上 下
10 / 16

10 ランドとレオン2

しおりを挟む
「ランド、こないだの動物園は楽しかったね、ありがとう」
「・・・・・」

 僕は目の前に座っている親友に話かけた。
 親友の名前は、ランド・ヴァリアス。この国の王子だ。

 しかし、僕の声に、彼は全く反応しない。これは・・・・

「アテナ嬢とのデートは、楽しかったかい?」

びくぅ!

「な!いや!ああ!まぁ、悪くなかったな・・・」

 アテナ嬢の名前を出した途端、これだ。
 顔なんて真っ赤だよ。
 アテナ嬢、という名前を出しただけでこんな反応をする親友の姿はものすごく新鮮だ。少し前の僕は、まさかこんな彼の姿を見られるようになるなんて思わなかっただろう。

「結局動物園ではお昼を食べる時だけ一緒で、ずっと別行動だったね。ランドがアテナ嬢と一緒にいてくれたおかげで、僕もローラ嬢と楽しく動物園を満喫できたよ」

「そうか、それなら下見した甲斐があったな」

 彼、わざわざ前日に下見に行ってくれたんだよね。
 しかも、僕のお願いで。
 誰か女の子と一緒に行ってきてくれない?ってお願いしたんだ。

 うん、僕の口から、、とは言ってないんだ。

 まぁ、彼が誰と一緒に行くかなんて、それまでの様子を見れば一目瞭然だったからね。彼が今、最も気になる女の子と一緒にいくだろう、ってね。
 僕とローラ嬢を恋仲にするため、っていう立派なお題目があるわけだから、誘いやすいだろうしね。

 一応、僕らのデートの下見で行ってもらう訳だから、一緒に行く相手とは、恋人のように接してほしいとは伝えたんだ。恋人目線で見た方がより参考になる!、って理由を付けてね。ちょっと難しい注文だったかな~って思ってたけど、ローラ嬢の話を聞く限り、目の前の彼は、立派にそれを全うできたらしい。


 でも、結局動物園で別行動しちゃったから、あんまり下見してもらった意味がなくなってしまったかな~って思ったけど、彼らもなんやかんや楽しかったみたいだ。

 そうだよね、あの動物園の広さじゃ、1日では回り切れない。彼らは下見で回りきれなかったところを見て回ったようだ。


「そういえば、昨日はどうしたんだい?午後、めずらしくどこかへ出かけていたようだけど」

びくぅ!

 あ、やっぱりね。

「ね、猫と遊んでいた・・・」
「へ~、彼女の猫は可愛かったかい?」

 僕はそう自然に聞いてみた。カップの紅茶を口に運びながらね。そうしたら・・・

「ああ、俺の膝に乗ってきてな。何度も撫でた・・・。だが、彼女の可愛さには、勝てないな」

ぶぅ!!!

 僕は、思わず、口に含んだ紅茶を噴きだしてしまった!
 笑ったからじゃないよ。驚いたんだ。僕の目の前にいる彼は、本当にランドか?!ってね。
 だって、彼がそんなことを口にするなんて、全然思ってもなかったからね!

「うお!どうしたんだレオン!・・・・って、俺は今何を口走った!?」

 もう、昔からランドのこと見てるけど・・・こんな彼、見た事ないよ!
 これはもう、ゾッコンですね。完全に彼女のことしか頭にないよ。恋の病だ。

「ごめんごめん。ちょっとびっくりしちゃって。・・・ねぇランド。ちょっと落ち着いて聞いて欲しいんだけどさ。いいかい?」
「な、なんだ?」

 挙動不審に僕を見るランドに、僕は背筋を伸ばしてこう口にした。

「君は今、アテナ嬢に恋してるんだよ。間違いない。彼女のことが四六時中、頭の中から離れないだろう?」
「う・・・そんなことは・・・」
「恥ずかしがることはないんだよ。普通のことさ。僕だって、ローラ嬢の事が好きだよ。今こうやって君と話している間も、彼女の顔が頭に浮かんでるくらいさ」
「そ・・・そうなのか?」
「そうさ。それが普通のことなのさ」

