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あやかし退治の夜
2.
しおりを挟む「範子、出番よ」
「うん。敦宣、ちょっと失礼するよ」
範子が横で腕を広げると、
「お願いいたします…」
若干気恥ずかしげにしながら敦宣は大人しく範子の抱擁を受け入れた。
何時もと同じように、自らの気を流し込む想像を描く。
しかし、暫くして胡蝶が言った。
「…あらん? だめね、足りないみたいよ」
「えっ、足りない? 私の気が足りないの?」
「いんや、充分よ。ただ、なかなか気がうまいこと渡ってないのよねえ。ま、そんな日もあるわよ」
そんな日もあるのか。『気』についてはわからないことだらけだ。
しかしながら、範子が夜の退治に同行するようになって初のことで焦ってしまう。
「どうしたらいい?」
「そうねえ…次は口吸いでもやっとく?」
どうにもならないなら、敦宣を背負ってでも逃げるしかないと覚悟していた範子だったが、胡蝶から出た緊張感のない至極軽い発言に、一瞬時が止まる。
「は!」
「…!」
我に返り、思わずふたりで顔を見合わせる。
敦宣の頬がじわじわと上気していく。暗さに馴れた目にはその様が見えてしまい、範子の頬もつられたように血が上る感覚がした。
気を渡す手段に抱き付くのはまだ彼女の中では許容範囲だった。なので事務的にこなすことが出来た。だがそれ以上の深い触れ合いをするとなると話はまったく違ってくる。
そこへ蝶が追討ちをかけてきた。
「要するに、気を渡すにはお互いの肉体が交わればいいのよ。色々あるでしょ? いろいろと」
「そのいろいろはちょっと公共の場でやっちゃだめなんじゃないかな!?」
「夜這いどんとこいのこの平安の世で何カマトトぶってんのよ。アンタだって若い男どもに混じってたら猥談のひとつやふたつあるでしょ?」
「そりゃあるけど!」
「あるのですね…」
敦宣が小さく呟くのを耳にし、
「え! …いや、」
何も疚しいことはないのに焦る範子である。
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