上 下
12 / 17
第一章

2-1.

しおりを挟む

アレックスは自室へと続く廊下を歩いていた。

身体は機械的に前へと脚を進めるが、頭はメイド長から先ほど聞いた話が大半を占めていた。彼女とあのあとどうやって別れたのか曖昧だ。無礼な振る舞いはしていないと思いたい。

眠気はまるでない。早めの就寝をして気持ちを切り換えるつもりだったが、この感じでは到底叶わないだろう。
歩みを止める。ついには大きなため息が漏れた。

鈴を転がすような愛らしい笑い声が聴こえたのはその時だ。

は、と顔をあげる。
長い廊下の曲がり角に、小さな影が佇んでいる。

「女の子…?」

アレックスの髪より明るい茶金の長い髪と、裾がふわりと広がった黒のドレス。遠目にわかったのはそれくらいだったが、彼女がアレックスに微笑みかけているのは何故かわかった。
あんな小さな子がこんな遅い時間にどうしたのだろう。と思いかけ、ふと思い至る。

いや…それ以前に。


----この屋敷に、小さな女の子など居たか?


アレックスが気付いたと同時に、小さな影がくすくすと笑い声を残し、亜麻色の髪を翻して角に走り去る。

「あ…」

追い掛けていたのはほとんど無意識だった。
大人の男が走れば長い廊下もすぐに終わりに辿り着き、女の子が去った角を曲がる。

しかし、小さな影は何処にもなかった。大人と違い、子どもの足ではこの短時間にそう遠くへは行けないはずなのに。何処かの部屋に入ったのだろうか。

暫し呆然としていると、ふと視界に動くものを捉え目を向ける。

窓の外だ。
昼間は色とりどりの花が咲く賑かな其処も、夜ともなれば闇一色に静まっている。
その中で、チカリと月明かりを反射するものがあった。
窓際に歩み寄り、目を凝らす。
そして、正体に気付いた。

白金の髪だ。
認識すれば、人影が闇に隠れるように外を歩いているのがわかった。

「ヘーゼル様…?」

あの見事な金の髪の持ち主を、アレックスはヘーゼルしか知らない。
こんな夜更けに侯爵家の嫡子を外に出して何かあったら一大事だ。

「シャレにならんぞ…!」

慌てて踵を返す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ドールハウス

ru
ファンタジー
とある屋敷に給仕役として仕えることになった僕は、美しい少女と人形遊びをすることに……

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

処理中です...