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第二章 紫電の剣
act.21 謎の女マキナ
しおりを挟むイグナールは目を覚まし、辺りを見渡す。そこには焚火を囲む二つの影が見える。片方はモニカだが、もう一人はメイド服を着た女だが、イグナールの記憶に霞が掛かっているように思い出せないでいる。二人はイグナールが起きたことに気がつく。
「やっと起きたわね、イグナール」
モニカがイグナールに駆け寄る。イグナールは気を失う前後を思い出せずにいる。
「モニカ……いったい何があったんだ? 俺さヒューマン・スライムを倒したあとのことをあんまり覚えていないんだ」
頬に鈍い痛みが残っているが、これには何か意味があるのだろうかとイグナールは顏を抑える。
「えっと……あんまり思い出さないほうがいいんじゃないかな? それがきっとお互いのためになると言うかさ……」
顏を紅潮させ、イグナールに目を合わせずに話すモニカの言葉は、どうも煮え切らない。
「私(わたくし)が魔力を大幅に吸い上げてしまったため、記憶に少々混乱が生じているようです。ただ意識をなくされたのはモーニカ様のビン――」
「わぁあああ! マキナ、それは言わないで!」
急に騒ぎ出しメイド服の彼女の口を両手で覆った。
「これも女同士の秘密と言うやつでしょうか?」
「そ、そうよ!」
起きたばかりのイグナールにはわけがわからない。ただわかったことは、なんとも夜の森にはミスマッチなメイド服を着た彼女は、マキナと言うらしい。
「先程は非常事態とはいえ、大変不躾な事を致しました。申し訳ございませんマスター」
「マスターってのは俺のことか? 確かに俺の家にもメイドはいたけど……」
イグナールはマキナの顔をジロジロと観察する。
「ああぁぁぁぁ! お、おま、お前! きっききすの!」
彼はやっと思い出したようだ。イグナールはマキナを右手で指さし、左手は優しく唇をなぞっている。
「お、俺の大切な唇を……」
「えっと、何から説明したらいいのかしら、ちょっとイグナール落ち込むのは後にして、今は私の話を聞いてくれない?」
「お前はいいのかよ! 大事な友人が唇の貞操を奪われたんだぞ!」
パァァン!
滅多に当たらないモニカの攻撃が、取り乱しているイグナールの頬をとらえた。子気味良いくらいの音が夜の森に響き渡る。静かになった一同の間にはパチパチと燃える焚火の音だけが聞こえる。
「落ち着いた?」
「あ、あい」
モニカは笑顔だ。しかし、その奥に怒りを沸々と湧きあがらせているように見え、イグナールはそれ以上何も言えなくなった。
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