 ちょっと盛って話した部分はあるけど、僕もローラ嬢のことが好きだ。でなければ、ランドとアテナ嬢の仲をくっつけるためとはいえ、何度も彼女とデートはしない。

 彼女も、友人であるアテナ嬢の幸せを心から願う、優しい女の子だ。趣味も合うんだから僕が好きにならない訳がないんだよね。


 ・・・というか、実は僕らは、もう付き合ってるんだ。この前の動物園デートで、僕は彼女に正式にプロポーズした。もう少し経てば、お互いの家同士で、婚約の手続きをとる予定だ。

 だから、僕らの婚約が発表される前に、我が親愛なる目の前の友人にも、恋人を作って欲しいんだよねぇ。

 ・・・もう少し発破をかけてみようかな。

「それにね、ランド?彼女、自分の恋愛には鈍感なようだから自覚してないと思うけど、君に好意を寄せてると思うよ。ローラ嬢もそう言ってたから間違いないはずさ。・・・でもね、彼女を狙ってる男はすごく多いんだよ?」
「な、なに!?」

 ランドは真っ赤な顔だよ。
 その表情は、嬉しさ半分、焦り半分ってところだね。すごくわかりやすいよね彼。

「ローラ嬢に聞いたんだ。女神の二つ名は伊達じゃないのさ。彼女のあの容姿に、お人好しな性格だよ?もうさ、学園中の男が狙っているんだよ。うかうかしてると、今度のダンスパーティーのお相手、誰かに取られちゃうよ?」
「う・・・」

 ふふふふ。焦ってる焦ってる。
 さーて、僕はやれるだけのことはやったし、これ以上のおせっかいはやめておこうかな。
 今度のダンスパーティーが楽しみだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

私に無関心の宰相様と結婚しました~無関心だと思っていたら、どうやら違うようです

Na20
恋愛
小説『きらめく星たちと』の悪役令嬢の母親に転生してしまった私。このままでは私は小説どおりに旦那様に愛されず病んで死んでしまう。そんな未来はお断り!私は愛ある結婚を目指します! ※ご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

稀有な魔法ですが、要らないので手放します

鶴れり
恋愛
デレッダ公爵家の隠し子、フラミーニアは珍しい【魔力転移】という魔法の持ち主。物心ついたときから屋根裏部屋に監禁され、ただ息をするだけの毎日を過ごしていた。 ところがある日偶然父の思惑を知る。 フラミーニアに求められていたのは身に宿す【魔力転移】という珍しい魔法だけだった。 「これからは誰かの為に生かされるのではなく、自分のために生きていくの」 そう決意したフラミーニアはこの魔法を手放すことに。 住む家も家族も魔力も全てを失ったフラミーニアがセノフォンテと出会い、幸せを見つけ出す物語。 ※ふんわり設定ですのでお手柔らかにお願いしますm(_ _)m ※小説家になろう様にも掲載しております。

【完結】皇太子殿下!あなたの思い描く「理想の女性」はこの世にはいません!

つくも茄子
恋愛
帝国の皇太子は眉目秀麗の天才と名高く、魔力も最高峰。十六歳になるのに何故か婚約者がいない。理由は簡単。見合いを全て台無しにしているからだ。何故そんなに婚姻するのが嫌なのか、皇太子は答える。「理想の女性を唯一人の妃にするからだ」と。問題はその「理想の女性」だ。母である皇后は断言する。「アホか!そんな女がこの世にはいない!!」。そんな中、不穏な気配を感じる公国の公女との結婚。皇太子は動く。周囲に多大な精神負担を掛けながら。 他サイトにも公開中

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

死に戻り令嬢は橙色の愛に染まる

朝顔
恋愛
※02/13 本編最終話、ヒーロー視点の二話を修正して再投稿しています。 合わせてタイトルも変更しています。 塔の上から落ちて死んだ死んだミランダ。 目が覚めると、子供の頃に戻っていた。 人生をやり直せると分かった時、ミランダの心に浮かんだのは、子供時代の苦い思い出だった。 父親の言うことに従い、いい子でいようと努力した結果、周囲は敵だらけで、誰かに殺されてしまった。 二度目の人生では、父や継母に反抗して、自分の好きなように生きると決意する。 一度目の人生で、自分を突き落としたのは誰なのか。 死の運命から逃れて、幸せになることはできるのか。 執愛の色に染まる時、全てが明らかに…… ※なろうで公開していた短編(現在削除済み)を修正して、新たにお話を加えて連載形式にしました。 プロローグ 本編12話 エピローグ(ヒーロー視点一話)

処理中です...