が尽きれば死んでしまうのに、欲望を抑えられずに乱用して、枯渇しかかっているのです。

 もしも、私が少女達に、彼の魔力の源が『苦しみ』であると教えてしまえば、彼は魔力を補えずに死んでしまうでしょう。

 私が、彼の明確な弱点を知っている。その事実を知られてしまえば、この男は警戒して、私を抹殺しようとするかもしれません。
 仮に、この男を殺すのであれば、少女達への暴露は、こっそりと行う必要があります。

 私は、はっきりと、自分の中の殺意を自覚しながら彼を見ました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...