上 下
54 / 55
第四章 俺様の外れスキルは【四死】 ~獣人国レオのレグルスの場合

第07話 刺死(ざまぁ回その参)

しおりを挟む
 見えない円形の衝撃波を飛ばして来た。叫び声の数からして四つ。

 その瞬間――。

 クンクン!? この鼻を刺す臭いは――俺様の死の臭い!

 俺様の前方を広範囲で塞ぐように四ヵ所、更にその後ろ三ヵ所から死の臭いがする――やってくれる、囲む様に衝撃波を飛ばしたと言うのは嘘か。

 俺様は四倍になっている脚力で大きく真横に飛び死の臭いを全てやり過ごす。

 よし、死の臭いが消えた。

「な、なんで分かったのね? 見えたのね?」

 お前に殺されたお陰で新しくスキル『刺死しし』が使えるようになったなんて教えるわけがないだろう。

 このスキル『刺死しし』は俺様の死に関わる事を刺激臭として嗅ぎつける事が出来る。しかも自動で発動する便利なスキル技だ。

 今度は俺様が猛ダッシュでトナティウに近づき腹にパンチを入れる。

「んぐっ」

 腹を押さえながら屈んだトナティウの頭を持ち背負うように思いっきり投げ飛ばした。長い首が孤を描き石畳に背中から叩きつけられる。勢いがありすぎてバウンドしたがそのタイミングで身をひるがえし素早く立ち上がった。

 背中にはダメージが無いようだが肩で息をしている。

「ハァハァ。ミーの衝撃波が見えるのね? ワザとスキル技名を叫ぶ時小さい声で聞こえない様に叫んで速度の遅い衝撃波も混ぜたてタイミングを変えたのに……」

 なるほど、そういう事か。基本スキル技を出す時は叫ばなければ使えないと言う認識を逆手に取ったわけか。魔法詠唱と違ってこういう体術系のスキル技は叫び声に魂を乗せれば乗せるほど威力が高くなるからどうしても大声になってしまう。

 それにしても頭を使った技と言うかからめ手が多いな。苦肉の策か。元々戦闘が得意な種族ではないんだろうな。見た目からして防御型だしな。

「解説わざわざありがとう、な!」

 俺様はトナティウの体勢が整う前に近づき腹を蹴り上げる。

「ぐはっ」

 トナティウは床にうつ伏せに倒れそのままうずくまった、俺様が首を掴もうとした瞬間、長い首が甲羅の中に吸い込まれた。いや、顔だけじゃなく、手や足、尻尾までも。全ての部位が甲羅の中に引っ込んでしまった。

 俺様は甲羅の上にまたがり、思いっきり何度も拳を叩きつけた。

 ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ

 おいおい、今の俺様は四倍にパワーアップしているのにこの甲羅は耐えるのか。

「ふふふ、ミーの甲羅はその程度の攻撃ではビクともしなのね、このまま持久戦に持ち込むのね、一時間耐えるのね」

「それはダメだな、時間切れは俺様の負けになる」

 甲羅だけの状態でも俺様より少し大きいトナティウを両手で持ち上げようとする。結構重いな、甲羅が重いのか?

「『十重ジュウジュウ』なのね!」

 トナティウがそう叫ぶと甲羅の色が少し黒くなった。少し持ち上がっていた甲羅が急に重くなり持ち上げる事が出来なくなった。

「ミーのスキル『十重ジュウジュウ』は重さを十倍にするスキル技なのね」

 風馬族のキタルファもそうだがトナティウも色々技を持って居て羨ましいな、羽兎族のアルネブは一つしかなかったが……まああれはその前に自滅しただけか。

 だが今の俺様もスキル技が増えているんだぜ。

「『視死しし』」

 俺様は“相手の弱点や攻略方法が分かる”スキルを使う。するとトナティウの甲羅の左肩部分が赤く点灯して見えた。どうやらそこが弱点の様だな。

 その赤く点灯している部分を俺様の爪を尖らせた右手で思い切り貫く。トナティウが痛みで叫び声を上げると黒っぽくなっていた甲羅の色が元に戻った。どうやらスキルが解除されたらしいな。右手を刺したその状態のまま強引にひっくり返す。

