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第二章 紫電の剣

act.40 道具の矜持

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「モニカ! そっちにいったぞ」

 俺とマキナが負傷しているモニカから離れればこうなることは想像に難くなかった。合理的に弱っているモニカを狙うのは概ねこちらの計画通りだ。あとはモニカが用意した罠へ、素直に嵌ってくれるか……

 4体の銀狼は一斉に彼女に向かって見えるが、少しづつ距離を変えている。タイミングをずらし、モニカを狙うためだ。それが分かっているならばわざわざ隙を見せるようなことはしなしい。

 モニカは動かない。水弾も微動だにしない。彼女を守る水牢の役目を全うするために不動を貫く。タイミング的な先頭の銀狼が巨大な水弾に突っ込む。銀狼はそれに砕かれるわけでも、跳ね飛ばされるわけでもなく、飲み込まれた。

 奴らが苦しいかどうかはわからないが、水の中でジタバタともがく姿は溺れた生き物の反応と変わらない。その光景を見ながらも2体目、3体目と水弾に自ら飲み込まれていく。最後の4体目だけが辛うじて直前に止まり後ろ飛び退く。

 しかし、更に後ろに控えていたマキナに首を掴まれ、水弾の中の同胞同様にもがく。

 イグナールは溺れる銀狼達を剣で切り裂いていく。動かない標的などただの素振りも同様だ。水弾に取り込まれた奴らを切り伏せ終わった頃、実験場に大きな衝撃音が鳴り響く。マキナが、捕まえた銀狼に止めを刺した音だ。

「さぁ残るはお前だけだ」

 紫電迸る剣の切っ先を扉前で呆然とする銀狼に向け言い放った。数という武器を失った守護者(ガーディアン)はもう打つ手はないだろう。だが銀狼はゆっくりとこちらに歩み出した。それは徐々にスピードを上げ、疾走へと変わる。

 彼らの役割を考えるのであるのならば、彼我の戦力差など関係はない。異物と認めた標的を排除するのが役目なのだ。たった1体になったからといっても、それは決して変わらない。そういう風に造られた運命。

 イグナールは正面から迫る銀狼を迎え討つため一歩前へ出る。紫色の雷光を放つ剣を構え、深呼吸。銀狼が跳躍する。両足を突き出し鋭い爪がむき出しなり。口は大きく開かれ牙を見せつける。

 先程までの狡猾さが嘘のような愚直で真っ直ぐな攻撃。それはただの捨て鉢なのか、たった1つの目的のために造られた道具の意地なのか……

 イグナールは牙と爪を掻い潜り、銀狼の腹を両断した。2つに分かたれたそれは無残に実験場の床に転がり、停止する。

 守護者(ガーディアン)の鈍い銀色の体が、剣に帯びた紫電の雷光を反射し妖しく光る。

第二章 紫電の剣 ―完―
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