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第一章 紫電の射手
act.2 最強の両親から生まれた無能
しおりを挟む翌日、イグナールが目覚めると白いふかふかのベッドの上にいた。窓から降り注ぐ陽の光を浴び起き上がる。全身の痛みは消え去り、昨日の出来事は夢だったのかと訝しる。しかし、全身にまかれた包帯が夢ではないと教えてくれた。
「夢じゃないのか……パーティを追い出されたことも含めて……しかし何故?」
何故助かったのか、その答えは彼のすぐ近くにあった。イグナールのベッドの側に椅子を置き、彼の脚にもたれ掛かる形で突っ伏している女性、モーニカ・フォン・ハイデンライヒの存在だ。
イグナールのいた勇者パーティの一員であり、彼が冒険に出る際についてきた幼馴染である。彼女の家、ハイデンライヒ家は代々水属性の回復魔法を研究してきた貴族だ。その属性を現した海を思わせる蒼い髪を触る。潤って透き通るように綺麗な長髪はすく手のほうが心地よいとイグナールは思う。
「あ、目が覚めたんだね」
「あぁ、傷を治してくれたのはモニカなんだろ? ありがとう。世話を掛けたな……」
モニカは起き上がり微笑みかける。
「でも、まだ無理しちゃダメだよ。瀕死の状態だったけどイグナールの魔力量のおかげで完治したと思う。たぶん殆ど消費しちゃったからね。魔力が回復するまでは安静にしててね」
「……それよりも、見ていたのか? それとも知っていたのか?」
「……うん、両方」
彼の問いは昨日のディルクとのやり取りのことだ。
「お前は行かなくていいのか? 今日が出発だろう?」
「うん。でも私は元々イグナールが心配だったから付いて来てただけだし……だから私も抜けてきたの」
「いいのかよ? お前がいないとこの先大変だぞ」
「大丈夫よ。代わりの回復魔法使いを紹介したから。だから……イグナールが良くなるまで私が看るわ」
「モニカ……すまないな。俺が……俺がいつまでたっても弱いばかりに」
イグナールはモニカから目をそらし俯く。
「そんなことない! イグナールは頑張ったじゃない……確かに魔法は使えないかも知れないけど、あんなに努力して剣術を覚えたじゃない。十分戦っていけるくらい――」
「それは人間界までの話だ。魔界じゃ通じない……ディルクもそれをわかっていたから、俺をパーティから外した」
拳を握りしめ、歯を食いしばる。悔しさを抑えるイグナール。
「情けない……最強の炎魔法使いの父と最強の水魔法の母を持ちながら、どうして俺に魔法が使えないんだ! 何が常軌を逸した魔力量だ! 使えなければなんの意味もないじゃないか!」
その時、怒声と共にイグナールの体から紫電が迸った。
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