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不死の姫と魔女戦争
85 謎の黒い封書
しおりを挟む中庭での出来事から数週間が過ぎた。私の日常は今日も変わらず流れている。あれ程に非日常に憧れ、刺激を欲していた時期があったと言うのに、今ではこの日常にいつまでも浸っていたいと思える。
まぁあの非日常があったからこそ、日常の大切さを知れたのかもしれない。
「失礼いたします」
扉が開きリーザが入ってくる、お茶の時間には少し早いと思うが……彼女の手には真っ黒の物体が握られている。
「姫様、こちらを」
彼女がそれを差し出してくる。よく見ると封書のように見えるが……裏返してみると封蝋がされている。やはり封書のようだ。
「封書のようだけど……真っ黒ね。差出人がわからないわ」
何度も表と裏を見比べるが表面に文字が書かれている形跡はない。実に異質だ。もう一度、裏の封蝋を確かめる。
「うーん、盾と剣、それと狼?」
盾と剣をそれぞれ咥えた双頭の狼が描かれている。見覚えのないシンボルだ。リーザが何も言わないのを察するに、彼女にも検討はつかないのだろう。
「リーザ、これは?」
彼女にこの手紙の経緯を聞いてみる。
「今朝、見張り役が旅人から受け取ったらしいのです。その旅人は黒いローブのを着た男に、金銭を渡され頼まれたと」
怪しい。なんと回りくどいやり方だろうか。この差出人はそこまでして素性を知られたくないらしい。
「取りあえず開けてみるしかないかしら」
出どころから怪しさしかないが……この薄っぺらい封書で何が出来るわけでもないだろう。中身を確認してから判断すればいい。
封蝋を切り、中身を取り出す。中身は二つ折りにされた紙が一枚。封書の異様さ以外は至って普通の手紙だ。
「えーっと、『神の御業は、神にのみ許される』」
ただ、それだけ記されている。
「それだけなのですか?」
「そうね。意味がわからないわ。タチの悪い悪戯かしら?」
しかし、神の御業か……これに関しては思い当たる節がないわけではない。それはベルク王国の国宝である『聖槍ヴァルハラ』である。殺した者の魂を吸い、所持者に半永久の不老不死をもたらす……この世の物とは思えない代物だ。
確かにそれは神の御業と形容してよい奇跡ではあると思う。
六年前、私は王位継承の儀の際、当時の騎士団長テオドールの裏切りにより心の臓を貫かた。だが、ヴァルハラの奇跡により生き返ったのだ。それはベルクの国民の多くが目撃している。
人の口に蓋をすること叶わぬ。一時期、奇跡の力として広がったかもしれない。だが実際に目にしていなければ、そんな荒唐無稽な出来事を心の底から信じる者などいないだろう。
であるのならば、不死の軍勢(エインヘリアル)……死者の体にヴァルハラに蓄積した魂を宿らせ、不死の兵士として使役する黒い奇跡。これを用いて帝国と戦い、勝利の一助となった。その際に帝国のヘルツ騎士団長、コルネリウスに敗北と共に不死の軍勢の逸話を持ち帰らせたのだ。
ならば、これはブーゼ帝国から? しかし、謎が多すぎて判然としない。
「ねぇリーザ、お願いしたいことがあるのだけど」
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