禁断のrainbow rose

秋村篠弥

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紅月先生がデキルまで

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そうだ。
「っ……やめっ……!」
 そうだった。
「やめていいのか?」
俺がアノ要素に初めて出会ったのは、あの日だ。
屋上へ続く階段を通りすがった。すると声が聞こえてきた。時々小さな抵抗が聞こえ、そこで行われている事の意図を予感する。
クチュ……クチュッ
 俺は立ち尽くした。
男同士で……!?
 怖いもの見たさで階段に足をかけるということは無く、ただその可能性を自分の中で 否定したかった。
 現在はまだ、朝だ。起きたての脳内を呼び起こすので精一杯だ。それなのに、普通では考えられない事が情報として入ってくる。
 だから、背後の人気に気が付かなかった。
「よっ!」
 肩を置かれた時は、ビクッとしたが声は出なかった。
「おはよう」
 紅月の視界に入ったのは、蒼原剣だった。彼はいつも爽やかで、涼し気な雰囲気を纏っている。
 きっと良い教師になるだろうな。
 そんな事を考えていると、彼は言った。
「何ボケっとしてんだよ、てか。何でこんな朝早くから」
 彼が言っていた時だった。それを遮るように屋上へ続く階段から物音がした。
 蒼原は聞いたか?と確認するように紅月を見る。
「何の音だ?」
 蒼原は階段に足を掛けると、上がろうとした。紅月は止めようと、手を伸ばすが、頭が起きてきて、先ほどの試行錯誤は結局好奇心に変わってしまったのか、躊躇われた。
「……。」
 一歩一歩、着実に上がっていく蒼原に、紅月は不安が募る。
 マズイ、彼があんな場面があるを目撃してしまったら……。
 得策は蒼原を連れ、何も目にすることなく、ただ元の教室に戻る。それだけ。それだけの事が出来たら、良かったんだ。
 でも嫌だった。蒼原か自分のどちらかがアノ光景を目撃してしまうのは…アノ快楽を知ってしまうのは。
「剣……?」
 上がりきった後、蒼原の隣に立つ。そこに彼らはいた。
 片や、彼に覆い被さる様にしている。片や、覆い被さられる様にしている。異常なのは、体勢に加え同性同士という事だ。
「ッ……!」
 蒼原は、目を見開き後退りをする。彼らは一心不乱だったのか、如何わしい音を出しながら、行為を続けていた。
 紅月は、今度こそ蒼原の腕を掴むと引っ張った。蒼原はそれに抵抗せずに足を動かした。
 中学校にして、この光景は刺激が強かった。
 2人で、逃げるようにその場を後にし、教室に戻った。途中で、紅月が手に汗を握りながら、蒼原の袖を掴んだままだった。
「おい、子供かよ」
 蒼原に、そう笑われなければ、ずっとそうしていたかもしれない。彼の顔をじっと見る。
 何だか、落ち着く。ジワッと懐かしさが心に染み渡り、温かくなった。
「ははっ、俺はお前のことを取って食おうなんて思ったりしないさ」
 彼はそう言うと、自慢の八重歯を光らせた。
「たぶんな」
 そして聞こえるか聞こえないかの声でそう呟いた。
 初めて、蒼原に恐怖心を抱いた瞬間だった。
「冗談だよ」
「やめてくれ、気持ち悪い」

