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第10話 少女達の関係

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 翌朝、私達は朝食をとりました。

 彼は、お行儀良く食べろ、野菜を残すな、といった、ごく普通の父親のような命令を出します。
 少女達は嫌そうな顔をしましたが、彼に絶対服従であるのは、本当のことのようでした。

 子供に、強制的に野菜を食べさせることができるなんて……とても不謹慎ではありますが、少しだけ、彼の能力が羨ましいと思ってしまいました。


「しばらくしたら出発する。それまでにトイレは済ませておけ」

 彼は、そう言ってからその場を離れました。
 少女達は、それぞれが自由に動き始めます。
 その様子を見て、私には不思議に思えたことがありました。

 女の子というのは、自然に他の女の子と仲良くするものです。
 しかし、彼女達はお互いに、とてもよそよそしい態度でした。

 まるで、他の女の子には何の関心もないようです。

「皆さん。少しだけ、私と遊びませんか?」

 私は、試しにそう言ってみました。
 しかし、少女達は、私に迷惑そうな顔を向けただけでした。

 やはり、この少女達は、普通の女の子ではありません。
 そのことを、改めて認識しました。


 しばらくして、彼が戻ってきました。

「トイレは済ませたか? 出発して、すぐに行きたいと言い出したら、馬車の上で壺にさせるからな?」

 彼がそう言ったので、私は驚いてしまいました。

「お待ちください! この子達は……女の子なんですよ!?」
「だからいいんじゃないか。みっともない姿でも、それなりに楽しめる」

 そう言って、彼はゲラゲラと笑いました。

 少女達は、恥ずかしそうに俯いています。
 私は、必死に怒りを押し殺しました。

「御主人様。この子達に、不必要な苦痛を与えることは、おやめいただけないでしょうか?」
「お前……俺に指図する気か?」
「いいえ。この子達が、より健やかで美しい女性に成長するために、必要だと考えて申し上げております」
「……冗談の分からない女だ」

 彼は、呆れた様子でため息を吐きました。
 そして、トイレに行きたくなった際には、すぐに申し出るように、と皆に命令しました。

 おそらく、私とミーシャ以外の全員が、既に同じ命令を受けていたのでしょう。
 私は、彼が本気ではなかったことに安心しました。


 しかし、皆が馬車に乗って、すぐに私は憂鬱になりました。
 長時間馬車に乗っていれば、お手洗いに行きたくなる時は、必ず訪れます。
 その時に、そのことを彼に伝えなければならないことに、気が滅入りました。

「何だ? ひょっとして、便所に行きたくなった時の心配をしているのか?」

 そう言って、彼はゲラゲラと笑いました。
 本当に……この男には、デリカシーの欠片もありません。

「女に羞恥心があるのは、当然のことでございます」
「だが、お前は、俺の命令には絶対服従だ。壺で済ますように命じられたら、どうするつもりだ?」
「……従います。私は、御主人様の『召使い』ですので」
「本当にできるのか、試してやろうか?」
「どうぞ、ご自由に命じてください」
「……今は勘弁してやろう」
「ありがとうございます」

 彼に、気持ちで負けてはなりません。
 嫌がれば、彼は私に、本当に屈辱的な行為を命じるでしょう。

「……御主人様。この子達は……お互いに、仲が悪いのでしょうか?」

 私は、先ほど抱いた疑問を、彼にぶつけました。

「そうだ。こいつらは、俺と自分以外の人間のことを嫌っているからな」

 そう言いながら、彼はナナの頭を、愛おしそうに撫でました。

「……ですが、この子達は、他者への同情心を有していますよね?」
「それは、俺のコレクションには、俺や他のコレクションが困っていたら、助けようとする習性を与えたからだ」
「ということは……この子達は、御主人様自身か、そのコレクションではない者が困っていても、決して助けることはないのでしょうか?」
「当然だろう?」
「……」

 本当に、この男は……最低の人格の持ち主です。
 彼が作り上げた人格は、彼の醜悪な魂を、そのまま書き写したようなもののように感じられました。

 少女達は、事実上、彼の分身のような存在です。
 そのように考えれば、「自分と彼しか好きではない」というのは、彼は自分のことしか好きではない、ということを意味しています。
 同じように、「彼と他のコレクションのことしか助けない」ということは、彼は彼自身以外のことは助けない、ということなのでしょう。

 こんな男……やはり、どのようなリスクがあったとしても、今すぐ抹殺するべきではないでしょうか……?
 そんなことを考えてしまってから、私は、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしました。
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