「な、なんでミーの古傷が分かったのね?」

「さてね」

「さっき『しし』って聞こえたのね、もしかしてそれはスキル技なのね?」

 おっと不味いな。俺様のスキルは『不死身』だけになっている。他にスキルを持って居る事がばれたら負けにされてしまう。

 まあ戦っている最中に覚えたとか言い訳もできるが、通用し無さそうだし、今後はトナティウを見習ってもっと小さい声で叫ぶか。
 
 取りあえずこの場は……話を逸らそう――。

「そのご自慢の甲羅は確かに硬いけど、腹の部分はそうでもないよな」

 俺様は誤魔化すように大きな声で言った。そしてトナティウの腹の上にまたがり、思いっきり何度も拳を叩きつけた。

 ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ

「ぐは、ぐぼぁ、ぐがぁ」と甲羅の中から苦しそうな声が漏れてきた。

 よし、これくらい殴ればもうスキルの話は忘れただろう。

「甲羅の中から出て来たくないのなら、俺様はそれでもかまわないが、まあ逆にその状態で死んだ方が埋葬も楽だしいいか」

 さて、時間もそれ程無いしそろそろ止めを刺すか……俺様はふと思う、本当にこいつと分かり合えないのだろうかと……俺様は首を横に振る、『いにしえの掟』は絶対だ――。

 ――いやまてよ、キタルファみたいなこともあるし、一応最後の言い訳くらい聞いてやるか。そうだな、そうしよう!

「そろそろ終わらせるが、最後に何か言い残す事はあるか? 勿論降参以外で」

 甲羅の中からぼそぼそと声が聞こえてきた。

「……ミーの妹は前獣王デネボラに見捨てられたのね、そして死んでしまったのね、だからミーは五年前に協力したのね」

「聞こえにくかったが、親父に見捨てられたと言ったか? どういう事だ?」

「……大きい声では言えないのね、ちょっと耳を貸してほしいのね」

 そう言いトナティウは甲羅の中から首を伸ばし顔を近づけて来た。ん?

「おい!? どうして俺様に巻き付くんだ?」

「かかったのね! 『大首黄捕留怒だいしゅきほるど』」

 そう叫びトナティウは俺様に巻き付いている長い首を絞めつけて来た。

「甘いのね、甘すぎるのね。やっぱりボーイは前獣王デネボラの息子なのね」

「親父の様に甘いか……そうか、俺様を騙したのか、やはり分かり合うのは無理なようなだ――ならもういい、終わらせよう」

 俺様は絞めつけられていることなど気にせず、跨った状態から全体重をかけ心臓を狙って鋭い爪で貫いた。

「さよならだ、トナティウ、『いにしえの掟』に従い処刑を決行した!」

「ぐぼぁ……こ、これでいいのね……自分のした事はちゃんと責任を持たないとあいつ等と同じになってしまうのね」

 トナティウは口から血を吐き出す。

「でも、ごめんなのね……ネリ……」

 トナティウの涙で濡れた長いまつ毛が閉じる。

「ネリ?」

 俺様に絡み付いていた長い首がドサリと落ちる。血で染まった俺様の右手を抜くと、観客からは悲鳴が上がる。
 
 返り血を浴びている俺様を見て、審判のトトさんが悲しそうな顔で近寄って来た、そしてトナティウだったものを確認する――首を横に振った。

「……にゃぁぁぁぁ トナティウ選手の死亡を確認したにゃあ……試合終了にゃあ、これにより三回戦勝者も金獅子族のレグルス坊ちゃん選手にゃぁあああ!」

 ワー ワー ワー ワー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

処理中です...