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大祓の儀にて大役を任ぜらるる事
4.
しおりを挟む「範子さま、本当に大丈夫ですか?」
敦宣が先程よりも心配そうに聞いてきた。
無用な心配はかけたくはない。けれど、何を思っていたのか説明するのも何となく憚られてしまう。
「あー…えっと」
咄嗟に頭に浮かんだのは先日のことだった。
「あのね、敦宣、聞いてくれる? この前帝の御幸にご同行させてもらったんだけど…」
部屋に入りながら続ける。
「雑談の流れで弓の腕が一番上手いひとを決めるために、誰が一番早く木になったアケビを射落とすことが出来るかって話になったんだ」
「でしたら範子さまの独壇場ですね。弓は範子さまの十八番ではありませんか」
「うん…。まあそうなんだけどね。頭中将殿がそれは張り切っちゃって」
「頭中将さまといえば、宮中でも指折りの剣士だと以前に教えていただきましたね」
うん、と頷く。いつか敦宣に話した事を彼は覚えていたようだ。敦宣は邸から出ないと思い込んでいた頃から、範子は彼に宮中の出来事を話していたものだ。敦宣が聞きたがり、話せば喜んだからだった。
勧められ、畳に腰を降ろす。
向かいに座した敦宣に、範子は苦笑を向けた。
「頭中将殿が勢い余って落馬しそうになったんだ。咄嗟に引き上げようとしたら、あの方ガタイが良いから持ち上げられなくて、あわや私も落馬の危機だよ」
「まあ、大丈夫だったのですか。お怪我は…?」
「平気平気。結果として頭中将殿は馬上で踏ん張って落ちなかったんだ。落ちそうになった私もあの方に助けられてね。結局さ、私の助けはいらなかったんだなあって…」
胡座をかき、頬杖をつく。
「やっぱり、いくらこの格好してても、力の差は埋められないよね。私は女なんだなあって思い知る」
「範子さまにもそのように思う事があるのですね…」
「そりゃそうだよ。どんなひとでも皆何かしら不満や悩みを抱えてるもんじゃないかなあ」
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