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09 初恋の人

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 私は殿下の言葉を聞いて、呆然となった。

 嘘?目の前にいるこの人・・・殿下が・・・あの時の子だったなんて・・・。

 私の記憶には、殿下が言うように、確かにカーテンの裏で男の子と踊った記憶がありました。
 だって、私の初恋だったんですもの。


 あの日、私は栗色のカツラを被ってダンスパーティーに参加していました。
 理由は、ダンスパーティーにオシャレな髪型で参加したい!と思い、自分で自分の髪を切った結果、短く切り過ぎてしまったからです。お父様にきつく叱られ、急遽、栗色のカツラを被っての参加となったのでした。

 そして、パーティーで退屈していた私は、カーテンの裏に潜ってどこかの貴族の令息と思わしき男の子に出会いました。
 その男の子は私と同じくらいの背でしたが、まるで絵に描いた王子様のようなかっこいい顔でした。
 その憂いを秘めたような顔に、私は思わず一方的に話しかけてしまったのです。

 思えば、ちょっと緊張していたのかもしれません、だってすごくドキドキしてたんですもの。だから、一方的にどんどん話かけ続けちゃったんでしょうね。
 そんな私に対して、その子はたまにこくりと頷くのです。その頷く姿すら、私には知的でかっこよく見えました。だからどんどん話をしていってしまったのです。

 そして、私はとうとう話すことが無くなってしまいました。どうしよう、話が終わっちゃったら、この子と一緒にいられなくなっちゃう。なぜか私はそのように思ってしまいました。
 しかしその時、彼が初めて私に口を開いてくれたのです。

「ここで・・・僕とダンスを踊ってみない?」

 私は嬉しくなりました。そして可笑しくて笑ってしまいました。
 こんなところでダンスだなんて!でもなんか素敵かも!と。

 そして、私達はカーテンの裏でダンスを踊りました。私は、彼と両手を繋ぐことができて、心臓の鼓動が早くなりました。同時に、とても嬉しくて笑顔になっていました。

 あまりに楽しくて、ずっとこのまま2人で踊っていたいな、と思ったのですが、不意に父の顔が頭に浮かんだのです。両親の側から離れていた私は、父にまた怒られちゃう!と思ったのです。
 名残惜しかったのですが、私はカーテンから出て両親の元に帰ったのでした。

 それから私は、その子のことが気になってしょうがなかったのです。
 私は次の年のダンスパーティーに参加した時に、白髪の子を探しました。でも、そんな男の子は会場のどこにもいなかったのです。

 そう、私の記憶では、その子は白髪だったのです。




「私はあの時、事情があって栗色のカツラを被っていたのです。それで・・・あの、殿下。私の記憶では、その時の彼の髪の色は白髪だった気がするのですが・・・」


 私は思い切って殿下に聞いてみました。


「ああ、そうか。僕はその頃、ストレスのせいか、髪が白くなっていたんだ。でも君のおかげで、僕は人と話すことが好きになったから、半年後には髪の色は今のとおりの黒に戻ったんだよ」

 な、なるほど!そういうことだったんですね。
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