 視界が掠れ、ゆっくりと他のものに切り替わる。それは、天井だった。
「何だ、夢か」
 目を擦り、携帯で今の時刻を確認する。
 と、そこに居たのは…。
「つる、ぎ……?」
 そこに居たのは、上半身裸の剣だった。自分もだいぶ、衣服が乱れていた。
「は、はっ。まさかな」
 先ほどの夢の中でのアノ光景が、脳裏で再生される。あの音……感覚……快楽……。全てが妙にリアルだった。
 天井は、自室のではなく蒼原剣、幼馴染みの家のもの。
 次の日、休みだから自分は剣に頼ったのだろう。
 でなければ、わざわざ自分の教育の発端となった彼に会いになんて行かない。
 隣に視線を落とす。色白で、それでもしっかり筋肉が付いていて、昔から爽やかで、笑うと人懐っこい笑みを作り出す。その人柄に、俺は何度助けてもらったことか、何度傷付けられたことか。
「剣……」
 綺麗な寝顔が、急に懐かしい感覚を呼び覚まし、愛おしさを抱かせた。今までの思い出が、行為が……どんどん積み重なって今の俺がいる。
 剣は、教師になる事が出来なかったそうだが、そんな事どうだっていい。俺は、どんな剣でも……好きなんだ。
 剣の頬をつねり、起きていないことを確認した。幸い、寝返りも打たない。すぅすぅと寝息だけが、この部屋に存在した。
 だが、信じられずジッと見つめていたのだが、思い切りだと割り切って、彼の薄いピンク色の唇に口づけをした。
 すると、蒼原の腕が、足が、紅月の身体を拘束した。
「!?」
 驚き、すぐ様もがくが蒼原には逆にその反応が楽しみでもあった。1度、唇を離すと起き上がるが、足で紅月を拘束したまま、押し倒す。
「お前、本当は起きてたんだな?」
 「キスで起きるのは人間のサガだよ。てか、なに勝手に寝ちゃってんの?全く、夜弱いよね…鎧は」
 「うるさい」
 そう言い、目を逸らすが彼のニヤニヤが止まることは無い。
「いやぁー、やっぱり鎧ちゃんは可愛いなぁ」
「気持ち悪い」
 夢でも言っていた事を彼に言う。何だか、その事が妙に可笑しく思えた。
「ははっ、こんなにお前を可愛くさせられんのも、俺くらいだろうに」
 そう言いどこか誇っている彼の出鼻を挫く。
「残念だが、俺を可愛がる奴はお前だけじゃなくなった」
「なくなった、って事は最近現れたんだな?どこのどいつだ、そいつは!」
 そう言われ、俺は東龍牙と西龍牙を思い出していた。染谷あゆめはまだ俺が狂ってないから該当はしないな。
 あの2人は俺達の後継者だからな。そのことに気が付いている奴はいないようだが…。
「あ、だから最近冷たいのか?剣居なくてもコイツら居るしー、みたいな?」
 「服着ろよ」
「だったら俺が、俺に戻って来ないと気が済まなくなるまで狂わせてやるよ!」
 剣のスイッチが入ったのが夜だったら良い。だが、俺はヘビーな行為は夜だけと決めてる。お互いにもう、社会人だしな。
 ため息をつくと、俺は心持ち軽めに剣の脇腹を蹴った。
「うごっ」
 剣はゆっくり倒れ、もがいているが、何故だか抵抗された事を喜んでいるようだ。
 ふと、剣の腹部の切り傷か目に入り、視線をそらす。
「懐かしいな」
 その視線を感じたのか、偶然か、剣は声のトーンを落として言った。
「何がだ?」
 この切り傷は、剣が俺のために自分でつけたものだ。
 『もう、ここから、足を洗おう。洗える気がしないなら、俺の血で洗い流せ』そう言って冗談混じりに笑うと、彼は思いっきりカッターで、腹部を裂いた。そうすることで、痛みにより一線超えることが出来ると思ったのだろう。俺もその光景から後、1度も戻ることは無かった。
 剣だって。あれから1度も戻ってないはずだ。
 ただ、引退じゃないから、後継者を決めるのに少し苦労をしたと思う。何より、東西南北の二つの長が居なくなり、空いた二つの席を取り合うのだから。
「腹減った……、飯作れ」
 剣は崩れると、顔をこちらに向けて言う。
「ヤだよ何で俺が……」
「じゃあ食いに行こう、あ、安心しろ俺の奢りだ」
「そうか、なら遠慮なく付いていく」
 俺の言葉を聞くと、剣は自分のシャツを鷲掴み、部屋を出ていった。
「着替えとけよ」
 その言葉に、俺は勝手にクローゼットを開け、適当に着るものを出す。今日は休日のためラフな服を選んだ。
「久しぶりのデートだな♪」
 ドアから顔だけを出し、言ってきた。俺は無視をする。
 何故、そんなにも瞳が眩しいのだろうか?
 それを言葉にするのは躊躇われた。気が付いていると思われてしまう。彼の気持ちに、欲に。
「デートは彼女と行けよ」
 そう毒付いても尚、笑顔な彼に呆れ顔しか返せなかった。



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