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夏休みが終わろうとしているある日、耐えきれなくなったぼくは、
「キスしてもいい?」
と彼女に訊いた。
デートの後の、帰り道。
夏の太陽も沈んでからだいぶ時間が経っており、辺りは暗く、人の姿がなかった。
「え」
呟いた彼女は、きょとんとしているようにも、不快に思っているようにも見え、ぼくは緊張した。これが原因で別れるって言われたらどうしよう。
「いい、っていうのは……」
彼女は無表情のまま、微かに首をかしげた。
「行動の評価を求めてるの? それとも許可を?」
やけに堅苦しい感じの質問で返された。
……もしかしたら、彼女も緊張しているのかもしれない。
そう思ったら、少し気が楽になった。
「どちらかといえば、許可かな……。ぼくとキスするの、嫌かどうかって話」
彼女は黙った。
だからぼくには、彼女が自分の気持ちについて考えていることが分かった。
固唾を呑んで見守るぼくの前で、彼女の唇が開き、
「……さあ」
出てきた頼りない声に、ぼくはずっこけそうになった。
「さあ、って」
「だって。……したことがないから、分からない」
今度はぼくが黙った。
なるほど、生真面目な彼女らしい答えだと思った。
「分かった。とりあえず、やってみよう」
ぼくは宣言し、彼女の両肩に手をかけた。
彼女は逃げることも、ぼくの身体を押し返すこともなく、おとなしく目を閉じた。
「……どう?」
唇を重ねるだけの短いキスの後、恐る恐る訊いたが、彼女はじっと黙っていた。
久し振りに三分ほど沈黙が続き、余裕を失っていたぼくは、
「え、やっぱり嫌だった?」
と、つい重ねて訊いてしまった。
彼女は激しく首を振った。
「あのね、何と言うか……、うまく言えないんだけど……」
彼女の中で答えがまとまっていないのに、こんな風に話し出すのは、実に珍しいことだった。
「甘くて、柔らかくて、ふわふわして……、でもちょっと切なくて、泣きたくなるような……そんな気持ちなの」
ぼくはドキリとした。
その感情を一言で表現したら、「好き」という言葉になるのではないだろうか。
だってぼくも、彼女に対して同じような気持ちを抱えているんだから。
「……じゃあ、お返しにぼくの気持ちを教えてあげようか」
彼女の瞳を覗き込んで、ぼくは言った。
彼女が頷く。
ぼくは力いっぱい彼女を抱きしめ、叫んだ。
「……大好きだ!」
九月に入り、彼女の誕生日になった。
ちょうど日曜日だったので、ぼく達は一緒にお昼ご飯を食べて、一緒に映画を見て、その後喫茶店で、一緒にケーキを食べた。
もちろん、ぼくは事前に、苺多めの美味しいショートケーキを出す店を調べていた。
彼女がそのショートケーキを頼み、ぼくがチョコレートケーキを頼んで、一口ずつ交換したりもした。
彼女は何度も「嬉しい」と言った。
僕が感じていた不安を察してくれたのかどうかは分からないけれど、最近は以前と比べると信じられないくらいこまめに、その時感じていることを話してくれる。
言葉に詰まることもあるけれど、きちんとまとまっていない感情も、考えていることの途中経過も、なるべく口に出そうと努めているようだ。
相変わらずの無表情だけど、その分、言葉やしぐさで、彼女なりにぼくに対して感情を伝えようとしてくれているのが分かる。
おかげでぼくはもう、不安にならずにすんでいた。
彼女はとても正直だ。
ぼくはただ、彼女の言葉を信じていればいいんだ。
改めて、ぼくはそう決意していた。
なのに――。
「キスしてもいい?」
と彼女に訊いた。
デートの後の、帰り道。
夏の太陽も沈んでからだいぶ時間が経っており、辺りは暗く、人の姿がなかった。
「え」
呟いた彼女は、きょとんとしているようにも、不快に思っているようにも見え、ぼくは緊張した。これが原因で別れるって言われたらどうしよう。
「いい、っていうのは……」
彼女は無表情のまま、微かに首をかしげた。
「行動の評価を求めてるの? それとも許可を?」
やけに堅苦しい感じの質問で返された。
……もしかしたら、彼女も緊張しているのかもしれない。
そう思ったら、少し気が楽になった。
「どちらかといえば、許可かな……。ぼくとキスするの、嫌かどうかって話」
彼女は黙った。
だからぼくには、彼女が自分の気持ちについて考えていることが分かった。
固唾を呑んで見守るぼくの前で、彼女の唇が開き、
「……さあ」
出てきた頼りない声に、ぼくはずっこけそうになった。
「さあ、って」
「だって。……したことがないから、分からない」
今度はぼくが黙った。
なるほど、生真面目な彼女らしい答えだと思った。
「分かった。とりあえず、やってみよう」
ぼくは宣言し、彼女の両肩に手をかけた。
彼女は逃げることも、ぼくの身体を押し返すこともなく、おとなしく目を閉じた。
「……どう?」
唇を重ねるだけの短いキスの後、恐る恐る訊いたが、彼女はじっと黙っていた。
久し振りに三分ほど沈黙が続き、余裕を失っていたぼくは、
「え、やっぱり嫌だった?」
と、つい重ねて訊いてしまった。
彼女は激しく首を振った。
「あのね、何と言うか……、うまく言えないんだけど……」
彼女の中で答えがまとまっていないのに、こんな風に話し出すのは、実に珍しいことだった。
「甘くて、柔らかくて、ふわふわして……、でもちょっと切なくて、泣きたくなるような……そんな気持ちなの」
ぼくはドキリとした。
その感情を一言で表現したら、「好き」という言葉になるのではないだろうか。
だってぼくも、彼女に対して同じような気持ちを抱えているんだから。
「……じゃあ、お返しにぼくの気持ちを教えてあげようか」
彼女の瞳を覗き込んで、ぼくは言った。
彼女が頷く。
ぼくは力いっぱい彼女を抱きしめ、叫んだ。
「……大好きだ!」
九月に入り、彼女の誕生日になった。
ちょうど日曜日だったので、ぼく達は一緒にお昼ご飯を食べて、一緒に映画を見て、その後喫茶店で、一緒にケーキを食べた。
もちろん、ぼくは事前に、苺多めの美味しいショートケーキを出す店を調べていた。
彼女がそのショートケーキを頼み、ぼくがチョコレートケーキを頼んで、一口ずつ交換したりもした。
彼女は何度も「嬉しい」と言った。
僕が感じていた不安を察してくれたのかどうかは分からないけれど、最近は以前と比べると信じられないくらいこまめに、その時感じていることを話してくれる。
言葉に詰まることもあるけれど、きちんとまとまっていない感情も、考えていることの途中経過も、なるべく口に出そうと努めているようだ。
相変わらずの無表情だけど、その分、言葉やしぐさで、彼女なりにぼくに対して感情を伝えようとしてくれているのが分かる。
おかげでぼくはもう、不安にならずにすんでいた。
彼女はとても正直だ。
ぼくはただ、彼女の言葉を信じていればいいんだ。
改めて、ぼくはそう決意していた。
なのに――。
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