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くもいの館 中編
6.
しおりを挟むまさかの衝撃に固まってしまった私を見てどう思ったか「ありゃ、もしや甘いもんは苦手かい?」と言い、差し出された菓子は引っ込められてしまった。
「娘も甘いもんは苦手だったなァ…。この姿にしてもらってからは会ってねぇが、あいつら元気かね」
せっかくの好意を無下にしてしまった罪悪感はおっちゃんが呟いた内容に押し退けられてしまう。
頭の中で反芻し、俄に手先が冷たくなった。
「おっちゃん、まさか…元は、」
「ほらよ、ご所望の灯りだ。気ぃつけて持ちな」
私が僅かに言葉尻を震えさせながら聞こうとする前に、燭台が差し出される。
「ありがとう…」
蝋燭が淡い灯りを灯す燭台を受け取り、私は問いかけの言葉を呑み込んだ。
いやいや、まさか。
んなわけないよな。
無理やり自分を納得させて、貰った燭台を握り締める。
今、私がすべきことはひつじさんを助けることだ。優先順位を見誤ってはだめだ。
おっちゃんに見送られ、厨房の両開きの扉を潜る。
きぃきぃと鳴きながら扉が何度かバウンドする毎に厨房から漏れ出す灯りは細くなり、やがて背後で扉が完全に閉まりきると辺りは一気に闇に包まれた。
蝋燭の仄かな灯りがなければ、厨房の灯りに慣れてしまった目では何も見えなかっただろう。
闇が音さえ吸い込んでしまったかのように、辺りはしん、と静まり返っている。
その闇を見据え、私は意を決して脚を踏み出した。
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