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第一章 僕の外れスキルは『うし改』 ~タウラス公国のアルデバランの場合

第10話 崩壊は戻せない(ざまぁ回その弐)

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 よし、これでさっき付けられた傷は回復したな。

「さて次はそっちの金色のおじさんの番だよ、残っている騎士達と一緒でも僕は構わないけど」

「いや結構だ、儂の部下達では歯が立たんだろ、回復もしておるようだしな」

「そう、役に立たない騎士なんて要らないよね、お金の無駄だよ、お金無いんでしょ? さっき盗賊みたいな事をしていた訳だし、僕が手伝ってあげるよ」

「く、お前達剣を抜いて構えろ!」

「『クイックタウロス』!」

 僕は変化すると持っている『プレイオネの槍』で残りの六人の騎士達の首を高速移動で貫いて周った。

 六人の騎士達がドサッと同時に倒れ地面を血の海にする。

「貴様ぁ! よくも儂の部下達を、恨みでもあるのか!」

「えっ? もしかして誰にも恨まれていないとでも思っているの?」

…………

「ガッハッハ、思わす熱くなってしまったわい! いいや違うぞ、心当たりがありすぎて、どの恨みか分からないだけだ、まあ部下などまた集めればいいがな、ガッハッハ」

「そっか、少しは良識のある人かと思ったけど、良かったよ、僕の知っているクズな人間で! 『パワータウロス』!」

 僕は身長2.5mで全身筋肉質の体の攻撃特化のミノタウロスに変化した。

「おじさん力自慢なんだよね? どう? 僕と力比べでしてみるかい? もし僕に勝てたら――楽に殺してあげるよ」

 さっきまで僕より大きかった金色の鎧のおじさんを見おろしながら僕は言った。

「く、ふざけおって、魔物風情が! 儂を誰だと思っておる! 『力とカリスマ』のアインだぞ! 死ね『真・岩石粉砕斬しん・がんせきふんさいざん』んんんんんんんんんんんん!」

 おじさんが大剣を持って振り下ろして来た手首を掴んで受け止め――そのまま握り潰した。持っていた大剣が地面に落ちて刺さる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」

「うるさいなぁ」、僕はもう片方の手首も掴んで同じく握り潰した。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「だからうるさいってば」、僕は地面に刺さっていた大剣を抜き、その剣先をおじさんの喉に当てて質問した。

「おじさん、死ぬ前に何か言い残したことはある?」

「待ってくれ、この手じゃ儂はもう戦えない、死にたくない! 頼む命だけは、儂はあの馬鹿領主の命令に従っていただけで本当はこんな事はしたくなかったんだ」

 そう言いぐしゃぐしゃに潰れた両手を地面につき土下座してきた。

「おじさんは今まで許しを請うてきた人達を許してあげたの?」

「も、勿論だ、儂はそんな非道な人間ではない、だから頼む」

「でもさっき凄く良い顔で、村長さんを殺したのはおじさんだよね?」

「あ、あれは、馬鹿領主の……タイゲタの命令で……」

「言い訳はもういいよ、僕は嘘つきと裏切り者は嫌いなんだ」

「くっ!」 ダッ!

 立って逃げ出そうとしたおじさんの首を後ろから大剣で跳ねた。その首はゴロゴロとタイゲタの前まで転がって行った。

「ひぃぃぃぃぃ」

 僕がタイゲタを見ると、腰を抜かしそのまま後ずさりして行き、丁度そこに居た、新しく任命された村長の首に剣を突き付けた。

「く、来るな! 来たらこいつを殺すぞ! いいのか!」

「え? いいけど?」

「う、嘘つくな! お前はこの村を守っているんだろ、こいつはここの村人だぞ」

「守っている? 何で僕が?」

「つ、強がりを言うな! おい、お前もあのバケモノに何か言ってやれ!」

「え? お、俺……、領主様の言う通りにしろよ、バケモノの命より人間様の命の方が大事だろ! 聞いているんだろ? 誰だ? 誰の『従魔』だ?」

「『従魔』? ああそうか分かったぞ! あの時の生き残りか? そうだろ?」

「残念だけど、僕は『従魔』じゃないよ」

 僕はそう言いゆっくりとタイゲタに近づいていく。

「く、来るな! 本当にこいつを殺すぞ! いいのか!」

「だから、いいってば、なんなら僕が手伝ってあげようか?」

 ヒュンッ 僕はそう言い持って居た、『プレイオネの槍』をその村人に向かって投げた。槍は村人の胸に刺さり、ガクリッとこうべを垂れる。それを観た領主は声を荒げた。

「なっ、な、なんでだ? お前はこの村を、村人を助けに来たんじゃないのか?」

「違うよ、僕がクレタ村の人間を皆殺しにしようと思っていたのに、お前が先に殺し始めたから割って入っただけだよ」

「村人を皆殺し? そ、そうか、それはすまなかった、そうだよな、獲物を横取りされたら誰だって怒るよな、お前の好きすればいい、俺は邪魔しないから、もう帰るから、じゃ、じゃあな」

「なに勝手に帰ろうとしているの? 僕の一番の獲物はお前なんだぞ」

「な、なんでだ? 俺がお前に何かしたのか、なら謝る、金か? 女か? 地位か? そうだ魔物でも俺が言えばきっと貴族にもしてやれる、どうだ?」

「要らないよ、そんなもの」

 僕はそう言い、更にタイゲタに近づいていく。

「く、来るな! おい! 誰か助けろ! 俺は領主だぞ! アイン! アマテル! さっさと俺を守れ!」

「二人はさっきお前の目の前で死んだだろ」

「あいつらは最強の騎士なんだぞ、お前みたいなバケモノなんかにやられるわけないだろ、さっきのは、奇術か幻術だ! そう見えただけだ、そうだろ?」

「領主なのに上には上がいるって知らなかったのかい?」

 僕は『プレイオネの槍』を村人の死体から抜き、領主に突き付けた。そして右耳を槍で刺した。

「ぎゃぁぁぁぁ」

 次は、左耳、右手、左手、右足、左足と次々槍で貫いていく。

「ぎゃぁぁ、や、止めてくれ、痛い、痛いぃぃ、頼む、お願いだ、お願いします、死にたくない、こんなところで俺は死んじゃダメなんだ」

「予定ではこのまま甚振いたぶって殺すつもりだったけど、実はさっきお前達のおかげでスキルレベルが上がったんだ、僕も多分解放条件はそれだと思っていて、盗賊とか山賊を探したんだけど運悪く居なかったんだよね」

「解放条件? 何の話を……」

「同種族を一人殺す、つまり僕と同じ人間を殺すのが解放条件だったって話さ、まあこっちの話だよ、『マインドタウロス』!」

―――――――――――――
『マインドタウロス』:身長1.8m。全身灰色の体で細長い2本の角が生えている。その角を生物の心臓に突き刺すと従魔に出来る、ただしその生物が人種(亜人を含む)の場合は魔物化・・・する。意識を失うか解除したいと思えば元に戻れる。
―――――――――――――

「『助けてくれ』以外で、最後に何か言い残すことはあるかい?」 

「待て、待ってくれ、頼む、ヤダ、殺さないでくれ、助けてくれ、あっ」
 
「はぁ」、僕はタイゲタの頭を鷲掴みにし、角で心臓を突き刺した。

「ごぼぁぁ」

 角を引き抜くと、タイゲタの姿は少しずつ変わっていった。槍で刺した傷も塞がっていき、全身に茶色の毛が生えてきて、顔が伸び、尻尾が生え、体も大きくなり、最後に二本の角が生え、牛の魔物、ミノタウロスへと変貌を遂げた。

「へー、ミノタウロスになるのか、まあ僕の方が強そうだけど」

「ブモ!? ブモブモブモ!」

「おや? もしかして言葉は話せないのか、これは言い事を思いついた」

 僕はタイゲタを引き寄せ耳元でこう呟いた。

「僕は去年お前に殺された『魔獣使い』の家族の生き残りだ、あの時牢屋に閉じ込められて母さんが逃がしてくれた子供だ、『従魔』じゃない、本人そのものだ!」

「ブモブモブモ!(もしかしてそれはスキルか?)」

「ああそうだ、僕のジョブは『う士』、スキルは『うし改』」

「ブモ? ブモブモブモ!(うし? お願いします、元に戻してください)」

「さぁ、戻し方は分からないよ、出来ないんじゃないかなぁ? それよりタイゲタ、お前は余興や遊びが好きだったよね、あの時もそうだったし」

「ブ、ブモブモブモ?(な、何をさせる気なんだ?)」

「今からお前は自分の領地の『首都ヒアデス』に戻って破壊の限りを尽くして来るんだ、邪魔する奴は排除しろ! それが終わったら次は『王都』を攻めるんだぞ。もしそれでも生きていたら――後はお前の好きにしていいよ」

「ブモ? ブモブモ(な? なんでそんな事を?)」

「だから余興だって、それに去年予言していたじゃないか、僕達家族が街に魔物で攻め込む計画を立てているって! 良かったね予言が当たって、だから早く行って来なよ!」

「ブモ! ブモブモ……ブモブモ!(くそ! 身体が勝手に……逆らう事が出来ん!)」

 タイゲタはドタドタと走って行ってしまった。あいつは普通のミノタウロスだから多分そんなに強くないんだよなぁ、いや人間の思考がある分、本物よりは強いのかな? まあいいか。

 さてと、次は……僕は広場を見渡した。村人達は今までの余興を黙って見ていたようだ、ホント皆ガリガリだな、ちゃんと食べてないんだろうな――あっ、居た!

 僕は二人の村人に近づいて行った。この二人はあの時の見張りの生き残りだ。

「ひっ」、「な、なんだ」

 僕は有無を言わず二人の心臓を突き刺した。

「「ごぼぁ」」

 そしてミノタウロスに変わっていく二人の耳元でこう囁いた。

「久しぶり、去年は僕の母さんがお世話になったね――復讐に来たよ」

「「ブモ? ブモブモ(まさか? お前は)」」

「そうだよ、それよりお前達にもタイゲタと同じ命令をしよう、だから急いでタイゲタを追った方がいいよ、道、分からないだろ? 頑張ってね」

「ま、待て! 待ってくれ、聞いてくれ、俺達はあの時――」

「――言い訳は聞きたくない! 早く行きなよ!」

 ミノタウロスに変わっってしまった二人は、ブツブツと言いながらタイゲタの後を追って行った。

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